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44:「私と結婚して」
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――おれが死んだら嫌?
思い出す。私を戯れに抱きしめたリュオンの体温。私の耳元で彼は尋ねた。からかうように、ほんの少し笑みを含んだ調子で。
ああ、いまなら言えるのに。
リュオンがいなければ私は生きていけない。あなたを愛している。心からそう伝えるのに――
突然、荒れ狂っていた風が止んだ。
はっとして見れば、ノエル様を説得したらしいドロシーが立ち上がり、右手をリュオンに向かって突き出している。
彼女のおかげで行く手を阻む風が止んだ。悟った。いまが好機だ。
リュオンを止めて、気持ちを伝えられるのはいましかない。
私は無我夢中で飛び出し、リュオンの頬を両手で掴んで引き寄せた。呪文が唱えられないように自分の口で彼の口を塞ぐ。
「――――!?」
虚ろだったリュオンの瞳が驚きに見開かれる。
自我を取り戻した彼は確かな意思をもって私を見た。
「リュオン。好きよ。あなたが好きなの」
数秒して身体を引いた私は赤い《魔力環》が輝く彼の目をまっすぐに見つめて言った。
「………………え?」
リュオンは呆けて私を見返した。
周囲に浮かぶ十三もの魔法陣が、まるで溶けた飴細工のようにぐにゃりと歪む。
けれど魔法陣に起きた異変には気づかなかった。私の目はリュオンだけを見つめていたから。
「出会ったときからあなたのことが好きだった。あなたが私の手を握って笑ったあの瞬間、私は恋に落ちていたの」
魔法陣が崩れ、そのうち三つほどが形を保てず赤い光の粒子になった。
「愛してる。あなたがいないと私は生きていけない」
「……き、急に何を……気持ちは嬉しいけど、いまはそれよりドロシーを倒さないと」
リュオンは赤面して目を泳がせた。
彼の動揺を表すように、ぐにゃぐにゃと魔法陣が歪み、崩れていく。
「『それより』って何!? いま他の女性のことなんてどうでもいいでしょう! 私は真剣なのよ!」
私はぴしゃりとリュオンを叱りつけた。
一筋の血が流れている彼の顔を再び両手で挟み、自分だけを見るよう真正面に固定する。
「いや、そういう意味じゃなくて……何この状況? おれはさっきまで命懸けで戦っていたような……」
リュオンは混乱しているようだが気にしない。
「他の女性のことなんて考えないで。私のことだけを考えて。私だけを見て」
「ちょっと待ってくれ」
リュオンの顔はますます赤くなり、魔法陣の崩壊が急激に進み、全てが赤い粒子に変わる。
「いいえ、待たない。リュオン。私と結婚してちょうだい」
私は照れも迷いもせずに言った。
「――――っ!?」
リュオンの顔が真っ赤に染まる。
彼の周囲を取り巻いていた無数の赤い粒子が弾け飛ぶように消えた。
彼の左目の《魔力環》が金色に戻る。
ただし右目の《魔力環》は赤いままだ。
「私は本気よ。イノーラの前では恥ずかしさのあまり誤魔化してしまったけれど、もう自分の感情に嘘はつかない。あなたの言う通り、あなたが好きだから、あなた以外と結婚するなんて考えられないの。生涯の伴侶になって欲しいと望むのはあなただけ」
私はリュオンと一緒に生きていきたい。私のためだと言うのならば、死ぬのではなく生きて欲しい。私は魂を込めて訴えた。
「私には大した資産も家もないけれど、あなたを幸せにするために最大限の努力をすると誓うわ。あなたの笑顔をこれからもずっと、誰よりも近くで見ていたい。だから私と結婚して。お願いよ。あなたが欲しいの。欲しくて堪らないの」
リュオンの手を強く握る。
「わかった、わかったからもう止めてくれ……」
リュオンは目を逸らした。耳まで赤い。
「私と結婚してくれるの?」
うやむやにされるのは嫌だ。
確かな言葉が欲しくて、私はじっとリュオンを見つめた。
「……ああ。それはもう、願っても無いというか、何というか……よろしくお願いします……」
リュオンは照れ臭そうに俯いた。
「良かった!!」
歓喜して抱きつく。すぐにリュオンは抱き返してくれた。
「おめでとー!!」
ドロシーの声が聞こえるや否や、私たちの頭上に空を覆うほどに大きな魔法陣が出現した。
驚いて見上げると、蒼穹を背景にして、色とりどりの花びらが降ってきた。
「わあ……」
風に舞う無数の花びらに見惚れる。なんとも幻想的で美しい光景だった。
「あー。一時はどうなることかと思ったけど、丸く収まって良かった。本当に良かった。そして本当にごめん。ご迷惑をお掛けしました」
歩み寄ってきたドロシーは三つ編みを垂らして頭を下げた。
その間に、ノエル様とユリウス様も近づいてくる。
「婚約おめでとう」
ぽん、とユリウス様がリュオンの左肩を叩いてにっこり笑う。
「おめでとう」
ノエル様もリュオンの右肩を叩いて微笑んだ。
「ああ、ありがとう――」
「――とでも言うと思ったか?」
よく見ればユリウス様の額には怒りの血管が浮き上がっていた。
ノエル様はただ微笑んでいるだけ。しかし、その微笑みは絶対零度の冷たさ。
リュオンの肩を掴む二人の手に尋常ではないほどの力がこもる。
――結論から言うと。
私のために無茶をしたリュオンはドロシー共々、この後滅茶苦茶怒られた。
思い出す。私を戯れに抱きしめたリュオンの体温。私の耳元で彼は尋ねた。からかうように、ほんの少し笑みを含んだ調子で。
ああ、いまなら言えるのに。
リュオンがいなければ私は生きていけない。あなたを愛している。心からそう伝えるのに――
突然、荒れ狂っていた風が止んだ。
はっとして見れば、ノエル様を説得したらしいドロシーが立ち上がり、右手をリュオンに向かって突き出している。
彼女のおかげで行く手を阻む風が止んだ。悟った。いまが好機だ。
リュオンを止めて、気持ちを伝えられるのはいましかない。
私は無我夢中で飛び出し、リュオンの頬を両手で掴んで引き寄せた。呪文が唱えられないように自分の口で彼の口を塞ぐ。
「――――!?」
虚ろだったリュオンの瞳が驚きに見開かれる。
自我を取り戻した彼は確かな意思をもって私を見た。
「リュオン。好きよ。あなたが好きなの」
数秒して身体を引いた私は赤い《魔力環》が輝く彼の目をまっすぐに見つめて言った。
「………………え?」
リュオンは呆けて私を見返した。
周囲に浮かぶ十三もの魔法陣が、まるで溶けた飴細工のようにぐにゃりと歪む。
けれど魔法陣に起きた異変には気づかなかった。私の目はリュオンだけを見つめていたから。
「出会ったときからあなたのことが好きだった。あなたが私の手を握って笑ったあの瞬間、私は恋に落ちていたの」
魔法陣が崩れ、そのうち三つほどが形を保てず赤い光の粒子になった。
「愛してる。あなたがいないと私は生きていけない」
「……き、急に何を……気持ちは嬉しいけど、いまはそれよりドロシーを倒さないと」
リュオンは赤面して目を泳がせた。
彼の動揺を表すように、ぐにゃぐにゃと魔法陣が歪み、崩れていく。
「『それより』って何!? いま他の女性のことなんてどうでもいいでしょう! 私は真剣なのよ!」
私はぴしゃりとリュオンを叱りつけた。
一筋の血が流れている彼の顔を再び両手で挟み、自分だけを見るよう真正面に固定する。
「いや、そういう意味じゃなくて……何この状況? おれはさっきまで命懸けで戦っていたような……」
リュオンは混乱しているようだが気にしない。
「他の女性のことなんて考えないで。私のことだけを考えて。私だけを見て」
「ちょっと待ってくれ」
リュオンの顔はますます赤くなり、魔法陣の崩壊が急激に進み、全てが赤い粒子に変わる。
「いいえ、待たない。リュオン。私と結婚してちょうだい」
私は照れも迷いもせずに言った。
「――――っ!?」
リュオンの顔が真っ赤に染まる。
彼の周囲を取り巻いていた無数の赤い粒子が弾け飛ぶように消えた。
彼の左目の《魔力環》が金色に戻る。
ただし右目の《魔力環》は赤いままだ。
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私はリュオンと一緒に生きていきたい。私のためだと言うのならば、死ぬのではなく生きて欲しい。私は魂を込めて訴えた。
「私には大した資産も家もないけれど、あなたを幸せにするために最大限の努力をすると誓うわ。あなたの笑顔をこれからもずっと、誰よりも近くで見ていたい。だから私と結婚して。お願いよ。あなたが欲しいの。欲しくて堪らないの」
リュオンの手を強く握る。
「わかった、わかったからもう止めてくれ……」
リュオンは目を逸らした。耳まで赤い。
「私と結婚してくれるの?」
うやむやにされるのは嫌だ。
確かな言葉が欲しくて、私はじっとリュオンを見つめた。
「……ああ。それはもう、願っても無いというか、何というか……よろしくお願いします……」
リュオンは照れ臭そうに俯いた。
「良かった!!」
歓喜して抱きつく。すぐにリュオンは抱き返してくれた。
「おめでとー!!」
ドロシーの声が聞こえるや否や、私たちの頭上に空を覆うほどに大きな魔法陣が出現した。
驚いて見上げると、蒼穹を背景にして、色とりどりの花びらが降ってきた。
「わあ……」
風に舞う無数の花びらに見惚れる。なんとも幻想的で美しい光景だった。
「あー。一時はどうなることかと思ったけど、丸く収まって良かった。本当に良かった。そして本当にごめん。ご迷惑をお掛けしました」
歩み寄ってきたドロシーは三つ編みを垂らして頭を下げた。
その間に、ノエル様とユリウス様も近づいてくる。
「婚約おめでとう」
ぽん、とユリウス様がリュオンの左肩を叩いてにっこり笑う。
「おめでとう」
ノエル様もリュオンの右肩を叩いて微笑んだ。
「ああ、ありがとう――」
「――とでも言うと思ったか?」
よく見ればユリウス様の額には怒りの血管が浮き上がっていた。
ノエル様はただ微笑んでいるだけ。しかし、その微笑みは絶対零度の冷たさ。
リュオンの肩を掴む二人の手に尋常ではないほどの力がこもる。
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