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31:尊い母子像
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ルカ様を寝台に寝かせてミアとロゼッタに見張り役を頼み、それから一時間ほど後。
「何をするのです!! おやめください!! それはアンベリスの建国王が神から授かった神剣――」
「うるせー!! とうに死んだ人間の遺産より、いま死にかけてる王子の命のほうが大事だろーが!!」
王宮の一階、シャンデリアが吊り下がる階段前の煌びやかなホールにて。
血相を変えた貴族の中年男性に持っている剣を奪われそうになったラークは貴族男性を蹴り倒した。
間髪入れずに鞘から剣を抜き放ち、金色に輝く美しい諸刃の剣身を容赦なく半ばから蹴り折る。
「ああああー!!」
折れた神剣を見て、大理石の床に這いつくばっている貴族男性が悲鳴をあげた。
「ああ、クラウディア様、お許しください。私は犯罪者になってしまいました。器物損壊に建造物損壊。とうとう傷害の罪まで重ねております。もう神殿には戻れません」
シエナはしくしく泣きながらも、襲い掛かってくる貴族や衛兵を次々殴り飛ばしている。
まるで踊りを踊るように、最小限の動きで近づく者を蹴り、殴り、投げ飛ばし、たとえ手の届かない遠距離であっても風の魔法でまとめて吹き飛ばす。
誰一人通さない彼女はまさに鉄壁の要塞だった。
「たあーっ!!」
シエナに守られている私は、裂帛の気合いを唇から迸らせ、国宝である大きな壺を回し蹴りで豪快に破壊した。
「なんなんだ貴様らは!! 王の剣に聖女の杖! 稀代の名工が作り上げた壺!! 国の重要文化財ばかり破壊しおって、一体何がしたいんだ!?」
衛兵を従えた宰相が顔を真っ赤にして喚いている。
「文句なら重要文化財に呪いをかけた奴に言え!! オレだって好きで壊してるんじゃねー!! だから何回も言ってんだろーが、ノクスにかかってる呪いを解くために呪術媒体を破壊してんだよ!! 邪魔すんな!!」
「世迷言を――」
「ラーク、この絵にも呪術がかかってる!!」
人間には見えない呪いを見抜くことができる妖精は格調高い宗教画を指さした。
「はいよ!! これで十九個目か!?」
ラークは宗教画を手に取り、膝蹴りで女神の顔をぶち抜いた。
そして、ゴミのようにぽいっと床に投げ捨てる。
「きき、ききき、き貴様!! なんということを!! 神殿に仕える騎士ではなかったのか!?」
「せ、世界を救ってくださった女神様の絵が……うーん」
目撃していた貴族の一人が白目を剥いて気絶した。
「ええい、衛兵では歯が立たぬ、騎士団を呼べ!! 守護聖女が乱心した!!」
宰相が腕を振り回しながら叫び、宰相の近くにいた貴族男性が私を指差す。
「おのれ、さてはルカ王子の呪いにあてられたな!? それ見たことか! だから私はあの王子は危険だ、離宮ではなく牢獄に閉じ込めるべきだと言ったのだ!」
「ルカ様は呪われてなんかいません!!」
聞き捨てならない台詞を吐いた貴族を睨みつけたものの、いまは喧嘩している場合ではないと思い直してプリムを振り仰ぐ。
「プリム、あとは!?」
「ここにはもうない、これで終わり!! 次行くわよ!! 階段の上から嫌な気配がする!! あれで二十個、ようやく最後!!」
「了解!! おいおっさん、邪魔だ!!」
行く手を阻もうとした三人の衛兵をなぎ倒して強引に進路を確保し、ラークは階段を駆け上った。
私もシエナと一緒に急いでラークの後に続く。
プリムの話によれば、ノクス様にかかっている術式の名前は《百度目に喰い殺す蛇》――その回数に応じて酷くなる頭痛を引き起こし、頭痛の回数が百回目になると確実に死ぬという厄介なもの。
術式を発動するために必要な呪術媒体は二十個らしいので、残りあと一つを破壊すれば術式は解けるはずなのだが――
「……本当にこれか?」
「ええ。この絵よ」
王宮の二階。
ギャラリーにずらりと展示された絵の中で、プリムが指さしたそれを見て、さすがのラークも嫌そうに顔をしかめた。
プリムが指さした先にあるのは、金の額縁に収められた美しい女性の肖像画。
緩やかに波打つ金糸の髪。
その瞳はノクス様と同じサファイアだ。
左目の下にぽつんと黒子があり、白い肌の中で目立っていた。
女性は王族の椅子に腰かけ、下腹部の上で両手を重ね、穏やかに微笑んでいる。
肖像画の下にあるキャプションは『慈愛の微笑みを浮かべるドラセナ王妃』――
「ああ……」
よりによってこの絵が呪術媒体に選ばれたのかと、私は小さく呻いた。
同時に、術者への恨みがより一層募る。
だって、この絵は、ルカ様が以前私に見せてくれたものなのだ。
「何をするのです!! おやめください!! それはアンベリスの建国王が神から授かった神剣――」
「うるせー!! とうに死んだ人間の遺産より、いま死にかけてる王子の命のほうが大事だろーが!!」
王宮の一階、シャンデリアが吊り下がる階段前の煌びやかなホールにて。
血相を変えた貴族の中年男性に持っている剣を奪われそうになったラークは貴族男性を蹴り倒した。
間髪入れずに鞘から剣を抜き放ち、金色に輝く美しい諸刃の剣身を容赦なく半ばから蹴り折る。
「ああああー!!」
折れた神剣を見て、大理石の床に這いつくばっている貴族男性が悲鳴をあげた。
「ああ、クラウディア様、お許しください。私は犯罪者になってしまいました。器物損壊に建造物損壊。とうとう傷害の罪まで重ねております。もう神殿には戻れません」
シエナはしくしく泣きながらも、襲い掛かってくる貴族や衛兵を次々殴り飛ばしている。
まるで踊りを踊るように、最小限の動きで近づく者を蹴り、殴り、投げ飛ばし、たとえ手の届かない遠距離であっても風の魔法でまとめて吹き飛ばす。
誰一人通さない彼女はまさに鉄壁の要塞だった。
「たあーっ!!」
シエナに守られている私は、裂帛の気合いを唇から迸らせ、国宝である大きな壺を回し蹴りで豪快に破壊した。
「なんなんだ貴様らは!! 王の剣に聖女の杖! 稀代の名工が作り上げた壺!! 国の重要文化財ばかり破壊しおって、一体何がしたいんだ!?」
衛兵を従えた宰相が顔を真っ赤にして喚いている。
「文句なら重要文化財に呪いをかけた奴に言え!! オレだって好きで壊してるんじゃねー!! だから何回も言ってんだろーが、ノクスにかかってる呪いを解くために呪術媒体を破壊してんだよ!! 邪魔すんな!!」
「世迷言を――」
「ラーク、この絵にも呪術がかかってる!!」
人間には見えない呪いを見抜くことができる妖精は格調高い宗教画を指さした。
「はいよ!! これで十九個目か!?」
ラークは宗教画を手に取り、膝蹴りで女神の顔をぶち抜いた。
そして、ゴミのようにぽいっと床に投げ捨てる。
「きき、ききき、き貴様!! なんということを!! 神殿に仕える騎士ではなかったのか!?」
「せ、世界を救ってくださった女神様の絵が……うーん」
目撃していた貴族の一人が白目を剥いて気絶した。
「ええい、衛兵では歯が立たぬ、騎士団を呼べ!! 守護聖女が乱心した!!」
宰相が腕を振り回しながら叫び、宰相の近くにいた貴族男性が私を指差す。
「おのれ、さてはルカ王子の呪いにあてられたな!? それ見たことか! だから私はあの王子は危険だ、離宮ではなく牢獄に閉じ込めるべきだと言ったのだ!」
「ルカ様は呪われてなんかいません!!」
聞き捨てならない台詞を吐いた貴族を睨みつけたものの、いまは喧嘩している場合ではないと思い直してプリムを振り仰ぐ。
「プリム、あとは!?」
「ここにはもうない、これで終わり!! 次行くわよ!! 階段の上から嫌な気配がする!! あれで二十個、ようやく最後!!」
「了解!! おいおっさん、邪魔だ!!」
行く手を阻もうとした三人の衛兵をなぎ倒して強引に進路を確保し、ラークは階段を駆け上った。
私もシエナと一緒に急いでラークの後に続く。
プリムの話によれば、ノクス様にかかっている術式の名前は《百度目に喰い殺す蛇》――その回数に応じて酷くなる頭痛を引き起こし、頭痛の回数が百回目になると確実に死ぬという厄介なもの。
術式を発動するために必要な呪術媒体は二十個らしいので、残りあと一つを破壊すれば術式は解けるはずなのだが――
「……本当にこれか?」
「ええ。この絵よ」
王宮の二階。
ギャラリーにずらりと展示された絵の中で、プリムが指さしたそれを見て、さすがのラークも嫌そうに顔をしかめた。
プリムが指さした先にあるのは、金の額縁に収められた美しい女性の肖像画。
緩やかに波打つ金糸の髪。
その瞳はノクス様と同じサファイアだ。
左目の下にぽつんと黒子があり、白い肌の中で目立っていた。
女性は王族の椅子に腰かけ、下腹部の上で両手を重ね、穏やかに微笑んでいる。
肖像画の下にあるキャプションは『慈愛の微笑みを浮かべるドラセナ王妃』――
「ああ……」
よりによってこの絵が呪術媒体に選ばれたのかと、私は小さく呻いた。
同時に、術者への恨みがより一層募る。
だって、この絵は、ルカ様が以前私に見せてくれたものなのだ。
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