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33:君に内緒話をひとつ(2)

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「兄貴を好きになったから別れて欲しいって言われたときはショックだったけどさ。琴原さんは正直にそう伝えてくれたし、ちゃんと『ごめん』って謝って、頭を下げて、筋を通してくれた。兄貴が好きなら俺を利用して近づくこともできたのに、琴原さんはそうはしなかった。自分の気持ちに素直で、まっすぐな、いい人なんだよ。そういう人だから好きになったんだ」
 好き。
 他人に向けられた言葉が、棘のように胸に刺さる。

『友達』という線引きがされた菜乃花には、欲しくても貰えない言葉。

「キツイこと言うようだけど。俺が納得してるんだから、園田さんがどうこう言うのはおかしいだろ。本当に特待生資格を取り消されたらどうするんだ。もう二度とこんなことしないで」
「……うん。ごめん……」
 返す言葉もなく、菜乃花はますます深く俯いた。

 何も言えない。
 身体が重くて、指一本動かす気力も沸かない。

(……そっか。そうだよね。私は本当に馬鹿なんだな……友達想いが過ぎるって、つまり『重い』ってことじゃない……千影くんは優しいからはっきり言えないだけで、私の行動は迷惑でしかなかったんだ。琴原さんにも悪いことしちゃったな。彼女だって、酷いことしたと自覚してるからこそ私によろしくねって頼んできたのに、ブチ切れて襲い掛かっちゃったよ……こいつ何なんだって思っただろうし、怒るのも当然だわ……さっきは渋々謝ったけど、今度会ったらちゃんと謝ろう……)
 うまく働かない頭の片隅でそんなことを考える。

 千影が無意味な停滞に飽きて、そろそろ行こうと言い出すことを待つ。
 ぼうっと突っ立って、どれくらいの時間が立っただろうか。

「兄貴のファンが大勢いるの、知ってるだろ」
 いきなり、千影がそんなことを言った。

「? うん」
 何を言い出すのかわからず、菜乃花は顔を上げた。

「五桜だけじゃなくて、他の学校にまでファンがいるんだ。文化祭では兄貴のファンが押し寄せるし、体育祭では兄貴が活躍するたびに黄色い歓声が飛ぶ。何をしたってどこにいたって兄貴は人気者で、琴原さんだけに兄貴を好きになるなって言うのは無理なんだよ。だって、俺と兄貴を比べたら、百人が百人とも兄貴のほうが魅力的だって言うからな」
「そんなことないよ。私は千影くんのほうが好き」
「ありがとう」
 こういう言葉を口にするとき、菜乃花はいつだって大真面目だというのに、千影は取り合わない。
 彼の表情筋は無で固定されたままだ。

(これお世辞だと思ってるやつだわ)

 それだけ彼は家族から周囲の人間から「お前は兄に劣っている」と言われ続けてきたのだと思うとやるせない気持ちになる。
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