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64:歓迎会(3)

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「歓迎会を開けば、園田さんが住人全員に歓迎されてることがわかるんじゃないかって思ったんだ。0号館の一員になったことを実感すれば、もうあんなふうに不安に取りつかれたりしないだろ?」

 千影は相変わらず淡々とした口調で――感情を交えないが故に、嘘も虚飾もない、真摯な言葉を紡いで、菜乃花を見つめた。

(私のためにそこまで考えてくれてたなんて……)
 胸がじんわりと温かくなる。

 自分のことを考えてくれただけでも嬉しいのに、彼は歓迎会を企画しただけではなく、現実に実行した。
 彼の生真面目な性格からして、使用人に一言命じて終わったわけがない。
 彼自身も風船を膨らませたり、折り紙を切って丸めたりと、歓迎会の準備に勤しんだはずだ。

 菜乃花の推測を裏付けるように、千影の左手の薬指と中指には絆創膏が巻いてある。
 今朝一緒に食事を摂ったときにはなかったものだ。

「たとえこの先どれだけ優秀な人が現れたとしても、俺の家庭教師は、俺が家庭教師になってほしいと思う人は、園田さんだけだ」
 まっすぐに見つめられて、菜乃花は唇を噛んで溢れそうになる涙を堪えた。

「俺は馬鹿すぎて実家では見放されたけど、園田さんはわからないと言えば根気よく1から基礎を教えてくれる。テストで20点取れたことを俺以上に喜んで、褒めてくれる。俺に勉強する喜びを教えてくれたのは園田さんだよ。本当に感謝してるんだ。追い出される夢なんてもう見なくていい。俺は赤点なんて取らない……ように頑張る」
 千影は窺うように、ちらりと総司を見た。

「うん。千影が赤点さえ取らなければ園田さんはずっとここにいられるよ。関係者の許可は取りつけたし、手続きも終わったからね」
 総司は愛想よく笑った。
 素を知らない有紗がいるため、猫被りモード発動中だ。

「……頑張る。ちょっとずつ点数も上がってきてるし、期末では、きっと……いや、絶対」
 この場にいる全員の視線を浴びた千影は繰り返し、首を縦に二度振った。

「そんなことよりプレゼントだ」
 この話題を続けるとプレッシャーに潰されてしまいそうになるのか、千影はすっくと立ち上がり、部屋の隅に積まれていた箱の一つを持ってきた。
 赤いリボンがかけられた小さな箱だ。

「歓迎プレゼント兼、誕生日プレゼント。気に入ってもらえるといいんだけど……」
 千影はあまり自信がなさそうな顔で小箱を手渡してきた。
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