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番外編
台無し(ロルガ視点)キスまでです
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『朝を迎えたら、ひとりの世界に逃げたくなる』初夜の続きをロルガ視点でどうぞ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
激しく求め合う夜を過ごしても、朝が来るといつも通りのナルセに戻っていた。
ブランケットをかぶって丸くなる姿を思い出すと頬がゆるんだ。どうしようもなくナルセのことが愛しくてたまらない。初めての夜なのに無理をさせてしまったとわかっている。今日は甘やかし、のんびり過ごすことに決めた。
一階へ降りると、従業員が完璧なあいさつと共にやってくる。朝食を持ってくるよう言い付けると、すでに用意がされていたらしく、部屋に戻ると間も無く華やかな食事を乗せた銀のトレーが届いた。
さすが、準王都というべきか。
新婚夫婦だと宣言をして街を練り歩いた甲斐がある。街一番の宿のサービスはなかなか悪くない。
「ナルシィ、出てこい」
ブランケットを頭からかぶり、丸くなっている姿は可愛らしいが、顔が見えないのでつまらない。
「早くしないと、全て食べてしまうぞ」
「……俺の皿からは食べない約束」
「夫婦の食事は一つの皿に盛り付けられるものだ」
「え、そうなの?」
ナルセはよほど空腹らしく、あわてて顔を出した。口元に果物を差し出すとおずおずと口を開くのが愛らしい。
「嘘だ」
「んぐ?!」
「夫婦なことは本当だ。ナルシィ、私の伴侶。生涯を共にする者」
再びブランケットを被ろうとするのを阻止し、背後から抱きしめる。赤く染まった首筋に点々と散る昨夜の痕跡を見つけ頭が熱くなるが、まずは食事を、と必死に衝動を抑えた。
なめらかな口当たりのスープや、一口サイズの冷菜、飾り切りされた果物。何を口に運んでやっても、ナルセは美味しいと喜ぶ。
「自分で食べられるのに……」
「新婚夫婦の食事はこうするものだ」
もちろん嘘に決まっている。
食事の最後にガラスのカップを渡すと、すぐにそれが何かわかったらしい。俺がポットを手に取り湯を注ぐのを目を輝かせて待った。
グラスの中で踊る赤い葉をじっと見つめる横顔から目が離せない。
変化を眺め、香りを楽しみ、最後に味わう。
かつて俺が教えた通りに“女神の祝福”を楽しんでいた。
ナルセは澄んだ青に口をつけ、ゆっくり飲み込むと、口内に漂う香りを確かめるように鼻で呼吸をした。
「やっぱり、不思議だ。カップからの香りと違う」
「お前の香りを知りたい」
「え?」
ナルセの手からカップを取り中身を含むと、ナルセを振り返らせ口を塞いだ。唇を重ねるだけで、すぐにその先を期待するように開いた隙間から女神の祝福を流し込む。ナルセは驚いた目をしていたが、素直に受け入れ飲み込んだ。そのまま空になった口内を舌で探れば昨夜とは違う口付けになる。しかし香りを楽しむ余裕なんてすぐに消えてしまった。
「ん、ふ、んぅ……」
こぼれた甘い吐息が欲望を焚き付ける。初めはためらいがちだったナルセだが、舌を擦り合わせるのが気に入ったらしく、自分からも動き出した。出て行こうとする俺の舌を追いかけて、こちらへも侵入してくる。柔く舌に歯を立てると小さく体を震わせた。これは痛くないとわかっているが、わざと口を離して尋ねる。
「嫌か?」
「嫌じゃない」
「じゃあ、好きか?」
ナルセは恨みがましい視線を送ってくるが、そんなもので俺は引かない。
「好きか?」
「……好き」
「そうか。俺にも飲ませてくれ」
ナルセは俺からカップを受け取ると緊張した様子で口に含む。俺と向き合うと膝立ちになり、唇を重ねた。加減がわからないのか流し込めずにいるのを、舌で突いて導いてやる。慎重に送り込まれたナルセからの一口はささやかで、満たされない俺はその先を求めて舌を伸ばす。ナルセの狭い口内で舌を暴れさせるとナルセはされるがままになり、やっと離した頃には喘ぐように息をした。
「もう飲ませてくれないのか?」
無理だろうと思って言ったのだが、意外なことにナルセは再びカップの中身を口に含んだ。思考がぐずぐずになっているのだろう。加減を誤り、口の端から青いしずくが胸へと垂れる。その刺激に驚いたのかそのままゴクリと飲み込んだ。
「あ、ごめん。飲んじゃった」
カップにはもう葉が残るばかりだったが、慌てたナルセは少しでも口に含もうと無理に傾け、顔にしずくが散った。
「うぁ」
戸惑う様に興奮が煽られた。
「俺はこちらでいい」
顔に、胸に、首筋に、散った青を求めて唇をすべらせる。すぐにそれだけでは我慢できなくなり、舌をはわせ、キツく吸った。
膝で立っていられなくなり、ナルセが俺にすがり付くと、互いの興奮が触れ合った。カップをサイドテーブルに置くと、ナルセをベッドに沈める。
「昨日は俺の好きにしたから、今日はお前の好きにしよう。どうしたい、ナルシィ?」
黒い瞳はすでに興奮に濡れていた。
大きく息をつくと、俺をまっすぐに見上げ口を開く。
「昨日みたいに、ルルの……好きにして欲しい」
「後悔するなよ?」
額同士を触れ合わせ、問いかける。
小さな手が俺の頬を包み、頷いた。
俺を獣に変える、可愛い獣。
のんびりと甘やかしてやる予定だったのに、台無しだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
激しく求め合う夜を過ごしても、朝が来るといつも通りのナルセに戻っていた。
ブランケットをかぶって丸くなる姿を思い出すと頬がゆるんだ。どうしようもなくナルセのことが愛しくてたまらない。初めての夜なのに無理をさせてしまったとわかっている。今日は甘やかし、のんびり過ごすことに決めた。
一階へ降りると、従業員が完璧なあいさつと共にやってくる。朝食を持ってくるよう言い付けると、すでに用意がされていたらしく、部屋に戻ると間も無く華やかな食事を乗せた銀のトレーが届いた。
さすが、準王都というべきか。
新婚夫婦だと宣言をして街を練り歩いた甲斐がある。街一番の宿のサービスはなかなか悪くない。
「ナルシィ、出てこい」
ブランケットを頭からかぶり、丸くなっている姿は可愛らしいが、顔が見えないのでつまらない。
「早くしないと、全て食べてしまうぞ」
「……俺の皿からは食べない約束」
「夫婦の食事は一つの皿に盛り付けられるものだ」
「え、そうなの?」
ナルセはよほど空腹らしく、あわてて顔を出した。口元に果物を差し出すとおずおずと口を開くのが愛らしい。
「嘘だ」
「んぐ?!」
「夫婦なことは本当だ。ナルシィ、私の伴侶。生涯を共にする者」
再びブランケットを被ろうとするのを阻止し、背後から抱きしめる。赤く染まった首筋に点々と散る昨夜の痕跡を見つけ頭が熱くなるが、まずは食事を、と必死に衝動を抑えた。
なめらかな口当たりのスープや、一口サイズの冷菜、飾り切りされた果物。何を口に運んでやっても、ナルセは美味しいと喜ぶ。
「自分で食べられるのに……」
「新婚夫婦の食事はこうするものだ」
もちろん嘘に決まっている。
食事の最後にガラスのカップを渡すと、すぐにそれが何かわかったらしい。俺がポットを手に取り湯を注ぐのを目を輝かせて待った。
グラスの中で踊る赤い葉をじっと見つめる横顔から目が離せない。
変化を眺め、香りを楽しみ、最後に味わう。
かつて俺が教えた通りに“女神の祝福”を楽しんでいた。
ナルセは澄んだ青に口をつけ、ゆっくり飲み込むと、口内に漂う香りを確かめるように鼻で呼吸をした。
「やっぱり、不思議だ。カップからの香りと違う」
「お前の香りを知りたい」
「え?」
ナルセの手からカップを取り中身を含むと、ナルセを振り返らせ口を塞いだ。唇を重ねるだけで、すぐにその先を期待するように開いた隙間から女神の祝福を流し込む。ナルセは驚いた目をしていたが、素直に受け入れ飲み込んだ。そのまま空になった口内を舌で探れば昨夜とは違う口付けになる。しかし香りを楽しむ余裕なんてすぐに消えてしまった。
「ん、ふ、んぅ……」
こぼれた甘い吐息が欲望を焚き付ける。初めはためらいがちだったナルセだが、舌を擦り合わせるのが気に入ったらしく、自分からも動き出した。出て行こうとする俺の舌を追いかけて、こちらへも侵入してくる。柔く舌に歯を立てると小さく体を震わせた。これは痛くないとわかっているが、わざと口を離して尋ねる。
「嫌か?」
「嫌じゃない」
「じゃあ、好きか?」
ナルセは恨みがましい視線を送ってくるが、そんなもので俺は引かない。
「好きか?」
「……好き」
「そうか。俺にも飲ませてくれ」
ナルセは俺からカップを受け取ると緊張した様子で口に含む。俺と向き合うと膝立ちになり、唇を重ねた。加減がわからないのか流し込めずにいるのを、舌で突いて導いてやる。慎重に送り込まれたナルセからの一口はささやかで、満たされない俺はその先を求めて舌を伸ばす。ナルセの狭い口内で舌を暴れさせるとナルセはされるがままになり、やっと離した頃には喘ぐように息をした。
「もう飲ませてくれないのか?」
無理だろうと思って言ったのだが、意外なことにナルセは再びカップの中身を口に含んだ。思考がぐずぐずになっているのだろう。加減を誤り、口の端から青いしずくが胸へと垂れる。その刺激に驚いたのかそのままゴクリと飲み込んだ。
「あ、ごめん。飲んじゃった」
カップにはもう葉が残るばかりだったが、慌てたナルセは少しでも口に含もうと無理に傾け、顔にしずくが散った。
「うぁ」
戸惑う様に興奮が煽られた。
「俺はこちらでいい」
顔に、胸に、首筋に、散った青を求めて唇をすべらせる。すぐにそれだけでは我慢できなくなり、舌をはわせ、キツく吸った。
膝で立っていられなくなり、ナルセが俺にすがり付くと、互いの興奮が触れ合った。カップをサイドテーブルに置くと、ナルセをベッドに沈める。
「昨日は俺の好きにしたから、今日はお前の好きにしよう。どうしたい、ナルシィ?」
黒い瞳はすでに興奮に濡れていた。
大きく息をつくと、俺をまっすぐに見上げ口を開く。
「昨日みたいに、ルルの……好きにして欲しい」
「後悔するなよ?」
額同士を触れ合わせ、問いかける。
小さな手が俺の頬を包み、頷いた。
俺を獣に変える、可愛い獣。
のんびりと甘やかしてやる予定だったのに、台無しだ。
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