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28:全ては三次元美少女のせいでした(1)
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「元気出して。確かに先輩は格好良いけど、千影くんだって十分格好良いよ!」
もはや呑気に昼食を堪能している場合ではなく、菜乃花は急いで水を含み、口の中のものを飲み下して言った。
「気休めは止してくれ。『あの天坂総司の弟なんだからさぞかし美形に違いない』って勝手に期待されて、知らない女子に呼び出されて、いざ顔を合わせてみたら露骨にがっかりされたり舌打ちされたことが何回あると思ってるんだ……」
「そんなことが……」
「外見だけじゃなく、学校の成績だって兄貴には遠く及ばない。今日も担任にため息をつかれたし」
「何。何があったの?」
上体を寄せる。
言いづらいらしく、千影は間を置いてから答えた。
「……数Aの小テストが返ってきたんだけど。結果は9点で」
「……100点満点?」
「100点満点」
顔を伏せたまま、千影が頷く。
「授業が終わった後、廊下に呼び出されて。こんな成績で恥ずかしくないのか、少しは兄貴を見習えって言われた。兄貴は抜き打ちテストだろうと100点以外取ったことないんだとさ……あんな規格外の化け物と一緒にされても……なんであれが俺の兄貴なんだ……羨ましいとか言う奴は正気か? 兄弟になってみろよ、地獄だぞ……」
千影は顔を覆い、ぶつぶつ呟いた。だいぶストレスが溜まっているようだ。
「これから頑張って点数を上げていけばいいじゃない。期末テストで最高点を叩き出して、担任を見返してやろう、ね?」
腰を浮かせてテーブルに身を乗り出し、左手で彼の腕をぽんぽんと叩く。
「……そうだな。頑張るって決めたんだし、頑張らないとな」
自分に言い聞かせるように言って、ようやく千影は顔を上げた。
(9点。100点満点のテストで9点かー、うーん、これはちょっと本気で頑張らないと。学年トップを目指すなんて、いまの学力じゃ夢のまた夢だな。まずは赤点回避を第一の目標として掲げよう。期末テストで赤点だったら、夏休みが補習で潰れちゃうし。家庭教師として、生徒に赤点を取らせるわけにはいかないわ!)
改めて決意を固め、菜乃花は茶碗に残っていた白米を口に運び、昼食を食べ切った。
「ねえ、『東大賢人』さんの動画は見た?」
『東大賢人』は大手動画サイトで高校生向けの授業を配信している男性だ。
彼の授業はとても面白く、コメント欄から送られた質問にも丁寧に答えてくれるため、菜乃花は千影に見るよう勧めていた。
「ああ、面白かった。世界史の教科書を読んでるとすぐ眠くなるんだけど、あの人の動画を見てると興味がわいた。真面目に勉強してみようかなって気になれた」
「良かった」
菜乃花はにこっと笑った。
「毎日の日課として一回は見てね。世界史は『東大賢人』さんが抜群に面白くてお勧めなんだけど、数学に関しては『猿でもわかる』シリーズでおなじみの『猿飛モスケ』って人がわかりやすくて――」
お勧め動画を一通り教え、9点だったテストはまた今日の夜に復習することを約束し、一息ついて水を飲む。
話し込んでいたせいで、コップの氷は溶けてなくなり、すっかり温くなっていた。
食べ終わったし、そろそろ行こうか、と言おうとしたときだった。
「天坂くん。久しぶり」
斜め後ろから遠慮がちな声が聞こえて、菜乃花は振り返った。
そこに立っているのは、精巧に作られた人形のように可愛らしい少女だった。
ふわふわと波打つ亜麻色の髪、ぱっちりとした大きな目。
小柄ながら胸は大きく、それでいて腰は細い。
もはや呑気に昼食を堪能している場合ではなく、菜乃花は急いで水を含み、口の中のものを飲み下して言った。
「気休めは止してくれ。『あの天坂総司の弟なんだからさぞかし美形に違いない』って勝手に期待されて、知らない女子に呼び出されて、いざ顔を合わせてみたら露骨にがっかりされたり舌打ちされたことが何回あると思ってるんだ……」
「そんなことが……」
「外見だけじゃなく、学校の成績だって兄貴には遠く及ばない。今日も担任にため息をつかれたし」
「何。何があったの?」
上体を寄せる。
言いづらいらしく、千影は間を置いてから答えた。
「……数Aの小テストが返ってきたんだけど。結果は9点で」
「……100点満点?」
「100点満点」
顔を伏せたまま、千影が頷く。
「授業が終わった後、廊下に呼び出されて。こんな成績で恥ずかしくないのか、少しは兄貴を見習えって言われた。兄貴は抜き打ちテストだろうと100点以外取ったことないんだとさ……あんな規格外の化け物と一緒にされても……なんであれが俺の兄貴なんだ……羨ましいとか言う奴は正気か? 兄弟になってみろよ、地獄だぞ……」
千影は顔を覆い、ぶつぶつ呟いた。だいぶストレスが溜まっているようだ。
「これから頑張って点数を上げていけばいいじゃない。期末テストで最高点を叩き出して、担任を見返してやろう、ね?」
腰を浮かせてテーブルに身を乗り出し、左手で彼の腕をぽんぽんと叩く。
「……そうだな。頑張るって決めたんだし、頑張らないとな」
自分に言い聞かせるように言って、ようやく千影は顔を上げた。
(9点。100点満点のテストで9点かー、うーん、これはちょっと本気で頑張らないと。学年トップを目指すなんて、いまの学力じゃ夢のまた夢だな。まずは赤点回避を第一の目標として掲げよう。期末テストで赤点だったら、夏休みが補習で潰れちゃうし。家庭教師として、生徒に赤点を取らせるわけにはいかないわ!)
改めて決意を固め、菜乃花は茶碗に残っていた白米を口に運び、昼食を食べ切った。
「ねえ、『東大賢人』さんの動画は見た?」
『東大賢人』は大手動画サイトで高校生向けの授業を配信している男性だ。
彼の授業はとても面白く、コメント欄から送られた質問にも丁寧に答えてくれるため、菜乃花は千影に見るよう勧めていた。
「ああ、面白かった。世界史の教科書を読んでるとすぐ眠くなるんだけど、あの人の動画を見てると興味がわいた。真面目に勉強してみようかなって気になれた」
「良かった」
菜乃花はにこっと笑った。
「毎日の日課として一回は見てね。世界史は『東大賢人』さんが抜群に面白くてお勧めなんだけど、数学に関しては『猿でもわかる』シリーズでおなじみの『猿飛モスケ』って人がわかりやすくて――」
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話し込んでいたせいで、コップの氷は溶けてなくなり、すっかり温くなっていた。
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「天坂くん。久しぶり」
斜め後ろから遠慮がちな声が聞こえて、菜乃花は振り返った。
そこに立っているのは、精巧に作られた人形のように可愛らしい少女だった。
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