上 下
4 / 107

04:謝りすぎ

しおりを挟む
「天坂くんが犯人扱いされて、無関係な生徒にあれこれ言われるのが嫌だったから。そもそもちょっと肩がぶつかったくらいで踏ん張れなかった私が悪いんだよ。運動神経が良い人だったら、とっさに手すりを掴んで転落は防げたと思うし。私、勉強は得意なんだけど、運動は苦手で。こんなことになって、余計な心労かけちゃって、むしろ私のほうがごめんだよ」
「園田さんが謝ることない。俺が……」
「うん、わかった。もう謝罪の言葉はいいから。このくだり、いつまでやるの」
 苦笑する。
 そう言われると困ったらしく、千影は口を閉じた。

「天坂くんは謝りすぎだよ。ごめんなさい、いいですよ、だったらそれで終わり! オーケー?」
「……オーケー」
 千影は曖昧に頷いた。
 納得はしていないが菜乃花の圧に負けて了承したらしい。

 しばらく沈黙が流れ、その間に数人の生徒とすれ違った。
 あと一分もせずに食堂に着く。
 その前に、菜乃花は勇気を出して切り出した。

「天坂くんってさ。よく放課後、図書館で勉強してるよね」
 いつも彼を見ていた。
 放課後になると彼は図書館の自習スペースにいる。
 大体いつも同じ場所。人目につきにくい東側の、端っこの席。
 そこに座って、参考書や教科書を広げ、黙々とシャーペンを走らせる横顔を何度となく見てきた。

 日々努力している彼を見ていると、自分も頑張ろうと思えた。
 中間テストで1位の快挙を成し遂げたのも、彼のおかげと言っても過言ではない。

「私もよく自習スペースで勉強してたんだけど、知ってた、かな?」
 真剣な横顔を見て、偶然でもいいから、こっちを見ないかな――なんて思っていたことを、彼はきっと知らない。

「ああ。たまに見かけてたし」
「ほんと?」
 つい、笑みが零れる。気づいて貰えていたのは嬉しかった。

「でも、同じように勉強してても、園田さんと俺じゃ頭の出来が違う。俺は赤点を三つも取ったのに、園田さんは学年主席だ」
 千影は菜乃花の襟に視線を注いだ。
 菜乃花の襟には金の縁取りが成された桜の形のバッジ――通称『五桜バッジ』が輝いている。
 これは学年五位以内だった生徒のみに配られるもので、このバッジをつけている間は学食とカフェテリア無料、その他諸々の特典を得られた。

 五桜学園では実力テスト終了後、学年五位以内に入った生徒の情報が掲示されるから、千影もそれを見て菜乃花が学年主席だったことを知ったのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ! 彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。 田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。 この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。 ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。 そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。 ・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました! ・小説家になろうにて投稿したものと同じです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜

嶌田あき
青春
 高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。  完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。  そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

ツンデレ少女とひねくれ王子の恋愛バトル

星名柚花
青春
花守沙良にとって、学力だけが唯一他人に誇れるものだった。 入学式では新入生代表挨拶を任せられたし、このまま高校でも自分が一番…と思いきや、本当にトップ入学を果たしたのはクラスメイトの超イケメン、不破秀司だった。 初の実力テストでも当然のような顔で一位を取った秀司に、沙良は勝負を挑む。 敗者はケーキで勝者を祝う。 そんなルールを決めたせいで、沙良は毎回秀司にケーキを振る舞う羽目に。 仕方ない、今回もまたケーキを作るとするか。 また美味しいって言ってくれるといいな……って違う! 別に彼のことが好きとかそんなんじゃないんだから!! これはなかなか素直になれない二人のラブ・コメディ。

処理中です...