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24:妖精登場!
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ひと睨みするだけで人を殺せそうなギオンさんの視線を真っ向から受け止めて、ルカ様は部屋の中央に進んだ。
「改めて挨拶しよう。国王の命を受けて視察に来た第三王子ルカ・レナ・アンベリスだ。彼女はステラ・コーレン。私の守護聖女だ」
私はルカ様の声に合わせて頭を下げた。
魔物掃討作戦中だから当然かもしれないけれど、部屋の空気はピリピリしていて居心地が悪い。
ルカ様のフードの中でプリムもじっとしていた。
「はっ。再三の要求にようやく王宮が応じたと思ったら、こんなひょろい王子一人を寄越すとはな。それも戦闘要員ではなくただの視察だと? ふざけてるぜ。何のための報告書だ! 死者の数が三桁を越えなきゃ騎士団は動かせないってか!?」
部屋の左側、私の背よりも高い本棚の前にいる赤髪の男性は吐き捨てるような口調でそう言った。
「止めなさい、ラーク。口が過ぎますよ。申し訳ございません、ルカ王子。ラークはこの度の戦いで同僚を亡くしたために気が立っておりまして……どうぞ無礼をお許しください」
ラークを嗜めたのは彼の隣にいる金髪の女性だ。
「シエナ・リボリーと申します。ラーク・カリンツと共に西の神殿から参りました。神殿騎士です」
シエナさんは波打つ金髪を身体の前に垂らしてお辞儀した。
その細身に纏う防具は彼女の隣にいる赤髪の騎士――ラークとお揃いだ。
腰に下げている剣も神殿から支給されているものらしく、ラークと同じだった。
「戦地へようこそ、ルカ王子。ひとまず歓迎しよう。この急ごしらえの部隊をまとめているギオン・ダラフだ」
ギオンさんは椅子に座ったまま名乗った。
「自由に村を見て回るといい。この村の惨状を理解した上で、速やかに救援要請をしてもらえると有難い。こちらとしては以上だが、何か質問があるならば聞こう」
シエナさんを除く三人からは王子に払うべき敬意を微塵も感じない。
最後の一人なんて名乗りもしていないし、ラークに至っては剥き出しの敵意をルカ様にぶつけている。
とっとと帰れ、という意思がひしひしと伝わってくるけれど、ルカ様はこんなことで怯むようなお方ではなかった。
「私は上空からディエンとローカスの惨状をこの目で見た。御託はいい、一番苦戦している場所はどこだ。私を王子ではなく、戦闘要員として使え」
「なんだそりゃ、お前も戦うって言うのかよ。足手まといになるだけだろうが! なるほどご身分に相応しいご立派な剣を持ってらっしゃるようだが、しょせん飾りだろ?」
「飾りかどうかはその目で確かめるがいい。言っておくが私はお前より強い」
ルカ様はごく当たり前の事実を告げるような声音で告げた。
ビキッ、と音を立ててラークの額に血管が浮かぶ。
「ほお。こんな生意気な王子様がいるとは予想外だ。上等じゃねえか、表に出ろ」
「いい加減になさい!! 不敬罪で首を落とされたいのですか!!」
すぱーん! とシエナさんがラークの後頭部を叩いてたたらを踏ませた。
「私たちは神殿を代表してここに来ているのですよ。あなたの態度はそのまま西の神殿の評価につながるのです。ただでさえ戦力不足だというのに、貴重な人間同士が一対一で潰し合ってどうするんですか。どうしてもどちらが強いか確かめたいなら倒した魔物の数で競いなさい。ルカ様もそれでいいですよね?」
ね? というようにシエナさんがじっとルカ様を見つめる。
「構わない。それで、結局私はどこに行けばいいんだ、ギオン」
「……命の保証はできないぞ。王子という肩書なんぞ、魔物の前ではクソの役にも立たん」
「知っている。これまで何百匹と殺してきたからな。単独でワイバーンの首も落とした」
ギオンさんとラークの顔つきが変わった。
ワイバーンといえば、冒険者ギルドではSランク指定の魔物である。
「……ふん。少しはやるか」
「素直に『凄い』と言えばいいのに……」
シエナさんが呆れ顔でラークを見ている。
「ふむ。単独でワイバーンを撃破できるほどの実力者だというのなら心配は無用か。ならば、ラークと共にディエンの東側に向かって欲しい。防衛線が崩壊寸前だ」
「了解した」
「ステラと言ったな」
「はい」
急に顔を向けられて、私は反射的に背筋を伸ばした。
「君はローカスへ行って欲しい。現場で怪我人の治癒を行っていた聖女フィーエが負傷してしまったらしいのだ」
「わかりました。フィーエ様を治癒した後、全力で負傷者の救護にあたります」
ルカ様と離れるのは心配だけれど、互いにやるべきことをやるしかない。
「バージルは昨晩もずっと戦い通しだっただろう、顔色が悪い。ローカスに戻る前にここで少し休め。シエナ、バージルの代わりにステラの護衛を頼む」
この部屋にいた最後の一人はバージルと言ったらしい。
ちらりとそちらを見ると、茶髪を短く刈り上げた大男は目礼してきた。
礼儀知らずの不愛想な男かと思いきや、案外、さっきは自己紹介のタイミングを逃しただけだったのかもしれない。
「承知いたしました。それでは行きましょう、ステラ様。御身は必ず私がお守りいたしますわ。ご安心ください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「――あたしはここに残るわよ!」
耐えられなくなったように、ルカ様のフードからプリムが飛び出した。
「妖精……!?」
「嘘だろ、マジかよ……!!」
私とルカ様以外の人間全員が、希少な妖精を見て目を丸くしている。
「あたしには瘴気を浄化する力なんてないし戦闘力もないもの! ここで帰りを待たせてもらうから、ギオンのおっちゃん、しばらく部屋の隅に置いといてよね! 大丈夫、あたしは何も邪魔しない! 黙ってただ部屋にいるだけ! 置物とでも思ってくれてたらいいわ!」
「改めて挨拶しよう。国王の命を受けて視察に来た第三王子ルカ・レナ・アンベリスだ。彼女はステラ・コーレン。私の守護聖女だ」
私はルカ様の声に合わせて頭を下げた。
魔物掃討作戦中だから当然かもしれないけれど、部屋の空気はピリピリしていて居心地が悪い。
ルカ様のフードの中でプリムもじっとしていた。
「はっ。再三の要求にようやく王宮が応じたと思ったら、こんなひょろい王子一人を寄越すとはな。それも戦闘要員ではなくただの視察だと? ふざけてるぜ。何のための報告書だ! 死者の数が三桁を越えなきゃ騎士団は動かせないってか!?」
部屋の左側、私の背よりも高い本棚の前にいる赤髪の男性は吐き捨てるような口調でそう言った。
「止めなさい、ラーク。口が過ぎますよ。申し訳ございません、ルカ王子。ラークはこの度の戦いで同僚を亡くしたために気が立っておりまして……どうぞ無礼をお許しください」
ラークを嗜めたのは彼の隣にいる金髪の女性だ。
「シエナ・リボリーと申します。ラーク・カリンツと共に西の神殿から参りました。神殿騎士です」
シエナさんは波打つ金髪を身体の前に垂らしてお辞儀した。
その細身に纏う防具は彼女の隣にいる赤髪の騎士――ラークとお揃いだ。
腰に下げている剣も神殿から支給されているものらしく、ラークと同じだった。
「戦地へようこそ、ルカ王子。ひとまず歓迎しよう。この急ごしらえの部隊をまとめているギオン・ダラフだ」
ギオンさんは椅子に座ったまま名乗った。
「自由に村を見て回るといい。この村の惨状を理解した上で、速やかに救援要請をしてもらえると有難い。こちらとしては以上だが、何か質問があるならば聞こう」
シエナさんを除く三人からは王子に払うべき敬意を微塵も感じない。
最後の一人なんて名乗りもしていないし、ラークに至っては剥き出しの敵意をルカ様にぶつけている。
とっとと帰れ、という意思がひしひしと伝わってくるけれど、ルカ様はこんなことで怯むようなお方ではなかった。
「私は上空からディエンとローカスの惨状をこの目で見た。御託はいい、一番苦戦している場所はどこだ。私を王子ではなく、戦闘要員として使え」
「なんだそりゃ、お前も戦うって言うのかよ。足手まといになるだけだろうが! なるほどご身分に相応しいご立派な剣を持ってらっしゃるようだが、しょせん飾りだろ?」
「飾りかどうかはその目で確かめるがいい。言っておくが私はお前より強い」
ルカ様はごく当たり前の事実を告げるような声音で告げた。
ビキッ、と音を立ててラークの額に血管が浮かぶ。
「ほお。こんな生意気な王子様がいるとは予想外だ。上等じゃねえか、表に出ろ」
「いい加減になさい!! 不敬罪で首を落とされたいのですか!!」
すぱーん! とシエナさんがラークの後頭部を叩いてたたらを踏ませた。
「私たちは神殿を代表してここに来ているのですよ。あなたの態度はそのまま西の神殿の評価につながるのです。ただでさえ戦力不足だというのに、貴重な人間同士が一対一で潰し合ってどうするんですか。どうしてもどちらが強いか確かめたいなら倒した魔物の数で競いなさい。ルカ様もそれでいいですよね?」
ね? というようにシエナさんがじっとルカ様を見つめる。
「構わない。それで、結局私はどこに行けばいいんだ、ギオン」
「……命の保証はできないぞ。王子という肩書なんぞ、魔物の前ではクソの役にも立たん」
「知っている。これまで何百匹と殺してきたからな。単独でワイバーンの首も落とした」
ギオンさんとラークの顔つきが変わった。
ワイバーンといえば、冒険者ギルドではSランク指定の魔物である。
「……ふん。少しはやるか」
「素直に『凄い』と言えばいいのに……」
シエナさんが呆れ顔でラークを見ている。
「ふむ。単独でワイバーンを撃破できるほどの実力者だというのなら心配は無用か。ならば、ラークと共にディエンの東側に向かって欲しい。防衛線が崩壊寸前だ」
「了解した」
「ステラと言ったな」
「はい」
急に顔を向けられて、私は反射的に背筋を伸ばした。
「君はローカスへ行って欲しい。現場で怪我人の治癒を行っていた聖女フィーエが負傷してしまったらしいのだ」
「わかりました。フィーエ様を治癒した後、全力で負傷者の救護にあたります」
ルカ様と離れるのは心配だけれど、互いにやるべきことをやるしかない。
「バージルは昨晩もずっと戦い通しだっただろう、顔色が悪い。ローカスに戻る前にここで少し休め。シエナ、バージルの代わりにステラの護衛を頼む」
この部屋にいた最後の一人はバージルと言ったらしい。
ちらりとそちらを見ると、茶髪を短く刈り上げた大男は目礼してきた。
礼儀知らずの不愛想な男かと思いきや、案外、さっきは自己紹介のタイミングを逃しただけだったのかもしれない。
「承知いたしました。それでは行きましょう、ステラ様。御身は必ず私がお守りいたしますわ。ご安心ください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「――あたしはここに残るわよ!」
耐えられなくなったように、ルカ様のフードからプリムが飛び出した。
「妖精……!?」
「嘘だろ、マジかよ……!!」
私とルカ様以外の人間全員が、希少な妖精を見て目を丸くしている。
「あたしには瘴気を浄化する力なんてないし戦闘力もないもの! ここで帰りを待たせてもらうから、ギオンのおっちゃん、しばらく部屋の隅に置いといてよね! 大丈夫、あたしは何も邪魔しない! 黙ってただ部屋にいるだけ! 置物とでも思ってくれてたらいいわ!」
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