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42:あれが危険人物です
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「言いません。何があっても私はルカ様のお傍で支えます。話してくださってありがとうございました」
頭を下げる。
「良かった。私が余計な話をしたせいでステラが守護聖女を辞めた、なんてことになったらルカに恨まれてしまう。ところで」
安堵の吐息をついた後、ノクス様はラークとシエナを交互に見た。
「ルカに聞いたんだけど。君たち二人はもう神殿騎士ではないんだよね?」
「はい。お恥ずかしながら、先日クビになりました」
神殿から支給された装備一式を返却したため、二人は現在丸腰の状態で、ルカ様から与えられた衣服を着用している。
二人がクビになった理由は任務を放棄したからだ。
王宮に戻るべくディエン村を飛び出したとき、当たり前のように二人が私たちについてきたから、私もルカ様も神殿の許可を得ているのだと思っていた。
でも、蓋を開けてみれば二人は無断で私たちに同行していた。
後日その事実が判明し、驚いたルカ様が私たちについてきた理由を尋ねると、ラークは「お前が死にそうな顔をしてたから」と答えた。
こともなげに。
それ以外に理由が必要? といわんばかりの態度で。
ルカ様は責任を感じているようで、引き続き二人を客人として『柘榴の宮』に住まわせている。
「ルカ様のご厚意に甘えさせていただいておりましたが、こうしてノクス様のご無事も確認できたことですし、明日にはラークと共に王宮を出ようと思っています」
「二人ともいなくなっちゃうの?」
思わず縋るような声が出る。
私はこのまま二人が王宮にいるものだと思い込んでいた。
だって、それくらい二人は馴染んでいたのだ。
特にラークはルカ様の気の置けない友人のようだった。
「いつまでもタダ飯食ってるわけにはいかねーだろ。オレは勘当されてるから家には帰れねーし、冒険者にでもなろうかってシエナと相談してたとこ」
そう言って、ラークはティーカップを口に運んだ。
「待って欲しい。提案がある。二人とも、ルカの守護騎士になる気はないか?」
「え?」
シエナはきょとんとしているけれど、ラークは動じずノクス様を見返した。
「前々から護衛をつけたいと思っていたんだよ。でも、ルカは貴族嫌いな上に、少々人間不信だからね。相手が貴族だろうと平民だろうとそう簡単に心を許さないんだ。自分より弱い護衛は要らないと言い張って、誰のことも拒否していた。だが、君たちは腕が立つ。何より、非常に珍しいことにルカが気に入ってる。君たちがいなくなればルカは寂しがるだろう。どうだろう? 守護騎士になることを検討してみてもらえないか? 直接礼を言いたかったのも理由の一つではあるけれど、私はこの話をするために君たちを呼んだようなものだ」
「……どうします? 私は構いませんが、多分、ルカ様に一番求められているのはあなたですよ、ラーク」
「んー」
ラークは考えるような唸り声を上げ、持っていたティーカップをソーサーに置いた。
「ルカに頼まれたら引き受けてもいいけどさ。ノクスの命令だっていうなら嫌だね。頼み事は本人がするのが筋ってもんだろ?」
「ノクス様は王太子なんですよ? この国で二番目に偉い方なんですよ?」
「んなもん知らねー」
ぷいっとラークは顔を背けた。
「だからあなたは何様……」
「いや、ラークの言う通りだ。頼み事はルカ自身に言わせよう。みんな、ついてきてくれ」
ノクス様は立ち上がってサロンを出た。
私たちもその後に続き、ルカ様が待っているはずの客室へ移動した。
「ルカ、入るよ」
一声をかけてノクス様が開け放った客室では――
「ふわふわ! お前本当にふわふわだな! ここか? ここが気持ち良いのか?」
キー! とソファに仰向けに寝転がっているカーバンクルが気持ち良さそうな鳴き声を上げている。
ソファの前に跪いたルカ様は扉付近に立つ私たちに全く気付いていない様子で、カーバンクルの腹部をわしゃわしゃしながら満面の笑顔だ。
「あはははは。お前本当に可愛いなー。このまま持ち帰りたいなーでも兄上のものなんだよなー、残念だなー」
ルカ様は突っ伏してカーバンクルに頬擦りを始めた。
「…………ッ!!」
あまりの光景に私は顔を覆って悶絶した。
「……ご覧ください。あれが世界を滅ぼしかねない危険人物です」
「ぶふっ! ちょっと、そんな真顔で、止め――ふふっ、ふふふふふ」
どうにか堪えようとして失敗したシエナがうずくまって笑っている。
ノクス様も声を上げて笑い、ようやくルカ様がこちらの存在に気付いた。
まるでばね仕掛けの人形のような動きで立ち上がり、みるみるうちにその顔を赤く染めていく。
「い、いつからそこに……」
「少し前から。『あはははは。お前本当に可愛いなー』」
真顔かつ棒読みでラークに復唱されるという辱めを受けたルカ様は顔を覆った。
「………………兄上。俺を殺してください」
「こら。冗談でもそんなこと言わない。朗報があるから聞きなさい。ラークとシエナはルカの守護騎士になっても良いと言ってくれたよ」
「……本当に?」
まだ若干顔を赤くしたまま、ルカ様は手を下ろして二人を見た。
「お前が頼むなら引き受けてやってもいいけど、どうする?」
ラークは腰に手を当て、シエナは彼の隣で微笑んでいる。
「……頼む。俺の守護騎士になってくれ、ラーク、シエナ」
ルカ様は緊張した様子で二人の前に立って頭を下げた。
「いいよ」
「謹んでお受け致します」
ラークは軽い口調で答え、シエナはより一層笑みを深めた。
頭を下げる。
「良かった。私が余計な話をしたせいでステラが守護聖女を辞めた、なんてことになったらルカに恨まれてしまう。ところで」
安堵の吐息をついた後、ノクス様はラークとシエナを交互に見た。
「ルカに聞いたんだけど。君たち二人はもう神殿騎士ではないんだよね?」
「はい。お恥ずかしながら、先日クビになりました」
神殿から支給された装備一式を返却したため、二人は現在丸腰の状態で、ルカ様から与えられた衣服を着用している。
二人がクビになった理由は任務を放棄したからだ。
王宮に戻るべくディエン村を飛び出したとき、当たり前のように二人が私たちについてきたから、私もルカ様も神殿の許可を得ているのだと思っていた。
でも、蓋を開けてみれば二人は無断で私たちに同行していた。
後日その事実が判明し、驚いたルカ様が私たちについてきた理由を尋ねると、ラークは「お前が死にそうな顔をしてたから」と答えた。
こともなげに。
それ以外に理由が必要? といわんばかりの態度で。
ルカ様は責任を感じているようで、引き続き二人を客人として『柘榴の宮』に住まわせている。
「ルカ様のご厚意に甘えさせていただいておりましたが、こうしてノクス様のご無事も確認できたことですし、明日にはラークと共に王宮を出ようと思っています」
「二人ともいなくなっちゃうの?」
思わず縋るような声が出る。
私はこのまま二人が王宮にいるものだと思い込んでいた。
だって、それくらい二人は馴染んでいたのだ。
特にラークはルカ様の気の置けない友人のようだった。
「いつまでもタダ飯食ってるわけにはいかねーだろ。オレは勘当されてるから家には帰れねーし、冒険者にでもなろうかってシエナと相談してたとこ」
そう言って、ラークはティーカップを口に運んだ。
「待って欲しい。提案がある。二人とも、ルカの守護騎士になる気はないか?」
「え?」
シエナはきょとんとしているけれど、ラークは動じずノクス様を見返した。
「前々から護衛をつけたいと思っていたんだよ。でも、ルカは貴族嫌いな上に、少々人間不信だからね。相手が貴族だろうと平民だろうとそう簡単に心を許さないんだ。自分より弱い護衛は要らないと言い張って、誰のことも拒否していた。だが、君たちは腕が立つ。何より、非常に珍しいことにルカが気に入ってる。君たちがいなくなればルカは寂しがるだろう。どうだろう? 守護騎士になることを検討してみてもらえないか? 直接礼を言いたかったのも理由の一つではあるけれど、私はこの話をするために君たちを呼んだようなものだ」
「……どうします? 私は構いませんが、多分、ルカ様に一番求められているのはあなたですよ、ラーク」
「んー」
ラークは考えるような唸り声を上げ、持っていたティーカップをソーサーに置いた。
「ルカに頼まれたら引き受けてもいいけどさ。ノクスの命令だっていうなら嫌だね。頼み事は本人がするのが筋ってもんだろ?」
「ノクス様は王太子なんですよ? この国で二番目に偉い方なんですよ?」
「んなもん知らねー」
ぷいっとラークは顔を背けた。
「だからあなたは何様……」
「いや、ラークの言う通りだ。頼み事はルカ自身に言わせよう。みんな、ついてきてくれ」
ノクス様は立ち上がってサロンを出た。
私たちもその後に続き、ルカ様が待っているはずの客室へ移動した。
「ルカ、入るよ」
一声をかけてノクス様が開け放った客室では――
「ふわふわ! お前本当にふわふわだな! ここか? ここが気持ち良いのか?」
キー! とソファに仰向けに寝転がっているカーバンクルが気持ち良さそうな鳴き声を上げている。
ソファの前に跪いたルカ様は扉付近に立つ私たちに全く気付いていない様子で、カーバンクルの腹部をわしゃわしゃしながら満面の笑顔だ。
「あはははは。お前本当に可愛いなー。このまま持ち帰りたいなーでも兄上のものなんだよなー、残念だなー」
ルカ様は突っ伏してカーバンクルに頬擦りを始めた。
「…………ッ!!」
あまりの光景に私は顔を覆って悶絶した。
「……ご覧ください。あれが世界を滅ぼしかねない危険人物です」
「ぶふっ! ちょっと、そんな真顔で、止め――ふふっ、ふふふふふ」
どうにか堪えようとして失敗したシエナがうずくまって笑っている。
ノクス様も声を上げて笑い、ようやくルカ様がこちらの存在に気付いた。
まるでばね仕掛けの人形のような動きで立ち上がり、みるみるうちにその顔を赤く染めていく。
「い、いつからそこに……」
「少し前から。『あはははは。お前本当に可愛いなー』」
真顔かつ棒読みでラークに復唱されるという辱めを受けたルカ様は顔を覆った。
「………………兄上。俺を殺してください」
「こら。冗談でもそんなこと言わない。朗報があるから聞きなさい。ラークとシエナはルカの守護騎士になっても良いと言ってくれたよ」
「……本当に?」
まだ若干顔を赤くしたまま、ルカ様は手を下ろして二人を見た。
「お前が頼むなら引き受けてやってもいいけど、どうする?」
ラークは腰に手を当て、シエナは彼の隣で微笑んでいる。
「……頼む。俺の守護騎士になってくれ、ラーク、シエナ」
ルカ様は緊張した様子で二人の前に立って頭を下げた。
「いいよ」
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