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62:歓迎会(1)

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 フードコートで昼食を摂り、ショッピングモール内を歩き回って疲れた頃にクレープを食べ、他愛ないお喋りを楽しむ。
 そうして休日を満喫し、迎えの車を呼んで0号館に戻ったときは午後六時半を過ぎていた。

「お帰りなさいませ。お荷物、お部屋までお持ちいたします」
「ありがとう」
 荷物を持ってくれた使用人と有紗の三人で階段を上る。

「菜乃花。荷物を置いたら大広間に来てちょうだい」
「? うん、わかった」
 菜乃花は部屋に荷物を置くと、言われた通りに階下へ降りた。

 廊下を歩いて大広間に続く扉を開けた、直後。

「お帰り菜乃花ちゃーん!」
「0号館へようこそ」
「ようこそ菜乃花!」

 そんな声と同時に、複数のクラッカーによる激しい音が鳴り響いた。
 菜乃花めがけて大量の紙吹雪が舞い、色とりどりの紙片が頭や肩に乗る。

「!?」
 菜乃花はびっくりして固まった。
 扉の前で待ち構えていたらしく、菜乃花の前にはクラッカーを手にした寮生たちが立っている。
 明るい笑顔の三人に比べて、千影のそれはだいぶ控えめな笑顔だった。

 彼らがいる部屋の中――大広間は折り紙を輪にして連ねた装飾や花で彩られ、ハート型や星型の風船がいくつも浮かび、テーブルには美味しそうな料理が並んでいる。

 いつもと違うオードブルだ。
 見慣れたはずの大広間は見知らぬ異空間、まさにパーティー会場となっていた。

「……何事?」
 目をぱちくりする菜乃花の足元ではまだ紙吹雪が舞っている。

「はいどうぞー」
 大河は有無を言わせず『私が主役』と書かれた紅白のたすきを菜乃花にかけた。

「こっち来て」
 千影が手を引いて菜乃花を部屋の中心へと誘う。
 彼が進んでこんなことをするとは思えないので、事前に打ち合わせでもしていたのだろう。

「ということで、園田さんの歓迎会を始めます」
 やや緊張した面持ちで千影が言った。

『いえーい!!』
 大河と有紗が歓声を上げ、拳を天井に向かって突き上げる。
 壁際の使用人たちと総司は笑顔で拍手した。

「歓迎会……?」
 まだ事態についていけず、菜乃花は目を白黒させた。

「ふふ。びっくりした?」
 有紗が笑う。

「びっくりするよ! 歓迎会って、私のために?」
「そうそう。突っ立ったまんまなのもあれだし、座って座って」
 大河が菜乃花の後ろに回り込んで両肩を掴み、ソファの中央に座らせた。
 皆もそれぞれソファに座る。
 有紗と千影が菜乃花の左右、向かいのソファに総司と大河という席順だ。

「実はね、今日菜乃花を外へ連れ出してって頼んできたのは天坂くんなのよ。誕生日ももうすぐだし、誕生日会も兼ねて菜乃花の歓迎会をしたいって」
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