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72:テスト前の勉強会(1)

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「あと何かわからないところある?」
 七月上旬の土曜日。
 月曜開始の期末テストに備え、菜乃花は朝から千影の部屋を訪れていた。

 昼食を挟んで再び家庭教師を務め、ふと左腕に巻いた腕時計に視線を落とせば、時刻は午後三時を回っている。

「いや、大丈夫。全科目一通り基礎は教えてもらったし、後はひたすら問題を解いて数をこなす段階だと思う。園田さんだって自分の勉強があるんだ。俺のことは構わず、テストまで自分の勉強に集中してくれ」
「……わかった。もしわからない問題があったら、遠慮なく聞きに来てね」
「ああ。ありがとう」
 千影は軽く頭を下げた。

 菜乃花と目を合わせようとしないのは、やはり歓迎会の翌日の出来事が影響しているのだろう。
 あれから彼は菜乃花を意識しているようで、これまでになかった反応を見せるようになった。

 そうなると菜乃花も意識せずにはいられず、つられて対応が少々ぎこちなくなってしまい、両者の間には始終奇妙な緊張感が漂っている。

 皆がいると平気なのだが、こうして二人きりになるとどうにも気まずさが拭えない。

 この変化は喜ぶべきことなのだろうが、これまではもっと気軽に見せてくれていた笑顔の頻度が減ったこともあり、菜乃花の心中は少々複雑だった。

「私、大広間に行くけど。千影くんも来る?」
 持参した教科書や参考書を鞄に詰めながら問う。

 一週間ほど前から大広間は勉強会会場となっている。

 超進学校の五桜学園では何より学力が重視され、勉強についていけない生徒は容赦なく切り捨てられるため、どんな生徒であろうとテストには本気で臨む。

 普段は女子友達と遊び惚けている大河もいまばかりは真剣な表情でシャーペンを走らせているし、杏も要も使用人から五桜学園のいち生徒に戻り、勉学に集中していた。

「いや、一人で勉強するからいいよ」
「そっか。じゃあ、またね」
 菜乃花は鞄を肩にかけて千影の部屋を出た。

 部屋の扉を閉めた瞬間、ため息が零れる。

 ポニーテイルにした頭を振って気持ちを切り替え、階段を下りて大広間に向かうと、天坂兄弟以外の寮生全員がいた。

 勉強会にあたって大広間の家具の配置は少々変更され、長机と椅子がセットされた特殊スペースが出現している。

 長机の左右で男女が分かれていた。
 右側が女性陣、左側が男性陣だ。

 ちょうど休憩中だったらしく、机に広げた参考書や問題集はそのままに、皆はお茶を飲んでいた。

「あら。家庭教師は終わったの?」
 氷が浮かんだアイスコーヒーを片手に有紗が訊いてきた。
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