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42:満月の夜、竜の背に乗って(2)

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「久しぶり? トウカ、乗ったことあるんだ?」
「うん、一ヵ月前に乗せてもらった。ハクアは満月の夜になると身体がうずうずして飛びたくなるんだって」
「………」
 無言でハクアを見つめる。じーっと。

《……わかった。トウカは乗せてやったのにお前を乗せないのは不公平だからな》
「ありがとうございます!!」
 新菜は手を打って喜んだ。

《ちょうどいい機会だ、あいつらにもお前を紹介しておこう》
「あいつら?」
《行けばわかる。乗れ》
 ハクアは地面に腹ばいになった。
 翼も伏せられる。
 なんだかくつろいでいるようで可愛い。

「では失礼して」
 新菜はハクアを蹴らないように気を付けながら、その背中に座った。
 トウカを手招きして、細い腕を掴んで引っ張り上げ、前に乗せる。
 新菜たちが準備を終えると、ハクアは上体を起こした。

《しっかり掴まれ。落ちるなよ》
「はい」
 ハクアの背を挟んだ腿に力を入れる。

「はーい」
 能天気な調子でトウカがそう言った直後、ハクアは翼を力強く羽ばたかせ、飛んだ。
 ぐんぐん高度をあげていき、適当な高度で滑空へと移行する。

「わー!!」
 新菜は歓声をあげた。
 全身に浴びる夜風が気持ち良い。
 上空の澄んだ空気を力いっぱい吸い込めば、胸が浄化されるようだ。
 トウカも目を輝かせて遠い地上を見ている。

 ハクアは神秘の森の上をゆっくり飛んでいた。
 結い上げたポニーテイルが吹き飛ぶのではなく、緩やかになびく程度の滑空速度。
 わざとゆっくり飛んでいるのだろう。背中に乗った新菜たちが楽しめるように。
 トウカと大いに盛り上がっていた新菜だが、急にある危険性に思い当たって顔色を失った。

「ハクア様ハクア様!」
 べちべちと鱗に覆われた肌を叩く。
《連呼しなくても聞いてる。なんだ? トイレか?》
「違います! ハクア様って狙われてるんですよね!? 自分で言っといてなんですが、人気のない森の上とはいえ、堂々と竜になって飛んじゃって大丈夫ですか!? 地上から丸見えですよ、物凄く目立ってますよ!?」
《何をいまさら》
 ハクアの声には呆れがあった。

《心配しなくても、イグニスの領地内なら大丈夫だ。イグニスは無用な混乱を避けるために、領民たちにおれとトウカのことは口外しないよう、固く口止めしてくれている。ついでに言うと、おれがここにいることは国王も知っている》
「ええっ!?」
《イグニスは神秘の森で動植物を採取したり、魔物を排除しているおれの実績を訴え、侯爵家の一員と認めさせたらしい。だから国王命令で軍が動くことはない》
「じゃあ大丈夫ですね、良かった。イグニス様さすがです。良い仕事をされますねえ」
《……ああ》
 何故か一拍の間を置いてハクアはそう言い、降下を始めた。
 ハクアが目標とする着地点には見当がついた。
 目を凝らせば、神秘の森の中に木造の小屋がある。

「ハクア様、あれは?」
《おれと同じく、イグニスに頼まれて神秘の森の管理をしている傭兵団の詰め所だ。詳しい話は下りた後でラオに聞け》
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