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40:友達になりましょう(1)

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 有紗の部屋は同じ二階にあるが、わざわざ訪れたことはない。
 扉は菜乃花の部屋のそれと変わらないのに、まるで違うものに感じて、緊張に喉が渇く。
 女王の部屋を訪れる臣下はこんな気持ちなのかもしれない。

(…………行くぞ。頑張れ私)
 深呼吸して、菜乃花は右肩にかけた重い鞄を持ち直し、扉をノックした。

「園田です。夜にごめんね。江波さん、起きてる?」
「……何の用かしら」
「話をしたいの。開けてもらえない? 嫌なら、私の部屋でも大広間でもいいから、一緒に来てほしい」
 遠慮するわ、といった冷たい返事を覚悟して待つ。

 ややあって、扉が開いた。
 有紗は半袖のパーカーにシャツ、黒の短パンを履いていた。
 スリッパの色はパステルブルー。

「何、その鞄」
 有紗は菜乃花が肩にかけている大きな鞄を見て、訝しんだ。

「中身は後で見せるよ。入っていい?」
「……。散らかってていいなら、どうぞ」
 いかにも渋々といった様子で、有紗は部屋に招いてくれた。
 散らかっていると言ったものの、そんなことはなく、部屋は綺麗に整頓されていた。

 全体的に小物が多い。雑貨が好きなようだ。
 有紗は菜乃花に勉強机の立派な椅子を勧め、自分は折り畳み式の丸い椅子に座った。

「それで、何の用なの?」
 有紗の視線は冷ややかだが、彼女がこんなふうにまっすぐ自分を見るのは珍しいので――大抵、彼女は視線を合わせようともしてくれない――菜乃花は少し嬉しかった。

「さっき、伏見さんと話して思ったの。私、やっぱり江波さんと友達になりたいって」
「私と友達になったって、何のメリットもないわよ。デメリットなら履いて捨てるほどあるでしょうけどね。あなた、望んで私の引き立て役になりたいの? 鏡を見て言ってる?」
 有紗は細く長い足を組み、失笑した。
 馬鹿にしきった態度だが、腹は立たない。
 わざと憎まれ口を叩いて菜乃花を遠ざけようとするのがわかって、ただ悲しい。

「うん。鏡は毎日見てるし、私は美人じゃないってよく知ってる。それに引き換え、江波さんは超美人だから、私は引き立て役になるだろうね。でも、私、カスミソウ好きだし、刺身のツマも好きなんだ」
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