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43:ガーデンパーティーの始まり
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一週間後。
王宮の中庭では国王主催のガーデンパーティーが開かれていた。
といっても、大々的なものではない。
集められたのは二人の王子、筆頭書記官メイナード、宰相アーカム、それから国の重鎮と四大公爵家。
バークレイン家からはイザークとヴィネッタが出席していた。
ジョシュアは多忙という至極真っ当な理由で。エルザは体調不良という名目で欠席した。
ヴィネッタに話を聞いたのだが、エルザは活き活きと恋人の世話を焼いているらしい。
その甲斐あってか、ほとんどベッドから降りられないセレンが自分の足で歩けた日があったそうだ。朗報にイスカが喜んでいた。
「晴天に恵まれて良かったわね」
不意に、右手から美しい声がした。
晴れ渡った青空を見上げていたリナリアは、びくっと肩を震わせた。
「どうしたの、ぼうっとして。このガーデンパーティーは《光の樹》の成長を祝って開かれたもの。言わばあなたが主役なのだから、しっかりしないと駄目よ?」
優しく微笑むデイジーは袖と襟と裾に金色の刺繍された紺碧色のドレスを纏っていた。
日差しを浴びて煌めく蜂蜜色の髪にはドレスと同色のリボン。
リナリアもまた淡黄色のドレスで着飾っていたが、デイジーの輝きとは比べるべくもない。
ガーデンパーティーに集まった貴族たちはデイジーに熱い視線を注いでいる。
中庭の隅で待機している宮廷楽団も給仕もみんなデイジーを気にしていた。
デイジーはリナリアが主役だと言ったが、会場にいる者たちの心を鷲掴みにしているのはデイジーだ。
思えば、妃選考会の会場でも、デイジーはその美貌と魅惑の微笑みで数多の歌姫たちを虜にしていた。
「……ええ。そうですね」
曖昧に微笑み返し、リナリアは近づいてきた給仕から酒杯を受け取った。
酒杯に注がれているのは葡萄酒だ。同じようにデイジーも酒杯を受け取る。
少しして、テオドシウスが会場の真ん中に立った。
がやがやとしていた会場が、しんと静まり返る。
「皆のもの、よく集まってくれた。今日は《花冠の聖女》リナリア・バークレインの尽力により、《光の樹》が余の背丈よりも高く成長したことを祝う宴だ。料理人が腕を奮った料理と菓子に舌鼓を打ち、楽しいひと時を過ごしてほしい。では、聖女に乾杯!」
そう言って、テオドシウスは手にした酒杯を高々と掲げた。
(私に乾杯してくださるんですか国王様!?)
打ち合わせになかったことを言われて、リナリアは胸中で慌てた。
会場にいる皆がこちらを見ている。
嬉しいやら恥ずかしいやら光栄やらで、顔が熱くなった。
いまから起こることを考えれば、呑気に顔を赤くしている場合ではないのはわかっているのだが。
「乾杯!」
「《花冠の聖女》様に感謝を!」
口々に言って、みなが一斉に酒杯を呷る。
リナリアは葡萄酒を飲むふりをしながら、ウィルフレッドを見た。
酒杯を呷ったウィルフレッドは顔色を変えて胸を押さえた。
手から抜けた酒杯が地面に落ちて割れる。彼自身もまたその場に倒れ込んだ。
王宮の中庭では国王主催のガーデンパーティーが開かれていた。
といっても、大々的なものではない。
集められたのは二人の王子、筆頭書記官メイナード、宰相アーカム、それから国の重鎮と四大公爵家。
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ジョシュアは多忙という至極真っ当な理由で。エルザは体調不良という名目で欠席した。
ヴィネッタに話を聞いたのだが、エルザは活き活きと恋人の世話を焼いているらしい。
その甲斐あってか、ほとんどベッドから降りられないセレンが自分の足で歩けた日があったそうだ。朗報にイスカが喜んでいた。
「晴天に恵まれて良かったわね」
不意に、右手から美しい声がした。
晴れ渡った青空を見上げていたリナリアは、びくっと肩を震わせた。
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優しく微笑むデイジーは袖と襟と裾に金色の刺繍された紺碧色のドレスを纏っていた。
日差しを浴びて煌めく蜂蜜色の髪にはドレスと同色のリボン。
リナリアもまた淡黄色のドレスで着飾っていたが、デイジーの輝きとは比べるべくもない。
ガーデンパーティーに集まった貴族たちはデイジーに熱い視線を注いでいる。
中庭の隅で待機している宮廷楽団も給仕もみんなデイジーを気にしていた。
デイジーはリナリアが主役だと言ったが、会場にいる者たちの心を鷲掴みにしているのはデイジーだ。
思えば、妃選考会の会場でも、デイジーはその美貌と魅惑の微笑みで数多の歌姫たちを虜にしていた。
「……ええ。そうですね」
曖昧に微笑み返し、リナリアは近づいてきた給仕から酒杯を受け取った。
酒杯に注がれているのは葡萄酒だ。同じようにデイジーも酒杯を受け取る。
少しして、テオドシウスが会場の真ん中に立った。
がやがやとしていた会場が、しんと静まり返る。
「皆のもの、よく集まってくれた。今日は《花冠の聖女》リナリア・バークレインの尽力により、《光の樹》が余の背丈よりも高く成長したことを祝う宴だ。料理人が腕を奮った料理と菓子に舌鼓を打ち、楽しいひと時を過ごしてほしい。では、聖女に乾杯!」
そう言って、テオドシウスは手にした酒杯を高々と掲げた。
(私に乾杯してくださるんですか国王様!?)
打ち合わせになかったことを言われて、リナリアは胸中で慌てた。
会場にいる皆がこちらを見ている。
嬉しいやら恥ずかしいやら光栄やらで、顔が熱くなった。
いまから起こることを考えれば、呑気に顔を赤くしている場合ではないのはわかっているのだが。
「乾杯!」
「《花冠の聖女》様に感謝を!」
口々に言って、みなが一斉に酒杯を呷る。
リナリアは葡萄酒を飲むふりをしながら、ウィルフレッドを見た。
酒杯を呷ったウィルフレッドは顔色を変えて胸を押さえた。
手から抜けた酒杯が地面に落ちて割れる。彼自身もまたその場に倒れ込んだ。
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