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06:王都到着!
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理不尽な理由で勤めていた会社から解雇されたという中年男性――コンラッドの不幸な身の上話を聞いたり、老婆や親子と話している間に王都ソルシエナに着いた。
「迷惑かけて悪かったな、リナリア」
停留所で降りると、コンラッドは頬を掻きながらそう言った。
馬車の中で話し込んだおかげか、彼は憑き物が落ちたような顔をしている。
「謝るならダニーくんに謝ってください」
「すまなかった、ダニー」
「いーっ、だ! おじさん、嫌い!!」
ダニーはぷいっと顔を背けて母親の腰に抱きついた。
「リナリアちゃん、本当にありがとうね」
「さよなら、お姉ちゃん!」
親子に別れの挨拶をした後、リナリアは右肩にアルルが入った鞄を下げ、左手でトランクケースを引き、今夜の宿を探すべく歩き出そうとした。のだが。
「ちょっと待ってくれ、リナリア。少し君と話したい」
五歩も歩かないうちに呼び止められた。
振り返れば、目深にフードを被った女性――カミラが立っている。
改めて見ると、目深にフードを被ったカミラは相当に怪しかった。
全身が黒一色のローブにすっぽりと包まれており、わかるのは性別と背丈くらいなものだ。
馬車の停留所付近に集まっている人々も、なんだこの人、という目でカミラを見ている。
彼女はカミラと名乗ったが、恐らく偽名だろう。
ここまで徹底して外見を隠しておきながら、本名を言うとは考えにくい。
「話ですか?」
リナリアは右肩に下げている鞄を意識した。
少し開いた鞄の入口から、青い目がこちらを見ているのを感じる。
できれば早く宿を探してアルルを解放してあげたい。
今日は朝からずっとアルルを鞄に閉じ込めている。
馬車の休憩中は皆の目を盗んでこっそり外に出してあげたりはしていたのだが、あの短時間では疲れを取るには全く足りていないはずだ。
「ああ。質問だ。天秤の一方の皿に大勢の人間。もう一方の皿にそのウサギが乗っていると仮定しよう」
「!!」
人差し指で鞄を指さされ、リナリアは緑色の目を剥いた。
「なんでアルルのことを知っているんですか?」
アルルのことは誰にも言っていないし、鞄の中でアルルはリナリアの言いつけを守り、極力動かずじっとしていた。
本当にアルルは聞き分けが良く、辛抱強い。
魔物であることが信じられないくらいに。
「それはな。君がダニーくんを守るべくコンラッド氏に立ち向かったとき、鞄から頭を出していたからだよ。君が興奮したコンラッド氏に殴られるのではないかと心配で堪らなかったのだろう」
「そうだったんですか……」
後でアルルに謝ろうと決めた。
「わかりました。質問の続きをどうぞ」
「天秤の皿に乗っている大勢の人間とウサギ――アルルくんというのかな。助けられるのは片方だけだとしたら、君はどちらを選ぶ?」
「アルルです」
質問の意図がわからないものの、リナリアは正直に答えた。
リナリアの返答が予想外だったのか、鞄の中でアルルが身じろぎした。
「ほう」
カミラは面白がるように唇の両端を上げた。
「君は万人よりアルルくんを選ぶのか」
「アルルはこれまで何度も私を助けてくれましたから。顔も知らない誰かとアルルを天秤にかけるなら、アルル一択ですよ。迷う余地なんてありません」
「ふむ。聖女には向いていないな。一羽のウサギのために万人を見殺しにするなど論外だ」
「では私は万人から悪人の謗りを受けましょう」
リナリアは動じずカミラを見つめた。まっすぐな瞳で。
「迷惑かけて悪かったな、リナリア」
停留所で降りると、コンラッドは頬を掻きながらそう言った。
馬車の中で話し込んだおかげか、彼は憑き物が落ちたような顔をしている。
「謝るならダニーくんに謝ってください」
「すまなかった、ダニー」
「いーっ、だ! おじさん、嫌い!!」
ダニーはぷいっと顔を背けて母親の腰に抱きついた。
「リナリアちゃん、本当にありがとうね」
「さよなら、お姉ちゃん!」
親子に別れの挨拶をした後、リナリアは右肩にアルルが入った鞄を下げ、左手でトランクケースを引き、今夜の宿を探すべく歩き出そうとした。のだが。
「ちょっと待ってくれ、リナリア。少し君と話したい」
五歩も歩かないうちに呼び止められた。
振り返れば、目深にフードを被った女性――カミラが立っている。
改めて見ると、目深にフードを被ったカミラは相当に怪しかった。
全身が黒一色のローブにすっぽりと包まれており、わかるのは性別と背丈くらいなものだ。
馬車の停留所付近に集まっている人々も、なんだこの人、という目でカミラを見ている。
彼女はカミラと名乗ったが、恐らく偽名だろう。
ここまで徹底して外見を隠しておきながら、本名を言うとは考えにくい。
「話ですか?」
リナリアは右肩に下げている鞄を意識した。
少し開いた鞄の入口から、青い目がこちらを見ているのを感じる。
できれば早く宿を探してアルルを解放してあげたい。
今日は朝からずっとアルルを鞄に閉じ込めている。
馬車の休憩中は皆の目を盗んでこっそり外に出してあげたりはしていたのだが、あの短時間では疲れを取るには全く足りていないはずだ。
「ああ。質問だ。天秤の一方の皿に大勢の人間。もう一方の皿にそのウサギが乗っていると仮定しよう」
「!!」
人差し指で鞄を指さされ、リナリアは緑色の目を剥いた。
「なんでアルルのことを知っているんですか?」
アルルのことは誰にも言っていないし、鞄の中でアルルはリナリアの言いつけを守り、極力動かずじっとしていた。
本当にアルルは聞き分けが良く、辛抱強い。
魔物であることが信じられないくらいに。
「それはな。君がダニーくんを守るべくコンラッド氏に立ち向かったとき、鞄から頭を出していたからだよ。君が興奮したコンラッド氏に殴られるのではないかと心配で堪らなかったのだろう」
「そうだったんですか……」
後でアルルに謝ろうと決めた。
「わかりました。質問の続きをどうぞ」
「天秤の皿に乗っている大勢の人間とウサギ――アルルくんというのかな。助けられるのは片方だけだとしたら、君はどちらを選ぶ?」
「アルルです」
質問の意図がわからないものの、リナリアは正直に答えた。
リナリアの返答が予想外だったのか、鞄の中でアルルが身じろぎした。
「ほう」
カミラは面白がるように唇の両端を上げた。
「君は万人よりアルルくんを選ぶのか」
「アルルはこれまで何度も私を助けてくれましたから。顔も知らない誰かとアルルを天秤にかけるなら、アルル一択ですよ。迷う余地なんてありません」
「ふむ。聖女には向いていないな。一羽のウサギのために万人を見殺しにするなど論外だ」
「では私は万人から悪人の謗りを受けましょう」
リナリアは動じずカミラを見つめた。まっすぐな瞳で。
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