50 / 58
50:国王との対話
しおりを挟む
◆ ◆ ◆
何事もなく二週間が過ぎ、建国祭まで残り三日となった夜。
《百花の宮》でくつろいでいたリナリアはイスカと共にテオドシウスに呼び出され、侍従の案内に従って王宮の一室へと向かった。
「陛下。セレン王子と《花冠の聖女》を連れて参りました」
「入れ」
侍従が扉を開くと、豪華絢爛な部屋がリナリアたちを出迎えた。
どうやらこの部屋は貴賓をもてなすために作られたらしい。
天井からは水晶のシャンデリアが吊り下がり、壁紙には金の模様、床には格調高い金華山織りの絨毯が敷かれていた。
部屋の中央には上等なソファがあるが、テオドシウスは着席してはいなかった。
窓際に一人佇み、夜空に浮かぶ半分の月を見上げていたようだ。
「失礼致します」
リナリアとイスカは頭を下げて入室し、窓辺に立つテオドシウスの前に並んで立った。
床に跪くべきかどうか迷ったのだが、イスカが立ったままなので彼に倣った。
背後で扉の閉まる音がし、侍従が離れていく気配がする。
「このような夜更けに何用でしょうか、父上」
《変声器》をつけたイスカはセレンの声で言って微笑んだ。
ガーデンパーティーからイスカは《百花の宮》の外ではセレンでいることを徹底し、愛想を振りまいている。ときには感情を殺して貴族に媚び諂うこともあるそうだ。
そのおかげか、最近はようやく反感を抱いていた貴族たちの態度が和らぎ始めたらしい。
「人払いは済ませた故、セレンを演じずとも良いぞ。イスカ」
開口一番、テオドシウスは衝撃的な言葉でリナリアの横っ面を張った。
「――!!」
イスカは大げさな反応をしなかったが、リナリアは瞠目した。
「ど、どうして……」
震え声で問うと、テオドシウスは微かに苦笑した。
「いくら似ているとはいえ、実の息子の顔が見分けられぬ父親がいるものか。お前がセレンではなくイスカであることは謁見の間で顔を合わせたときから知っておったわ。あの場で指摘するわけにはいかなかったため、あえて気づかぬふりをしただけだ。ガーデンパーティーで芝居をしたいと言い出したときもそうだ。たとえ芝居であろうと、セレンが異母弟を殺害するような振る舞いを良しとするはずがない。病気のせいでまるきり人格が変わったという線もありえるが、それよりも別人が入れ替わっていると考えるほうが現実的だ。一年前に王宮の地下から消えた、セレンと良く似た双子がな」
「……父上も人が悪いですね。気づいていたなら早くそう言ってくれれば良いのに」
イスカは首に手を回して《変声器》を外し、懐に入れた。
「では改めてお聞きします、父上。おれを呼び出してどうするおつもりなんですか? 第一王子の所在を聞き出した後でまた地下牢に入れますか? それとも首を刎ねますか?」
イスカは皮肉げな笑みを浮かべた。
「十七年生きてきて、おれは謁見の間で初めてあなたにお会いしました。なるほど、おれの父親はこんな顔をしていたのかと思いましたよ。あいにく何の感慨もありませんでしたけどね」
「イスカ様……」
リナリアは泣きそうになりながら、イスカの腕を引いた。
口元の笑みとは裏腹に、射殺さんばかりの目でテオドシウスを睨んでいたイスカは決まり悪そうに目を伏せた。
何事もなく二週間が過ぎ、建国祭まで残り三日となった夜。
《百花の宮》でくつろいでいたリナリアはイスカと共にテオドシウスに呼び出され、侍従の案内に従って王宮の一室へと向かった。
「陛下。セレン王子と《花冠の聖女》を連れて参りました」
「入れ」
侍従が扉を開くと、豪華絢爛な部屋がリナリアたちを出迎えた。
どうやらこの部屋は貴賓をもてなすために作られたらしい。
天井からは水晶のシャンデリアが吊り下がり、壁紙には金の模様、床には格調高い金華山織りの絨毯が敷かれていた。
部屋の中央には上等なソファがあるが、テオドシウスは着席してはいなかった。
窓際に一人佇み、夜空に浮かぶ半分の月を見上げていたようだ。
「失礼致します」
リナリアとイスカは頭を下げて入室し、窓辺に立つテオドシウスの前に並んで立った。
床に跪くべきかどうか迷ったのだが、イスカが立ったままなので彼に倣った。
背後で扉の閉まる音がし、侍従が離れていく気配がする。
「このような夜更けに何用でしょうか、父上」
《変声器》をつけたイスカはセレンの声で言って微笑んだ。
ガーデンパーティーからイスカは《百花の宮》の外ではセレンでいることを徹底し、愛想を振りまいている。ときには感情を殺して貴族に媚び諂うこともあるそうだ。
そのおかげか、最近はようやく反感を抱いていた貴族たちの態度が和らぎ始めたらしい。
「人払いは済ませた故、セレンを演じずとも良いぞ。イスカ」
開口一番、テオドシウスは衝撃的な言葉でリナリアの横っ面を張った。
「――!!」
イスカは大げさな反応をしなかったが、リナリアは瞠目した。
「ど、どうして……」
震え声で問うと、テオドシウスは微かに苦笑した。
「いくら似ているとはいえ、実の息子の顔が見分けられぬ父親がいるものか。お前がセレンではなくイスカであることは謁見の間で顔を合わせたときから知っておったわ。あの場で指摘するわけにはいかなかったため、あえて気づかぬふりをしただけだ。ガーデンパーティーで芝居をしたいと言い出したときもそうだ。たとえ芝居であろうと、セレンが異母弟を殺害するような振る舞いを良しとするはずがない。病気のせいでまるきり人格が変わったという線もありえるが、それよりも別人が入れ替わっていると考えるほうが現実的だ。一年前に王宮の地下から消えた、セレンと良く似た双子がな」
「……父上も人が悪いですね。気づいていたなら早くそう言ってくれれば良いのに」
イスカは首に手を回して《変声器》を外し、懐に入れた。
「では改めてお聞きします、父上。おれを呼び出してどうするおつもりなんですか? 第一王子の所在を聞き出した後でまた地下牢に入れますか? それとも首を刎ねますか?」
イスカは皮肉げな笑みを浮かべた。
「十七年生きてきて、おれは謁見の間で初めてあなたにお会いしました。なるほど、おれの父親はこんな顔をしていたのかと思いましたよ。あいにく何の感慨もありませんでしたけどね」
「イスカ様……」
リナリアは泣きそうになりながら、イスカの腕を引いた。
口元の笑みとは裏腹に、射殺さんばかりの目でテオドシウスを睨んでいたイスカは決まり悪そうに目を伏せた。
40
お気に入りに追加
304
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる