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第一章 異能学園の怪人使い

藍より出でよ

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「俺は--」

 どこか見覚えのある彼女の背中に。
 言い知れない感情の波が内から沸き上がって、纏まらない心が意味も分からず体を突き動かす。
 しかし--


『--ピザのお届けに参りました、大岩様のお宅でよろしいでしょうか』



 --自分でも何を言おうとしているのか分かっていないままの口から飛び出そうとした言葉は、テレビから聞こえてくる聞き覚えのある台詞によって遮られた。

 彼女の背中からテレビに視線を向ければ、そこには今の俺と同じようなピザの配達員の格好の帽子を目深に被った男が、一つの家の前で呼び鈴を鳴らしている。

『そうだ、いかにも俺が大岩だが』

 そして聞こえてきたの台詞も、さっき聞いたばかりのものによく似ている。
 いや違う。
 じゃなくて、こっちがなんだ。
 俺が大倉に言われてやった劇中再現。
 彼女の話に気をとられている間に話が進み、いつの間にかその原作シーンのところにまでやっていていた。

 その後も身に覚えのある展開が続く。

『しかしなぁ、俺はピザなど頼んだ覚えはないのだが』
『あれ、そうでしたか? おっかしいな、確かにここのはずなんですが』
『そうか。一応どんなものを持っていたのか聞いてもいいかね』
『はい、お持ちしましたのは使、当店自慢の一枚でございます』

 そうだ……俺は結局、この台詞の意味を知らないままだった。
 衝撃的な展開でいつの間にか手放したピザの箱。
 どこに置いたのかと思って周囲に視線を向けると、床の隅の方で所在なさげに捨て置かれている。

 その時だ、箱の中身を確かめずにはいられない衝動に駆られたのは。
 どうしてかは分からない。
 でも何故か、俺はそれをしなければならない気がしたんだ。
 その間にも物語は進行していく。

『……いいだろう。何かの手違いがあったようだ、すぐに持ってきたまえ』
『ありがとうございます、それではこれよりお伺い致しますので少々お待ち下さい』
『ああ、こちらも準備して待っている』

 部屋の片隅に捨て置かれた小道具。
 俺をこの場に連れてくるためだけのそれに何故今になって執着しているのか。
 その理由はたぶん、この中にある。
 そんな確信のまま開けた箱の中には--



『……来たか、黒城』

『おいおい大岩、それじゃあ折角の茶番が台無しじゃないか。役者の正体ばらすのはもっと後になってからってのが相場だぜ?』

『知らんな、そんなこと。それで、何故今更そんなものを持ってきた。そんな』

『そうかもしれないな、でもそうじゃないかもしれない。』

『もう遅い、もう何もかも遅いのだ。地上の人間が欲望のままに地球を汚したことでこの星は急速に滅亡へと向かっていっている。
 先の時代へこの世界を残すためには、誰かがその現況を消さなくてはならん』

『その役割を担うのがお前だと? 馬鹿なこと言うなよ、自然を愛し、命を愛し人を愛すお前が、そんなこと出来るわけがないだろう』

『出来る出来ないの話は、俺が王になったその時終わった。既に結論は出たのだ。俺はこの星の未来のために人類を滅亡させる。

 それが俺の--地帝鋼王カイザー・ロック・エンドの歩むべき道』

『……そうか、やっぱ決意は固いのか。悲しいねぇ以前のお前なら俺と一緒にこいつを食べて、この地球の未来ってやつを大真面目に議論してたもんなんだがな……』

『そしてお前は俺との関係が露見し聖華の戦士団から追放された。
 お前一人が俺たち地帝人との融和を訴えたところで無意味だったんだ。
 俺たちは最後の最後に争うしかない運命だったのだ、黒城』

『--だったらしょうがねぇ、力ずくで止めてやる。
 そんで頭の固いお前をその似合ってねぇ目的ごとぶちのめした後は、また腹が破れるほどピザ食わしてやるよ。
 何たって俺は、お前のたった一人の親友なんだからな--聖華転身!』



『不滅の戦士、ローズブラック。さあ、俺らの青春に白黒蹴りつけようじゃねぇか----!!!』



 --そこには、何の変哲もない、ジャガイモと胡椒だけが乗った一枚のピザが入っていた。

 驚くべき要素があったわけではない。
 始めから自分で言った通りのものがそこにあっただけ。
 でも俺は、このピザの本当の意味を今ようやく理解した。

 これは俺が彼女に会うための小道具なんかじゃない。
 これはテレビの中の二人がかつて過ごした
 フィクションで、作り物で、架空の世界の話だとしても。
 


 --今俺の中に芽生えた感情は、嘘偽りのない本物なんだ。



「なぁ」

 だからこそ。
 さっきまでの勢いに任せたものじゃない。
 今度こそ、俺自身の言葉で、俺自身が考えた台詞で。
 彼女に伝えよう、俺自身を。
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