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75:テスト終了!
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期末テストの最終日はテストとホームルームで終わる。
部活によっては早速放課後から活動を再開するらしく、有紗と昇降口へ向かう間、部室や体育館に向かう生徒の姿をちらほら見かけた。
「数学難しかったわよね」
「うん。確率の最後の問題、16だと思ったんだけど、有紗はどう?」
「私も16と回答したわ。良かった。学年トップと同じ答えなら安心ね。コミュ英の問2の和訳って――」
出題されたテスト問題について話し合いながら階段を下り、昇降口で靴を履き替える。
日向に出る直前、有紗は黒い日傘を差した。
モデルの彼女は外出時、傘を手放さない。
モデルではない菜乃花は素肌を晒したまま外に出た。
たちまち夏の日差しが肌を焼く。
まだ七月上旬だというのに、今日の最高気温は30度。
八月になったらどれほど暑くなるのだろうと思うといまから恐ろしい。
「あ。杏ちゃん。テストどうだった?」
裏門へ向かう途中で杏に会った。
半袖の制服姿の杏は髪を下ろしている。
彼女が髪を三つ編みにまとめるのはメイドをしているときだけだ。
「まあまあってところかしら。全科目中間より出題範囲が広くなったから、やっぱり難しかったわね。特に化学」
「だよね! 化学の平均点はかなり低そう。数Aも中間より下がるんじゃないかな。千影くんは大丈夫だったかな……」
テスト期間中ずっと、菜乃花は自分のテスト結果より何より彼のことが気がかりだった。
「赤点だったら園田さんとはさよならか。一か月、長いようで短い間だったわね……」
杏はきらりと眼鏡を輝かせ、晴れ渡った夏の青空を仰いだ。
「ちょっと、縁起でもないこと言わないで!」
杏を交えて三人で歩き、やがて裏門に着く。
黒塗りの高級車の中には既に千影がいた。
総司たちの姿はない。
2年生である彼らは1年生よりテスト科目数が多いため、総司の車に皆で同乗して帰るはずだ。
車窓越しに目が合うと、千影は露骨に目を逸らした。
(……あ。これは、テスト結果が良くなかったんだな……?)
暑さで噴き出た汗とは別種の汗が頬を滑り落ちていく。
一部始終を目撃していた二人も全てを察したようで、有紗は青い顔で目を伏せているし、杏はハンカチで目を押さえている。
「……いままでありがとう、園田さん」
「だからまだ千影くんが赤点取ったって決まったわけじゃないから!」
威嚇する猫のように歯を剥いてみせ、運転手が開けてくれたドアから車内に乗り込む。
菜乃花は千影の隣、有紗たちは前列の座席に座った。
「……千影くん。テスト、どうだった?」
爆弾に触れるような心地で、おっかなびっくり尋ねると、千影は頭を下げた。
「ごめん」
開口一番謝罪ということは相当に低い点数を取った自覚があるらしい。
「………………」
0号館で過ごした日々が走馬灯のように頭の中を巡る。
できることならずっとこのまま0号館にいたかったが、どうやらそうもいっていられないようだ。
部活によっては早速放課後から活動を再開するらしく、有紗と昇降口へ向かう間、部室や体育館に向かう生徒の姿をちらほら見かけた。
「数学難しかったわよね」
「うん。確率の最後の問題、16だと思ったんだけど、有紗はどう?」
「私も16と回答したわ。良かった。学年トップと同じ答えなら安心ね。コミュ英の問2の和訳って――」
出題されたテスト問題について話し合いながら階段を下り、昇降口で靴を履き替える。
日向に出る直前、有紗は黒い日傘を差した。
モデルの彼女は外出時、傘を手放さない。
モデルではない菜乃花は素肌を晒したまま外に出た。
たちまち夏の日差しが肌を焼く。
まだ七月上旬だというのに、今日の最高気温は30度。
八月になったらどれほど暑くなるのだろうと思うといまから恐ろしい。
「あ。杏ちゃん。テストどうだった?」
裏門へ向かう途中で杏に会った。
半袖の制服姿の杏は髪を下ろしている。
彼女が髪を三つ編みにまとめるのはメイドをしているときだけだ。
「まあまあってところかしら。全科目中間より出題範囲が広くなったから、やっぱり難しかったわね。特に化学」
「だよね! 化学の平均点はかなり低そう。数Aも中間より下がるんじゃないかな。千影くんは大丈夫だったかな……」
テスト期間中ずっと、菜乃花は自分のテスト結果より何より彼のことが気がかりだった。
「赤点だったら園田さんとはさよならか。一か月、長いようで短い間だったわね……」
杏はきらりと眼鏡を輝かせ、晴れ渡った夏の青空を仰いだ。
「ちょっと、縁起でもないこと言わないで!」
杏を交えて三人で歩き、やがて裏門に着く。
黒塗りの高級車の中には既に千影がいた。
総司たちの姿はない。
2年生である彼らは1年生よりテスト科目数が多いため、総司の車に皆で同乗して帰るはずだ。
車窓越しに目が合うと、千影は露骨に目を逸らした。
(……あ。これは、テスト結果が良くなかったんだな……?)
暑さで噴き出た汗とは別種の汗が頬を滑り落ちていく。
一部始終を目撃していた二人も全てを察したようで、有紗は青い顔で目を伏せているし、杏はハンカチで目を押さえている。
「……いままでありがとう、園田さん」
「だからまだ千影くんが赤点取ったって決まったわけじゃないから!」
威嚇する猫のように歯を剥いてみせ、運転手が開けてくれたドアから車内に乗り込む。
菜乃花は千影の隣、有紗たちは前列の座席に座った。
「……千影くん。テスト、どうだった?」
爆弾に触れるような心地で、おっかなびっくり尋ねると、千影は頭を下げた。
「ごめん」
開口一番謝罪ということは相当に低い点数を取った自覚があるらしい。
「………………」
0号館で過ごした日々が走馬灯のように頭の中を巡る。
できることならずっとこのまま0号館にいたかったが、どうやらそうもいっていられないようだ。
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