訳あり王子の守護聖女

星名柚花

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07:いざ謁見!

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 大理石で造られた謁見の間は三階までの吹き抜け構造になっていた。

 見上げるほどに高い天井からは巨大な水晶をそのまま削り出したらしい半透明のシャンデリアが等間隔に吊り下げられている。

 眩いばかりの絢爛豪華な空間に圧倒されて息を飲む。

 私が怯んでいる間に、ルカ様は金の刺繍が入った緋色の絨毯の上を堂々と歩き始めた。

 緊張すると言っていたのに全くそれを感じさせないのは、強く在ろうとしているからだ。

 私は息を吸い、腹の上に手を重ねて足を踏み出した。
 滑るような足運びでルカ様に付き従い、玉座の前に跪く。

「偉大なる国王陛下の招集に応じ、第三王子が参上致しました。この者はステラ、私の助けた娘です」

 片膝をついて左胸に右手を当て、頭を下げた姿勢でルカ様が言う。

「国王陛下にご挨拶申し上げます。ステラと申します」

「――両者とも面を上げよ」
 威厳に満ちた重々しい声に促されてルカ様が、続いて私が顔を上げた。

 数段高い位置にある玉座から国王バーベイン様が私たちを見下ろしている。

 白髪混じりの金髪に青の瞳、厳めしい顔つき。

 高座にいるのはバーベイン様と、その隣に佇む宰相らしき恰幅の良い男性だけ。

 本来バーベイン様の隣に座るべき王妃ドラセナ様はルカ様を生んですぐに亡くなってしまい、以降十六年間、王妃の座は空席のままだ。

「その娘は何者だ。何故余の王宮にいる。納得のいく理由を申してみよ」

「ステラは一年前、戦場で死を迎えようとしていた私を救った恩人なのです。私はそのときに礼として指輪型の魔導具を渡しました」

 魔導具とは、魔石や魔力を動力源として様々な能力や効果をもたらす道具の総称である。 

 遠く離れた場所に移動するために使われる『瞬きの扉』も魔導具の一つだ。

「三日前、魔導具を通じてステラの危機を知った私はノクス様と女官に助力を乞い、国境の山まで救出に向かいました。女官の力によってステラは一命をとりとめましたが、衰弱が酷く、すぐに目覚めることはありませんでした。そこで王宮に連れ帰ったのです。大恩に報いるためにも、ステラの介抱を信用できない他人に任せることはできませんでした」

「…………」
 バーベイン様はしばらく黙った後、ルカ様から私へと視線を移した。

「ルカの命を救ったというのは真《まこと》か」
「はい。当時はアンベリスの王子とは存じ上げませんでした。私はエメルナ皇国の巫女見習いでして、過去二年の間、ベルニカにある四国全てを回り、戦地での救助活動を行っていました。ルカ様をお助けしたのもそのときです」

「……成る程。最も過酷と言われる戦地での救助活動に二年も従事していたのは下民だからか」
 私の左手を見て、バーベイン様が青い目を細めた。

「仰る通りです。私には戸籍もありません。書類上は存在しない者なのです」

「ふむ。ならば彼女をどう扱うかは扱う者次第、というわけですな。仮にこのままアンベリスで暮らしたところでエメルナ皇国が身柄の引き渡しを要求してくることもありますまい」
 高座で宰相が呟いた。

「――エメルナも愚かですね。ステラの有用性に気づかず、戸籍も与えないとは」

 口を挟んだのはこの国の第二王子ノクス・フィーネ・アンベリス様だ。

 柔らかな太陽の光を集めて紡いだような淡い金糸の髪、その瞳はサファイア。

 引き締まった長身に白いシャツと青の上着を羽織り、黒い脚衣を穿いている。

「有用性、とは?」
 バーベイン様の視線が今度はノクス様に移動した。

「陛下は『戦場の天使』 と讃えられた可憐な少女の伝説をご存じありませんか?」

 可憐な少女の伝説って何!!?

 にっこり笑うノクス様を見て、私は戦慄した。

 というかノクス様、本人を前に天使と呼ぶのは止めてください!! 
 例えとして挙げるなら『放浪巫女』のほうにしてください!!

『放浪巫女』なんて呼ばれてましたが正確には巫女見習いだったんです、エメルナではどんなに強い神力を持っていようと下民は巫女にはなれないんですと解説もできたので!!

「『戦場の天使』 ……聞いたことがある。どこからともなく戦場に現れ、負傷者を癒しては慈愛に満ちた微笑みを残して去っていく謎の美少女のことだな?」

 私、アンベリスの国王様に認知されてたー!!!

 いやいや嘘です違うんです国王様!!

 謎の美少女って何なんですか、噂に尾ひれどころか背びれと胸びれまでついてますよ!?

「陛下、どうか発言をお許しください」
 腰に剣を下げた黒髪の騎士が唐突に声を上げた。

「何だ。許す。申せ」
「私は過去『戦場の天使』――こと、ステラ様に怪我を癒していただいたことがあります。彼女がいなければ私は今頃、冷たい土の下にいることでしょう」

「陛下、私もステラ様に命を救われた一人です」
 赤髪の騎士が片手を上げ、自然と、この場にいる全員の視線が私に集中した。

「なんと。そなたが噂に聞く『戦場の天使』だったのか」

 国王の中で私の株が急上昇したらしく、『そなた』と呼ばれた。
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