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73:テスト前の勉強会(2)

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 有紗の手元には数学の問題集とルーズリーフがあり、彼女の右隣にはメイド服ではなく、Tシャツと短パンを着た杏がいる。

 トレードマークの三つ編みを解き、クロスにしたヘアピンで前髪を留めた杏はミルクティーを飲んでいた。
 杏はコーヒーより紅茶派だ。

「うん。千影くんも一緒に来ないかって誘ったけど、一人で勉強するって断られちゃった」
 有紗の隣の椅子を引いて座り、鞄の中身を机に置く。

「そう。天坂先輩みたいに一人で集中したほうが捗るタイプなのかしらね」
 総司はこの一週間、部屋にこもっている。
 食事すら部屋に運んでもらっているため、二日前、学校から帰ってきたときに偶然廊下で顔を合わせたきりだ。

「菜乃花ちゃんがいると意識しちゃって勉強どころじゃねーんだろーな」
 口の中にスナック菓子を放り込んで、大河がにやりと笑った。
 彼が片手に持っている飲み物はカフェオレらしい。

 彼は気分によってコーヒーをブラックのまま飲むときもあれば、砂糖やミルクを大量に入れるときもある。

「そ、そんなことは……」
「菜乃花ちゃんさー、千影に告ったでしょ?」
「!?」
 思わず杏を非難の目で見てしまったが、杏は首を振った。

「冤罪よ。私は何も言ってない」
 首を振ったことでずれたのか、杏は眼鏡のつるを人差し指で押し上げた。

「お、ってことは伏見ちゃんは知ってたんだ? 仲いいもんなー二人とも。でも伏見ちゃんは何も言ってないぜ。言われなくても空気でわかる。な?」
「はい。お二人の態度を見れば瞭然ですね」
「告白したのは歓迎会当日か、そのあたりでしょうね」
 要が、続いて有紗が言った。

「…………」
 壁際に立つ守屋を無言で見る。
 彼はただ微笑んでいるが、どうやら彼も察しているらしい。
 この分だと0号館の使用人全員が知っていてもおかしくはなく、菜乃花の頬を汗が滑り落ちた。

「良かったわね、みんなあなたの恋路を生温かく見守ってくれてるわよ」
 杏がミルクティーを啜って言う。

「嬉しくない……」
 羞恥で菜乃花の顔は赤くなった。

「いやでも、菜乃花ちゃんが千影を好きなのは割と初期からバレバレだったよな」
「好きでなければ総司様に弟の扱いが酷いと文句を言われたりしないでしょうしねえ」
 菜乃花が総司の部屋に乗り込んだ日のことを回想しているのか、要が炭酸の入ったぶどうジュースを飲みながら爽やかに笑う。

「目から『千影様好き好きビーム』が常時出てますしね」
 杏が無表情で悪ノリする。

「歓迎会のときも天坂くんにリボン結んでってねだってたしね。好きでもなきゃ同級生の異性にそんなこと頼んだりしないわよね」
 有紗の指摘は冷静だ。

「もう止めてくださいお願いします……」
 寄ってたかってネタにされ、菜乃花はトマトのように赤くなった顔を覆って懇願した。
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