訳あり王子の守護聖女

星名柚花

文字の大きさ
上 下
25 / 48

25:活力を補給させてください

しおりを挟む
「あ、ああ……?」
 ギオンさんは突然の妖精の登場に困惑している。

「プリム。どうせここに残るなら、一階に下りて人間たちの相手をしてくれないか。きっと全員が妖精を見るのは初めてだろう。賑やかなお前がいれば空気も明るくなる。子どもも喜ぶはずだ」
「ええー!?」
 ルカ様に言われて、プリムは盛大な不満の声を上げた。

「人間から崇められて、ちやほやされたくないか?」
「…………。んー、まあ、ただここにいても暇だし。しゃーないわねー、優しい妖精が人間を慰問してあげるとするかー」
 プリムはふらふらと降下してルカ様の頭に乗った。

「凄いですね、まさか妖精をお連れとは……」
 シエナさんは唖然としてプリムを見た後、私を見た。

「はい。不思議な成り行きで」
「あんたが強引に同行させたんでしょーが」
 プリムのツッコミを受けながら退室し、階段を下りた途端、玄関ホールにいた子どもたちはルカ様の頭に乗っているプリムを発見して騒ぎ始めた。

「妖精! 妖精だ!! 妖精がいる!!」
「きゃーすごーい!! なんでなんでー!? なんで妖精がいるのー!?」
「さわりたーい!!」
「ちょっとルカ、なんか崇めるって言うよりもみくちゃにされてるんだけどあたし!? 話が違う!!」
「頑張れ」
 無責任な励ましを送ってから、ルカ様は私たちと一緒に外に出た。

 さっきまでと打って変わって、きゃあきゃあと子どもたちのはしゃぐ声が外にいても聞こえてくる。

 外で暗い顔をしていた人たちも興味を惹かれているようだ。

 大変だろうが、プリムには賑やかし要員として頑張ってもらおう。

「――ルカ様」
 丘を下りて二手に分かれることになり、私は足を止めてルカ様を見つめた。

 ラークと会話していたルカ様が口を閉じて私に向き直る。

 空気を読んでくれたらしくラークが歩き出す。
 それを見て、シエナさんもそっと離れてくれた。

「お手を貸してください」
 私が両手を差し出すと、ルカ様は素直に私の手に自分のそれを重ねた。

 ルカ様の手を握って魔力を解放する。
 私の両手がカッと金色の光を放ち、その光はルカ様の身体を包み込んだ。

「……これは?」
 不思議そうな顔で、ルカ様は自分の身体を見下ろしている。

「強化魔法です。一時的に身体能力を大幅に上昇させる効果があります。癒しの力と同じで、何故か自分自身には使えないんですが」
「……凄いな。膨大な神力といい、扱える魔法といい、ステラはとことん他人の益になる力を持っているんだな。まさしく聖女だ」
 感嘆するように言って、ルカ様は右手だけを離して握り込んだ。

「身体が軽くなったような実感はありますか?」
「ああ。いまなら一騎当千の力を発揮できそうな気がする」
「それは良かったです」
 遠くから切羽詰まったような叫び声が聞こえる。

 いまからルカ様は彼らに交じって戦うのだ。
 王子なのに、護衛もなく。命を賭けて。

「私はローカス村で負傷者を癒して、その合間に出来る限り瘴気を浄化します。さすがルカ様の守護聖女だと言われるくらい頑張りますから、ルカ様もディエン村ここで頑張ってくださいね。できるだけでいいんです。危ないときは無理せず逃げてください。どんな怪我でも必ず私が治しますから……だから、絶対に生きて帰ってきてください」

 本当は頑張ってほしくない。
 本当は、誰より安全なところにいてほしい。

 こみ上げる言葉を飲み下して、緩やかな風に吹かれながら、私は微笑んだ。

「また後でお会いしましょう。約束ですよ?」

「――――」
 ルカ様は口元を軽く結んだかと思うと、私をいきなり抱きしめてきた。

「!? ル、ルカ様!?」

 シエナさんがこっちを見てるんですけど!
 口を片手で覆って「あらあらまあまあ、この二人はそういう関係だったのねー」っていう顔をしているんですけど!?

 誤解が!!
 とんでもない誤解が生じようとしています!!

「少しの間、付き合ってくれ。戦闘に臨むための活力を補給したい」
 ルカ様は私の耳元で言った。

「か、活力の補給になるんですか? これが?」
「ああ」
 よくわからないが、迷いなく断言されてしまった。

「……そういうことでしたら……えい」
 思い切って彼の背中に腕を回し、ぎゅっと力を込める。

 すると、ルカ様も私を強く抱き返してきた。

 ――どうか、ルカ様が無事でいられますように。
 私は心の底から祈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました

星名柚花
恋愛
孤児のルーシェは《国守りの魔女》に選ばれ、公爵家の養女となった。 第二王子と婚約させられたものの、《人形姫》と揶揄されるほど大人しいルーシェを放って王子は男爵令嬢に夢中。 虐げられ続けたルーシェは濡れ衣を着せられ、婚約破棄されてしまう。 失意のどん底にいたルーシェは同じ孤児院で育ったジオから国を出ることを提案される。 ルーシェはその提案に乗り、隣国ロドリーへ向かう。 そこで出会ったのは個性強めの魔女ばかりで…? 《人形姫》の仮面は捨てて、新しい人生始めます! ※「妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/271485076/35882148 のスピンオフ作品になります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

処理中です...