36 / 107
36:クールビューティー(2)
しおりを挟む
「ノートのコピーは夕食の前に渡すわね」
「ありがとうございます……」
「どういたしまして」
まるで機械のような棒読みで言って、有紗は本を読み始めた。
(走行中の車内で読書しなくても……そんなに私と話したくないの?)
0号館で暮らし始めて一週間、菜乃花はこれまで何度となく有紗に話しかけ、仲良くなろうと試みた。
冷たくあしらわれてもめげずに頑張ってきたが、そろそろ心が折れそうだ。
「元気出せ、園田ちゃん。有紗ちゃんがクールなのはいまに始まったことじゃねーし、誰にでもそうだよ」
落ち込む菜乃花を見かねたらしく、後ろから声をかけられた。
菜乃花の後ろの座席に座っているのは、精悍な顔立ちをした乾大河《いぬいたいが》。
2年A組の彼は総司の友人で、明るく社交的な性格をしている。
彼もまた大企業の御曹司なのだが、言葉遣いは荒く、言動も軽薄だ。
素の総司がお世辞にも上品とは言い難い言葉遣いをするのは、彼の影響だと菜乃花は踏んでいる。
ちなみに総司は彼専用の車で送迎されているため、この車には乗っていない。
大河の隣に座っているのは千影だ。
彼はやり取りに興味を示さず、車窓から外を眺めていた。
「俺だって有紗ちゃんって呼んで反応してもらうまで、一か月近くかかったんだぜ? 仲良くなりたいなら根気よく頑張りな。デレると面白いからこの子。頑張る価値あるぞ」
大河はぐっ、と親指を立ててみせた。
「……そうですか」
我関せずといった顔で読書に耽る有紗を見ていると、張り切って「頑張ります!」とは言えず、菜乃花はそれだけ返すのが精いっぱいだった。
「江波さんが冷たくてつらたん」
午後九時過ぎ。
菜乃花はベッドに身を投げ出し、枕を抱いて愚痴っていた。
「うわあ……つらたんとか、日常生活で使う人初めて見たわ。それはもう古語の領域じゃない? 言ってて恥ずかしくない?」
足音が聞こえて、ベッドが少しだけ斜めに沈んだ。
枕を抱きしめたまま、寝返りを打って身体ごと右を向けば、杏が呆れ顔で菜乃花を見下ろしている。
ベッドが沈んだのは、彼女がベッドの端に腰を下ろしたからだ。
「『スウィート・マイ・ガール』の菊池《きくち》ここあの口癖なんだよ。あの子、愚痴ばっかり言うネガティブ彼女で。ホーム設定したらよく『つらたん』って言うから、私も真似して使ってみた」
「使うべきじゃないわね。イタイ人にしか見えないわよ。園田さん、ただでさえ友達いないんでしょう。未来の友達まで失うことになりかねないわ」
「わかってるよー! 杏ちゃんの前でしか使わないよ、ちょっと甘えただけじゃない」
枕を放って、菜乃花は起き上がった。
「ありがとうございます……」
「どういたしまして」
まるで機械のような棒読みで言って、有紗は本を読み始めた。
(走行中の車内で読書しなくても……そんなに私と話したくないの?)
0号館で暮らし始めて一週間、菜乃花はこれまで何度となく有紗に話しかけ、仲良くなろうと試みた。
冷たくあしらわれてもめげずに頑張ってきたが、そろそろ心が折れそうだ。
「元気出せ、園田ちゃん。有紗ちゃんがクールなのはいまに始まったことじゃねーし、誰にでもそうだよ」
落ち込む菜乃花を見かねたらしく、後ろから声をかけられた。
菜乃花の後ろの座席に座っているのは、精悍な顔立ちをした乾大河《いぬいたいが》。
2年A組の彼は総司の友人で、明るく社交的な性格をしている。
彼もまた大企業の御曹司なのだが、言葉遣いは荒く、言動も軽薄だ。
素の総司がお世辞にも上品とは言い難い言葉遣いをするのは、彼の影響だと菜乃花は踏んでいる。
ちなみに総司は彼専用の車で送迎されているため、この車には乗っていない。
大河の隣に座っているのは千影だ。
彼はやり取りに興味を示さず、車窓から外を眺めていた。
「俺だって有紗ちゃんって呼んで反応してもらうまで、一か月近くかかったんだぜ? 仲良くなりたいなら根気よく頑張りな。デレると面白いからこの子。頑張る価値あるぞ」
大河はぐっ、と親指を立ててみせた。
「……そうですか」
我関せずといった顔で読書に耽る有紗を見ていると、張り切って「頑張ります!」とは言えず、菜乃花はそれだけ返すのが精いっぱいだった。
「江波さんが冷たくてつらたん」
午後九時過ぎ。
菜乃花はベッドに身を投げ出し、枕を抱いて愚痴っていた。
「うわあ……つらたんとか、日常生活で使う人初めて見たわ。それはもう古語の領域じゃない? 言ってて恥ずかしくない?」
足音が聞こえて、ベッドが少しだけ斜めに沈んだ。
枕を抱きしめたまま、寝返りを打って身体ごと右を向けば、杏が呆れ顔で菜乃花を見下ろしている。
ベッドが沈んだのは、彼女がベッドの端に腰を下ろしたからだ。
「『スウィート・マイ・ガール』の菊池《きくち》ここあの口癖なんだよ。あの子、愚痴ばっかり言うネガティブ彼女で。ホーム設定したらよく『つらたん』って言うから、私も真似して使ってみた」
「使うべきじゃないわね。イタイ人にしか見えないわよ。園田さん、ただでさえ友達いないんでしょう。未来の友達まで失うことになりかねないわ」
「わかってるよー! 杏ちゃんの前でしか使わないよ、ちょっと甘えただけじゃない」
枕を放って、菜乃花は起き上がった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
田中天狼のシリアスな日常
朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ!
彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。
田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。
この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。
ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。
そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。
・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました!
・小説家になろうにて投稿したものと同じです。
不撓導舟の独善
縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。
現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。
その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。
放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。
学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。
『なろう』にも掲載。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜
嶌田あき
青春
高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。
完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。
そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる