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14:私付きのメイドさん(1)

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 0号館の二階、自室としてあてがわれた北西の部屋。
 机に座り、参考書をめくっていると、壁際に控えていたメイドが言った。

「園田様。六時五分前でございます。そろそろご準備を」
「うん……。ねえ。何度も言ってるけど、『様』付けは止めてもらえない?」
 参考書を閉じ、黒いトートバッグを机の上に置く。
 メイドは頼まずとも傍にやってきて、トートバッグに参考書や教科書を入れてくれた。

「クラスは違うけど、同級生だよね? 私たち」
「どうぞご理解ください。私は天坂家に仕えるメイド、園田様は総司様の大事な客人です。丁重にもてなすよう厳命されております」
 落ち着き払った口調でそう答えたのはメイド服に身を包んだ三つ編み眼鏡の少女、1年G組の伏見杏《ふしみあんず》。

 杏は「メイドの個人情報などお気になさらないでください」と言い張ったのだが、菜乃花が「いや絶対学校で会ったことあるよね。見たことあるもの」と食い下がり、フルネームと所属クラスを聞き出した。

「もてなしたいっていうなら、友達みたく普通に接してよ。命令って言ったら聞いてくれる?」
「……ご命令とあれば。仕方ありませんね」
 根負けしたらしく、杏は頷いた。

「では――いえ。じゃあ。なんて呼んだらいい?」
「菜乃花でいいよ!」
 同い年の友人を作るチャンスに、菜乃花は目を輝かせた。

「園田さんでいくわ。さすがに主人の客人を呼び捨てにはできない」
「……。聞いてきたのは伏見さんのほうなのに……」
「ふふ。ごめんなさいね?」
 杏はちょっとした悪戯がバレた子どもみたいに笑い、持ちやすいように取っ手を菜乃花に向け、トートバッグを差し出してきた。

「どうぞ。行ってらっしゃいませ」
 菜乃花はこれから千影の部屋に行く。

 0号館の夕食は七時に大広間で皆一緒に食べる形式となっているので――事前に言えばタイミングをずらすこともできるし、皆と顔を合わせるのが嫌なら部屋まで運んでもらうこともできる――夕食までの間、一時間だけ勉強を教えることになっていた。

 千影は引っ越したばかりで大変だろうし、明日からでいいと言ったのだが、菜乃花が強引に押し通した。

 引っ越しと言っても荷運びは全て使用人がやってくれたし、梱包作業や荷解きだってほとんど彼らがしてくれた。

 疲れているかと訊かれれば全く疲れてない。元気溌剌だ。
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