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95:月が綺麗ですね(2)

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「菜乃花。どうしたの、ぼうっとしちゃって」
「え、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」
 呼びかけられて我に返り、菜乃花はテーブルの向かいに座る母に目を向けた。

「それならいいんだけど。この問題、わかる?」
 テレビ画面は『厳島の戦いで毛利元就に敗れ、自刃した武将は誰?』という問題が出た状態で止まっていた。

「陶晴賢」
「そうそう、はるかた! すえはるかただ!」
 母は喉に刺さっていた魚の骨がやっと取れたような顔をして、リモコンをテレビに向け、停止していた録画を再生させた。

「駄目ねえ、年を取るととっさに出てこないわ」
「よくわかったなあ、菜乃花。さすが中間で学年トップだっただけある。期末は2位で残念だったけど」
 表情からして父に悪気はないのだろう。
 でも、菜乃花は毅然と反論した。

「2位でも十分でしょ? 普段の成績も大事かもしれないけど、受験のときに実力を出せればいいんだから、1位にこだわることないと思う」

 寮で同じことを言ったとき、総司はまずい薬でも飲まされたような顔をした。
 彼の前で言うべき言葉ではなかったかもしれないが、言わずにはいられなかったのだ。

 1位はなるほど立派だが、倒れるまで頑張る必要なんてないんじゃないか。
 1位なんかより、総司の身体のほうがよっぽど大事で心配だとわかってほしかった。

「お父さんは私が無理して倒れてでも1位になってほしいと思う?」
「まさか、そんなわけないだろ」
 母にジト目で睨まれ、肘で突かれた父は慌てたように言った。

「いまのはお父さんが悪かった、ごめん。2位でも十分に立派だよ。菜乃花はお父さんの自慢の娘だ」
「ありがとう。私もお父さんの娘で良かった」
 機嫌を直してにっこり笑うと、父はほっとしたように笑った。

「お父さん、私は? お姉ちゃんみたいに出来が良くないから嫌い?」
 菜乃花の隣で妹が自分を指さす。
 春から公立の中学に通い始めた妹の成績は平均以下だ。

「まさか。二人とも俺の大事な娘だ。まだまだ嫁になんてやらんぞ」
「気が早すぎるでしょ、あなた」
 真顔の父に母が呆れ顔で言った直後、テーブルに置いていた菜乃花のスマホが震えた。
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