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36:くるくる回る恋心(2)

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「ああ、旭から聞いた。一緒の班なんだってね」
「普通の人間は猫に危害を加えたりしないよ。猫に敵意を抱くのは一部の人間だけだ。この前だって今日だって、何もなかっただろ? 可愛い、撫でさせてほしいって寄ってきた人はいたけど」
「そうですけど……でもやっぱり、まだちょっと怖いです」
 ノエルは小さな声で言った。

「無理しなくても、少しずつでいいよ。大丈夫。気楽にいこう」
「はい」
 ノエルの同意を得てから、高坂くんは改めて私を見た。

「日下部さんはコンビニの帰り?」
「うん。ミルクティーを買ってきたの。あのお茶会から、ミルクティーにはまっちゃって。元から好きだったんだけどね。もうお散歩は終わり?」
「うん。帰るところだった」
 自然と、一緒に帰る流れになった。彼と帰り道を歩くのはこれで四回目だ。出会って、一ヶ月で四回。一週間に一度は彼と歩いていることになる。幸せで、嬉しいことのはずなのに、私は寂しさを覚えている。すぐそこにある終わりを知っているが故の寂しさ。

「明後日はオリエンテーションだね。ちょっと緊張するなぁ。でも、仲の良い友達と班になれたから楽しみ」
 桜庭高校1年全体オリエンテーション合宿は明後日から一泊二日の日程で行われる。集団行動の大切さを学ぶだとか、学習習慣をつけるとか、そんな名目なんてそっちのけで、生徒たちは大きなイベントに浮かれていた。郊外の湖の傍にある宿泊施設は星が綺麗に見えるところらしい。どうにか夜に抜け出して見に行ってみたいと思っていた。

「うん。友永くんって格好良いから、他の友達に羨ましがられた」
 友永くんは高坂くんに匹敵するほど格好良い人なんだけど、傍にいてもそれほど緊張しないのは、異性として全く意識していないからだろう。同じ天パ仲間として、彼となら軽口を叩いてふざけ合うことだってできてしまう。高坂くんが相手ならああはいかない。

 いまだって、私はオリエンテーションの班決めのときに起きたちょっとした騒動を話しながら、変なことを喋っていないだろうか、うまく笑えているだろうかと、心配してばかりいる。

「旭といえばさ、白雪先輩に告白して見事にふられたらしいよ」
「えっ」
「ここだけの話な。ばらしたなんてばれたら怒られる」
 高坂くんは人差し指を口元に持っていった。ただそれだけの仕草まで絵になる人だ。
「白雪先輩の趣味ってかなり特殊らしい。体脂肪率が10%を切るか、腹筋が割れたら来てね、だって」
「あー……」
 お茶会でお邪魔したとき、白雪先輩の部屋の棚に並んでいた雑誌を思い出す。そうか、白雪先輩って、肉体美を愛する人だったのか。
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