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第二章 地底都市編
第七話「解き放たれし邪」
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「…きろ」
誰かが呼びかけている。
「…起きろ!」
その呼びかけでジュドは目を覚ます。
天井には大きな大穴が開き、巨大な黒が空を覆う。
彼らを守った分厚い土の壁は粉々に瓦解しており、神殿一帯は崩落し焦土と化していた。
「全員かなりの重症だが。無事だ」
ぼやける視界の中で、目の前には槍を片手に持った男が立っていた。
「大丈夫ですか、ジュドさん…」
起き上がり、周りを見渡すと自分以外の四人が倒れていた。全員意識はあるようだ。
「何が起こっているんだ、スティングレイ」
全身の負傷が痛む状況でジュドは我に返り、男に状況を問う。
「邪神教がここに来た目的は、この黒石神殿に祀られていた〝黒の石〟に封印されている”邪神”の完全なる顕現だ。俺も邪神というのは太古にこの世界に存在した神…ということくらいしか知らない」
邪神。
小さい頃に呼んだ本の中に登場することはあったが、本当にそんなものが実在しているとはジュドたちは誰も知らなかった。
「恐らく、地底神なら何か知っているだろう。なぜお前たちに黙っていたのかは知らないが」
あまりにも色々な話が出てきて、ジュドたちの理解が追いつかない。
もしかするとこの平穏な世界の裏には重要な何かが隠されているのではないだろうか。
そう感じていた時、耳を劈くような咆哮が辺りに響き渡った。
「上を見ろ」
少し鮮明になった視界を見上げると、そこには巨大な口と隻眼があり、その先端についた瞳がこちらを睨みつけていた。憎悪と怨嗟に染められたその瞳を見て、男は言う。
「太古の邪神、その一角。黒い石の神〝ゴル=ゴロス〟」
蛙のような胴体に六本の大きい手足。先端の頭からは無数の髪が生えており、その一本一本がワームのような形をした触手になっていた。全身は黒いヘドロのようなもので覆われ、発している
禍々しいオーラが天を昏く染めていた。
その圧倒的な存在感は地底神とは別質のものだと五人は直感的に感じた。
「あんなバケモノ…どうやって倒せば…」
ジュドたちは勝ち目がないこと確信し、絶望していた。
スティングレイは絶望した一行に話す。
「一つだけ、手はある」
「このトリシューラは癒えぬ傷を与える。その対象は神ですら等しく同じだ」
ジュドたちは察した。
「まだ動けるか?」
「正直言って五人とも限界だが…お前がやつの喉元に辿り着く時間くらいは稼いでやるよ」
システィ、ダグラス、モーリス、ルシアの四人も頷いた。
全員が再び武器を握りしめ、覚悟を決めた。
スティングレイは禍々しい槍を片手に駆け出す。
その行く手を阻むように無数の触手のような髪が襲い掛かる。
「〈身体強化(ストレングス)〉」
「〈刻印加速(ルーン・アクセラレート)〉」
残り少ない魔力で、モーリスとルシアが同時に唱える。
「行け!スティングレイ!」
ジュドの掛け声と共に、ダグラス、システィーナの二人も傷だらけの体を強化魔術により無理やり動かし、迫り来る触手の注意を逸らす。
防衛陣から漏れた触手が凄まじい勢いで男を追撃してくる。
先頭の2本は持ち前の槍で切り落としたが、撃ち漏らした1本が男の腹部に直撃する。
「…ッ!」
えぐられた腹部からは大量の血が流れ、体を覆う包帯はボロボロと剥がれ落ち始めていた。
男は徐々に体が槍により蝕まれ始めていることに気づきながらも、視線の先に広がる巨躯めがけて全速力で走る。
そして、とうとうその喉元まで辿り着くことに成功した。
―グシャッ!!
山よりも大きい暗黒の巨体に三叉槍が刺さると同時に、目の前の大口が轟音を響かせた。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
刹那の瞬間、全身に呪詛の紋様が広がり、巨体はみるみるうちに崩れ落ちていく。
しかし…崩れ去るのは巨体だけではなかった。
最後の気力を振り絞り、全身全霊の一撃を放った包帯の男もまた限界だったのだ。
朦朧とする意識の中で、自分と同じように最後の力で道を切り開いた仲間たちの無事を確認し、男は安堵した。
「今度は…助けられた」
暗い地の底へ落ち、過去の後悔、惜別を払拭する、ただそのために力を欲し、禁忌を手にした男の意識が。
―途絶える。
誰かが呼びかけている。
「…起きろ!」
その呼びかけでジュドは目を覚ます。
天井には大きな大穴が開き、巨大な黒が空を覆う。
彼らを守った分厚い土の壁は粉々に瓦解しており、神殿一帯は崩落し焦土と化していた。
「全員かなりの重症だが。無事だ」
ぼやける視界の中で、目の前には槍を片手に持った男が立っていた。
「大丈夫ですか、ジュドさん…」
起き上がり、周りを見渡すと自分以外の四人が倒れていた。全員意識はあるようだ。
「何が起こっているんだ、スティングレイ」
全身の負傷が痛む状況でジュドは我に返り、男に状況を問う。
「邪神教がここに来た目的は、この黒石神殿に祀られていた〝黒の石〟に封印されている”邪神”の完全なる顕現だ。俺も邪神というのは太古にこの世界に存在した神…ということくらいしか知らない」
邪神。
小さい頃に呼んだ本の中に登場することはあったが、本当にそんなものが実在しているとはジュドたちは誰も知らなかった。
「恐らく、地底神なら何か知っているだろう。なぜお前たちに黙っていたのかは知らないが」
あまりにも色々な話が出てきて、ジュドたちの理解が追いつかない。
もしかするとこの平穏な世界の裏には重要な何かが隠されているのではないだろうか。
そう感じていた時、耳を劈くような咆哮が辺りに響き渡った。
「上を見ろ」
少し鮮明になった視界を見上げると、そこには巨大な口と隻眼があり、その先端についた瞳がこちらを睨みつけていた。憎悪と怨嗟に染められたその瞳を見て、男は言う。
「太古の邪神、その一角。黒い石の神〝ゴル=ゴロス〟」
蛙のような胴体に六本の大きい手足。先端の頭からは無数の髪が生えており、その一本一本がワームのような形をした触手になっていた。全身は黒いヘドロのようなもので覆われ、発している
禍々しいオーラが天を昏く染めていた。
その圧倒的な存在感は地底神とは別質のものだと五人は直感的に感じた。
「あんなバケモノ…どうやって倒せば…」
ジュドたちは勝ち目がないこと確信し、絶望していた。
スティングレイは絶望した一行に話す。
「一つだけ、手はある」
「このトリシューラは癒えぬ傷を与える。その対象は神ですら等しく同じだ」
ジュドたちは察した。
「まだ動けるか?」
「正直言って五人とも限界だが…お前がやつの喉元に辿り着く時間くらいは稼いでやるよ」
システィ、ダグラス、モーリス、ルシアの四人も頷いた。
全員が再び武器を握りしめ、覚悟を決めた。
スティングレイは禍々しい槍を片手に駆け出す。
その行く手を阻むように無数の触手のような髪が襲い掛かる。
「〈身体強化(ストレングス)〉」
「〈刻印加速(ルーン・アクセラレート)〉」
残り少ない魔力で、モーリスとルシアが同時に唱える。
「行け!スティングレイ!」
ジュドの掛け声と共に、ダグラス、システィーナの二人も傷だらけの体を強化魔術により無理やり動かし、迫り来る触手の注意を逸らす。
防衛陣から漏れた触手が凄まじい勢いで男を追撃してくる。
先頭の2本は持ち前の槍で切り落としたが、撃ち漏らした1本が男の腹部に直撃する。
「…ッ!」
えぐられた腹部からは大量の血が流れ、体を覆う包帯はボロボロと剥がれ落ち始めていた。
男は徐々に体が槍により蝕まれ始めていることに気づきながらも、視線の先に広がる巨躯めがけて全速力で走る。
そして、とうとうその喉元まで辿り着くことに成功した。
―グシャッ!!
山よりも大きい暗黒の巨体に三叉槍が刺さると同時に、目の前の大口が轟音を響かせた。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
刹那の瞬間、全身に呪詛の紋様が広がり、巨体はみるみるうちに崩れ落ちていく。
しかし…崩れ去るのは巨体だけではなかった。
最後の気力を振り絞り、全身全霊の一撃を放った包帯の男もまた限界だったのだ。
朦朧とする意識の中で、自分と同じように最後の力で道を切り開いた仲間たちの無事を確認し、男は安堵した。
「今度は…助けられた」
暗い地の底へ落ち、過去の後悔、惜別を払拭する、ただそのために力を欲し、禁忌を手にした男の意識が。
―途絶える。
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