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28:予期せぬ提案(1)

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「あの、ところで」
 遠慮がちに声をかけると、いちゃついていた二人はこちらを見た。
 その動作が完璧に揃っていたので、笑いそうになるのを堪えて訊く。

「仮面舞踏会があるんですか?」
「ああ。ニナは知らないか」
 イグニスは親切に教えてくれた。
 あと一ヵ月ほどで夏至が訪れ、夏至祭が行われる。
 夏至祭は太陽を司る女神に感謝する祭り。
 各地は光と炎で彩られ、特に王都の夜景は圧巻だという。

 夏至祭が終われば王侯貴族たちは年に一度の華やかな社交期を迎える。
 貴族は自らの邸宅を競うように飾り立て、代わる代わる舞踏会を開き、社交を繰り広げるそうだ。

「社交期の舞踏会は貴族の見合いの場でもあるが、俺には既にもったいないほどの妻がいるからな」
 アマーリエが照れ隠しのように艶やかな髪の毛先を弄った。

「だから今年は少々趣向を凝らして仮面舞踏会を開くことにしたんだ。その後に改めて正式なパーティーを開くが」
「仮面舞踏会……楽しそうですね」
 仮面をつけ、着飾った紳士淑女たちが踊る様を想像し、新菜は思わず本音を漏らしていた。

「興味があるならニナも参加するか?」
「えっ! いいんですか!? わたし、貴族でも何でもありませんけども」
「いいさ。仮面舞踏会は社交より楽しむことが目的だからな。相手の正体を明かそうとするのはマナーに反する行いだから、一人や二人貴族でないものが混ざっていてもわかりはしない。ハクアも参加して良いんだぞ?」
「行かない」
 ハクアはにべもなく断り、新菜に平坦な視線を送ってきた。
 その視線を受けて、はっとする。
 仕事はちゃんとこなせ、と今朝言われたばかりではないか。

(わたしは何を浮かれてるの。立場も忘れて! メイドが主を置いて舞踏会に参加するなんて許されるわけないじゃない!)
 おこがましいとはこのことだ。新菜は慌てて言った。

「申し訳ありません! 大変ありがたいお話ですが、わたしはこの家のメイドです。職務を放り出すわけにはいきません。ハクア様が出席されないんでしたらわたしだけ出席するわけにもいきませんし、お気持ちだけで――」
「そのことだが」
 ハクアが新菜の言葉を遮った。

「ニナを侯爵家で引き取ってもらえないか」

「え」
 新菜は目を見張った。
 トウカも侯爵夫妻も驚いている。
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