ツンデレ少女とひねくれ王子の恋愛バトル

星名柚花

文字の大きさ
上 下
76 / 94

76:めちゃくちゃ良い男(1)

しおりを挟む
 翌日の日曜日、沙良はスマホのアラーム音で目を覚ました。

 半分寝ぼけたまま枕元のスマホを掴み、アラームを切ってロック画面を表示させると、そこには狐耳をつけたコスプレ姿の秀司がいる。

 秀司はカメラ目線で笑っている。
 この自然な笑顔を引き出すのは大変だったが、苦労した甲斐はあった。

 もちろん、ぬかりなくバックアップも取っている。
 この写真だけではなく、秀司に関するデータは全てだ。

(はあ……今日も世界で一番格好良い……そして可愛い……オタクが好きなキャラを『神』と崇める気持ちがわかるわ……)

 ベッドに横たわったまま一分ほどニヤニヤした後、沙良はスマホを置いて起き上がった。

 実物に会うための支度を整え、鞄を持って階下に下りていく。

 一階は静かだ。
 花守食堂で仕込みをしているらしく、両親の気配はなかった。

『店があるから見に行けないけど、秀司くんとのダンス頑張ってね』

 リビングのテーブルには広告の裏に書かれた母のメッセージと巻き寿司が用意されていた。

 床に鞄を置き、台所でコップに麦茶を注いで戻り、フードカバーを外して巻き寿司を食べ始める。

 テレビをつけて天気予報をチェックすると、太陽のマークが燦然と輝いていた。
 今日は大勢の一般客の来場が見込めそうだ。

(西園寺さん来るのかなあ……)
 中学の卒業アルバムの写真を歩美からラインで送ってもらったが、『西園寺しおり』はフランス人形のような容姿をしていた。

 緩やかにウェーブがかかった薄茶色の髪、つぶらな瞳、右目の下の泣き黒子、薔薇色の唇。

 交際を申し込む異性が殺到しそうなほど儚げで可憐な美少女だ。
 沙良と栞、どちらが秀司に相応しい容姿ですかと尋ねれば、十人中十人が迷いなく栞を指すだろう。

(でも、私が秀司の偽彼女なんだから。もしも西園寺さんが来ても毅然と対応しなくちゃ。今日は私の今後がかかった大事な日よ。誰であろうと邪魔なんてさせない)

 昨日は文化祭終了後、クラスの皆でカラオケをしようと山岸に誘われたのだが、沙良たち四人は誘いを断ってレンタルスタジオに行き、最後のダンス練習をした。

 瑠夏は沙良たちのダンスを見て「もう教えることはないわ」と弟子に免許皆伝をする師匠のようなことを言った。

 これまでの練習の日々を思い出しているのか、その表情は感慨深げだった。

 今日に至るまで、瑠夏と大和には本当に苦労をかけてしまった。

 恩義に報いるためにも、絶対に失敗できない。

(秀司の本物の彼女になる、そのために私は努力してきたのよ。それを、秀司の人生をめちゃくちゃにした張本人に邪魔されてたまるものですか。かかってくるならかかってきなさい! クラス全員で返り討ちにしてやるんだから!)

 闘志を燃やして大きく口を開け、母の想いが籠った巻き寿司を口いっぱいに頬張った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...