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入学式の日。
高坂くんと同じクラスだったら嬉しいな――などという仄かな期待は、廊下に張り出されたクラス分けの表で粉砕された。
私は1組。彼は5組。教室は校舎の端と端。
この配置だと、校内で彼と偶然に出会う機会はそうそうないだろう。
「…………」
今日、私は、高坂くんのアドバイス通り、朝にシャワーを浴びた後、前髪をヘアアイロンで伸ばして、後ろは一つにくくり、雑貨屋で選び抜いた水色のリボンをつけてきた。
洗面所の鏡の前で、ばっちり決まったと浮かれるくらい、綺麗に仕上がったから、高坂くんには是非感想を求めてみたかったんだけど……な。
うん、やっぱり、世の中はそんなに甘くないよね。
掲示に殺到している新入生の中には、クラス表を見てはしゃいでいる子もいるし、肩を落としている子もいる。あの子たちは中学時代からの友達なのだろう。もちろん、一人で上京してきた私に友達なんているわけがない。
知り合いの高坂くんがいてくれたら、心強かったんだけど。
肩を落としかけたとき、私の目に映ったのは同じ1組の表内にある名前だった。
友永旭。
どこかで聞いた覚えが……あっ。
そうだ、白雪先輩が言っていた、桜庭荘の205号室の住人だ!
どんな人なんだろう。
私は階段を上って、1年1組に入った。1組は階段のすぐ傍なので便利だな、なんて思いつつ、黒板に張られた座席表を確認する。自分の席は教壇にほど近く、あまり嬉しくない場所だ。友永くんは私の斜め、二つ後ろの席だった。
振り返って確認すれば、友永くんは既に着席していた。
私は頬杖をついて、眠そうにしている彼の姿に衝撃を受けた。
彼は高坂くんよりも背が高くて、凛々しく精悍な顔つきをしている。彼もまた顔面偏差値が高いイケメンだ。桜庭荘は顔面偏差値の高い人ではないと入居できない決まりでもあるんだろうか……いや、ないな。そんな審査があったら、私が入れるわけがないもの。
ともあれ、私が彼を見て驚いたのは、単純に格好良いからではない。
彼の髪もまた癖っ毛なのだ。天然パーマといっても良いほどに跳ねている。
彼は……まさか……!?
「あ、あの。初めまして、私、桜庭荘の104号室に住んでる日下部といいます」
声をかけると、窓の外を見ていた彼は、私を見て軽く目を見張った。具体的にいうなら、曲がりくねった私の髪を見て。
「えー……ちょっと質問なんだけど」
友永くんは頬杖を解き、真顔で尋ねてきた。
「毎朝の髪のセット、何分かけてる?」
「三十分近く。雨の日はそれ以上かかることもある」
「小学校のあだ名は?」
「ブロッコリー」
『…………』
私たちは、そこで互いに押し黙り、見詰め合った。
数秒の後、友永くんは無言で肘を曲げ、すっと私に向かって手を差し出してきた。
がしっ!!
漫画のようにその手を力強く握り合い、深く頷く私たち。
……同士!!
言葉などなくとも、私たちはこの日このとき、わかりあったのだった。
高坂くんと同じクラスだったら嬉しいな――などという仄かな期待は、廊下に張り出されたクラス分けの表で粉砕された。
私は1組。彼は5組。教室は校舎の端と端。
この配置だと、校内で彼と偶然に出会う機会はそうそうないだろう。
「…………」
今日、私は、高坂くんのアドバイス通り、朝にシャワーを浴びた後、前髪をヘアアイロンで伸ばして、後ろは一つにくくり、雑貨屋で選び抜いた水色のリボンをつけてきた。
洗面所の鏡の前で、ばっちり決まったと浮かれるくらい、綺麗に仕上がったから、高坂くんには是非感想を求めてみたかったんだけど……な。
うん、やっぱり、世の中はそんなに甘くないよね。
掲示に殺到している新入生の中には、クラス表を見てはしゃいでいる子もいるし、肩を落としている子もいる。あの子たちは中学時代からの友達なのだろう。もちろん、一人で上京してきた私に友達なんているわけがない。
知り合いの高坂くんがいてくれたら、心強かったんだけど。
肩を落としかけたとき、私の目に映ったのは同じ1組の表内にある名前だった。
友永旭。
どこかで聞いた覚えが……あっ。
そうだ、白雪先輩が言っていた、桜庭荘の205号室の住人だ!
どんな人なんだろう。
私は階段を上って、1年1組に入った。1組は階段のすぐ傍なので便利だな、なんて思いつつ、黒板に張られた座席表を確認する。自分の席は教壇にほど近く、あまり嬉しくない場所だ。友永くんは私の斜め、二つ後ろの席だった。
振り返って確認すれば、友永くんは既に着席していた。
私は頬杖をついて、眠そうにしている彼の姿に衝撃を受けた。
彼は高坂くんよりも背が高くて、凛々しく精悍な顔つきをしている。彼もまた顔面偏差値が高いイケメンだ。桜庭荘は顔面偏差値の高い人ではないと入居できない決まりでもあるんだろうか……いや、ないな。そんな審査があったら、私が入れるわけがないもの。
ともあれ、私が彼を見て驚いたのは、単純に格好良いからではない。
彼の髪もまた癖っ毛なのだ。天然パーマといっても良いほどに跳ねている。
彼は……まさか……!?
「あ、あの。初めまして、私、桜庭荘の104号室に住んでる日下部といいます」
声をかけると、窓の外を見ていた彼は、私を見て軽く目を見張った。具体的にいうなら、曲がりくねった私の髪を見て。
「えー……ちょっと質問なんだけど」
友永くんは頬杖を解き、真顔で尋ねてきた。
「毎朝の髪のセット、何分かけてる?」
「三十分近く。雨の日はそれ以上かかることもある」
「小学校のあだ名は?」
「ブロッコリー」
『…………』
私たちは、そこで互いに押し黙り、見詰め合った。
数秒の後、友永くんは無言で肘を曲げ、すっと私に向かって手を差し出してきた。
がしっ!!
漫画のようにその手を力強く握り合い、深く頷く私たち。
……同士!!
言葉などなくとも、私たちはこの日このとき、わかりあったのだった。
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