上 下
5 / 9
第一章 異能学園の怪人使い

お届けは黒の暗号を乗せて

しおりを挟む
 時刻は夜、場所は西の学生寮前。
 雲間から顔を覗かせる月が俺を見下ろしていた。

「……本当にこれでいいんだろうな?」

 大倉から言われた通りの格好に着替えたはいいものの、今更ながらこんな手順を踏まなければならないのかと疑う気持ちを拭いきれないでいた。
 そうというのも今の俺は--



「わからねぇ、どうしてわざわざ俺は……のコスプレなんぞさせられてるんだ?」



 --どうみたってピザチェーン店の店員にしか見えない格好をしていたからだ。

 しかもピザボックスまでしっかり持たされてもう完璧デリバリーに来たようにしか見えない。
 学園の敷地内であるにも関わらずデリバリー、
 圧倒的場違い感。
 正直この年になって恥ずかしさで死にそうになるとは思わなかった。
 

 そしてこんなことになったのは全っ部、大倉の言ったことが原因だった。
 あいつは過去の裏切りを思い出して落ち込んでた俺に向かって、こう話を切り出した。


 『特別推薦枠って知ってるか?』--と。






「特別推薦枠ってやつ、知ってるか?」

 たらふく食べて飲んでを繰り返した後、そんな台詞から大倉の話は始まった。

「お前らみたいに入学してから異能に目覚めたんじゃなくて遺伝か何かで生まれたときから異能を持ってる子供が対象になる制度でな。
 色々条件があるんだがそいつは通常の試験をパスして学園に入ることができてなおかつ、いくつかの特権が許されている」



「基礎を除いた講義の免除、訓練用ダンジョンで得た収益に関する免税、武器防具の製作費用の完全無料とか色々ある。だが今一番お前に関係あるものは--パーティーメンバーの制限についてだ」



「パーティーを組むときの最低人数は四人、多くて六人くらいがダンジョンで行動するときにもっとも効率がいいとされてる」



「だが特別扱いの奴らには特例措置として、その人数制限が解除されているんだよ」







『いいか、そいつと会うには私の言う通りに行動しろ。それがあいつと交渉する一番の近道だ』



 大倉が語ったパーティー実習を乗り切る方法、それはいわゆる裏技のようなものだった。
 簡単に言えば特別推薦の生徒のパーティー人数が自由なのを逆手に取り、規定よりも少ない人数で実習を受ける、というもの。
 本当にそんなことが可能なのかと、入学の時に貰った生徒手帳を隅々まで見返してみると確かにそういった解釈の出来る条文がいくつか記載されていた。
 
 ただそれでも踏ん切りのつかない俺に「やってみる価値はあるだろう?」--と、そういって大倉はいくつもの指示が書かれた三つ折りの用紙を渡してきた。
 最終的には、俺はそこに書かれていたことを実行することに決めた。
 それ以外に選択肢がなかったからだ。



 --そして言われた通りに夜を待ち、用意された格好でいる、のだが……。
 やっぱりどこか納得がいかない。
 こんな姿にならないと会えないとかそいつは一体どういう奴なんだよ、絶対普通な奴じゃないって。
 それに俺を送り出すときの大倉の顔、あれ絶対ろくなこと考えてないぞ。
 大きすぎる嫌な予感、しかし……。

「……それでも従うしかないんだよなぁ」

 正直言ってこのままの状況が続けば俺に未来はない。
 退学だって現実的だ。
 だったらそれが例え罠だろうと現状打開の可能性があるなら挑む以外に道がねぇんだ。
 何より、やると決めたのは俺だ。

「--よしっ!」

 駄目で元々、とにかくやってみるしかねぇ。
 そう覚悟決めた俺は寮の玄関に前に移動して呼び出しパネルに指定された部屋の番号を入力する。
 反応があるまでの時間、緊張で胸が張り裂けそうな気持ちでぐっと待つ。


 
『--……誰だ、こんな時間に』



 そして数度のコールの後、ようやく反応があった。
 しかし予想に反し、パネルから聞こえてきたのは女の声。
 性別までは聞かされていなかったので若干面食らったがそんなことはおくびにも出さず、教えられた台詞を脳裏で反芻し復唱する。

「ピザのお届けに参りました、大岩様のお宅でよろしいでしょうか」
『ん? いや全然違……っい、いやそうだ! いかにも俺が大岩だが!』

 これは……成功か?
 第一関門というわけじゃないが、大倉からはとにかく会話を成立させられればまずは大丈夫だと聞いてはいる。
 思ったような反応じゃないのでやっちまったかと若干ハラハラしながらも、あくまで指示通り、次の反応を待つ。

『しかしなぁ、俺はピザなど頼んだ覚えはないのだが』
「あれ、そうでしたか? おっかしいな、確かにここのはずなんですが」
『そ、そうか。い、一応どんなものを持っていたのか聞いてもいいかね』
「はい、お持ちしましたのは使、当店自慢の一枚でございます」

 さあどうだ、ここが重要だと言われた決め台詞。
 正直これにどんな意味があるのか全然理解してないが、練習だけはさせられた。
 平静を装いながらもちょっとだけ挑発するような微妙な雰囲気というわけの分からん感じは出ているはずだ……たぶん。



『……いいだろう。何かの手違いがあったようだ、すぐに持ってきたまえ』



 よし、いけた! 成功だ!
 思わず全身に力が入る。
 ただあくまで声は冷静に、

「ありがとうございます、それではこれよりお伺い致しますので少々お待ち下さい」
『ああ、こちらも準備して待っている』

 そういって切れた通話、代わりに寮の入り口のロックが解除され静かに扉が開く。
 よし、やった。
 これで直接交渉できる!
 たまには大倉も役にたつじゃん!

 成功に逸る鼓動を落ち着かせ、俺は寮の中へと足を踏み入れる。
 第一歩は無事に終わった。
 次が本番、しくじれない。
 ああただ。

「準備……って、何のことだろう?」

 最後に相手が言ったことがどうにも引っ掛かる。
 大倉からは特にそういうことについては聞かされていないが、何を準備するというのだろうか。
 素朴な疑問に首を傾げつつも、とにかく今は交渉を成功させるのが先決だと。
 余計なことは後に回し、俺は目的の階を目指して寮の通路を進み、エレベーターに乗り込むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

ダンジョンの戦闘配信? いやいや魔獣達のための癒しスローライフ配信です!!

ありぽん
ファンタジー
はぁ、一体この能力は何なんだ。 こんな役に立たないんじゃ、そりゃあパーティーから追放されるよな。 ん? 何だお前、自ら寄ってくるなんて、変わった魔獣だな。 って、おいお前! ずいぶん疲れてるじゃないか!? だけど俺の能力じゃ……。 え? 何だ!? まさか!? そうか、俺のこの力はそういうことだったのか。これなら!! ダンジョンでは戦闘の配信ばかり。別に悪いことじゃいけけれど、だけど戦闘後の魔獣達は? 魔獣達だって人同様疲れるんだ。 だから俺は、授かったこの力を使って戦闘後の魔獣達を。いやいや共に暮らしている魔獣達が、まったりゆっくり暮らせるように、魔獣専用もふもふスローライフ配信を始めよう!!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...