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 暖かな陽気に私はぐーっと背伸びする。
 庭には鳥たちが仲良くチュンチュンと鳴いて戯れている。
 今日は茶屋もお休みで、縁側で過ごすのはとても気持ちが良い。

「鷹華。着物を洗濯しようと思うけど、君の服も一緒に洗濯しようか。古着だけどね、小袖を譲ってもらったんだ」
「コソデ……?」
「うん、こういうのだよ。着なれない内は変に感じるかもしれないね」
「嬉しいです! ですが、どうやって着たら良いのでしょうか」
「そうだね……初めて着るとなると難しいかな。嫌じゃなければ手伝うよ」
「本当ですか? ぜひお願いします」

 渡された小袖は、淡く薄い桃色の小花模様の可愛らしいものだった。
 正直、私に似合うのかな――そんな気持ちにさえなってしまう。せめて私も彼と同じ黒髪だったなら、と思わずにはいられない。
 彼の教えに沿って、以前いただいた肌着の中の肌襦袢をブラウスを脱いでから袖を通す。そして桃色のスカートに白の靴下と、身に着けていたものを全て脱ぎ捨てると、私の体は長襦袢、小袖へと包まれる。
 ここまで出来て、私は彼の方へと振り返る。彼は私を気遣ってか後ろを向いてくれていた。

「あの、出来ました。ここからどうしたら……」
「うん、じゃあ……ちょっとごめんね」

 そう言って彼は魔法を思わせるように丁寧に素早く私を着付けてくれた。
 最後に帯を締める時、ぎゅーっと閉まる感じはコルセットにとても似ていたが、この帯の方がお腹が苦しくは感じなかった。
 着付けが終わって私が感じたもの、それは……。

「う、動きづらいです……こう、ぴっちりと肌にくっついて……」
「やはりそうか。君の着ていたものはふんわりとしていたから。う~ん……嫌かい?」
「いっいえっ、嫌なんてことはないですよ! こんな天気の良い日に外に出れない方が嫌です! 頑張ります!」

 そう、いつも洗濯しているときは着方がいまいちわからない長襦袢とかを羽織って部屋に籠るだけ。
 今日のようなポカポカ陽気に出れないなんて、そんなのは嫌っ。それに洗濯なら私でも役に立てそうな気さえするのだ。
 私は着なれない小袖に苦戦しながら外へ出ようとするとそこに靴はなく、かわりに下駄が置いてあった。それは明らかに彼のサイズとは違うもので私は尋ねる。

「これってもしかしなくても……」
「君のだよ。どうせならと思ってね」
「……挑戦してみます……あっ、なんだかとても不思議な感じ、です?」
「ははっ、どうして疑問系なんだい? さぁ、お手をどうぞ」

 私は差し出された手を取った。少し鼓動が早く感じたが、それは彼に対してなのか初めての下駄に緊張するあまりなのか……それはわからない。もしかしたら両方の可能性だってある。
 それでも今確かなのは、この手を握らなければ私は転んでいた。間違いなく顔面から。
 初めての下駄はとても難しくて上手に足を踏み出せない。
 だからこそ感じるのだ。彼がいてくれて良かったと。

「どうかしたかい? 鷹華」
「いえ……あの日から、いつもありがとうございます」

 私の言葉に彼は照れたように私から手を離し頭を掻いていた。
 彼の照れる姿なんて初めて見たかもしれない。私も嬉しくなってはにかんだ。
 けれど、私は直ぐにバランスを崩して尻餅をつく。その姿に彼は笑って起こしてくれた。
 そんな日常に、私は幸せを感じてきています。
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