ツンデレ少女とひねくれ王子の恋愛バトル

星名柚花

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66:実は狐に弱いんです(2)

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「待って待って。生きて委員長」
「やばいこの人泣いてるわ。ガチ泣きだわ。どうしよ」
「あー、委員長? お礼はもういいから、ほれ。泣いてないで、存分に愛しの彼のコスプレ姿を堪能してきなさい」
「ええ……行ってきます」
 背中を押された沙良は手の甲で涙を拭い、秀司の元へ歩き出した。

「もし、そこのお狐様」
 沙良は秀司の前で足を止め、おずおずと声をかけた。
 何言ってんだこいつ、という目で秀司が沙良を見る。

「お尋ねしたいのですが。もしや貴方こそが稲を象徴する農耕神、稲荷大明神ではありませんか?」
「誰がだ」
 秀司は顔をしかめたが、恋に狂った沙良の目は彼が放つ神々しいオーラをはっきりと映し出していた。

 天使の輪が浮かんだ艶やかな髪も、切れ長の瞳も、通った鼻筋も、への字に曲がった唇も、腰に当てられた長い指先も――目に映る全てが完璧に整っていて、ただただ美しい。

 その身に纏う白い着物さえ神聖な衣に見えてしまう。

「いいえ、どんなに隠そうともその輝きはごまかせません。私には貴方様の眩いオーラが見えます。なんと尊いお方……!!」
 胸の前で両手を組み、神に会えた感動に瞳を潤ませる。

「正気に戻れ。」
 べしっ。

「はうっ!?」
 額に手刀を入れられた沙良は額を押さえて目をぱちくりさせた。

「あら? 私はいま何を」
「現世への帰還おめでとう。ったく、誰が神様だ、こそばゆい。沙良だって同じ格好してるくせに」
 言われて沙良は自分の格好を見下ろした。

 沙良も秀司と同じ白い着物を着ているが、細部は違う。
 帯は赤だし、狐の右耳に添えられた飾りも秀司のそれと色違いだ。

「いや確かに同じ格好してるけど、しょせん私はコスプレよ。それに比べて秀司は神様だわ」
 真顔で言う。

「……まだ正気に戻れてないようだな……」
 秀司は頬を引き攣らせ、乱暴な手つきで狐の耳のカチューシャを外した。

「ああああ!! なんで外すの!! 秀司のアイデンティティがなくなっちゃうじゃない!!」
「俺のアイデンティティは狐耳なのか!?」
「何言ってるのよ、立派な三角の耳こそ狐神の象徴でしょうが!!」
 沙良は秀司の手から狐耳のカチューシャをひったくるようにして奪った。

 狐耳についた小さな鈴がリン、と鳴る。
 その音を聞きながら、沙良はカチューシャ片手に詰め寄った。

「尻尾だけだったら何の動物かわからないでしょう!? その狐耳は秀司が狐神であることを示す最重要アイテムなのよ!? 狐耳がなくなったら誰も信仰してくれなくなるわよ!? 信仰を失った神は力も失うんだからね!」
 がしっと秀司の腕を掴む。

「だから俺は狐神じゃないって! 何なんだよその異常なまでの狐耳への執着は!? 目が血走ってて怖いんだけど!? なあ大和、やっぱお前が狐役やって!」

「無理。というか面倒なことになりそうだから嫌」
 狼のコスプレをしている大和は逃亡した。
 着物の帯から下がった茶色い尻尾が動きに合わせて揺れている。
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