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尻を振ったのを見られたら、さっぱりできそうな予感がする

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 この家には窓が一ヶ所しかない。
 暖炉の前に置かれたソファに腰掛け、左を向くとちょうど外が見える、はず。どうやらこの窓はロルガの座高に合わせて作られたらしく、俺には近くに立って覗く方がちょうど良い高さだ。風除けの針葉樹がある以外は一面、白銀の世界で日差しを受けてキラキラとまぶしい。その景色はいつ眺めても美しく、見ているだけなら雪というのはいくらあっても良いなぁと思う。夏用スーツで歩くときには1ミリだって積もっていて欲しくないが。
 カーテンのない窓から日差しを浴びていると、暖炉の火とは違う温もりに自然と背伸びをしたくなる。
「元気をチャージ!!」
 バンザイをして思い切り声を出すと、スッキリとして気持ちが良い。
 ここ、アパクランの人々が日差しを大切にしているとロルガに聞く前から、こうやって俺も日光浴を楽しんでいた。おかげで家の中に閉じこもっているのに、ヌーディストビーチ愛好家のように境目のない日焼けをしている。普段は股間を隠している腰布も取り去り、文字通り全身を日に当てる。というのも、これは同時に洗濯タイムでもあるのだ。
 雪が降り積もってもぬくぬく暖かいこの家は居心地が良いが、一つだけ大きな欠点を抱えている。なんと風呂がない。仕方がないので、俺は腰布を湯に浸し体を拭く毎日だ。数日に一度は髪も洗う。全てはロルガの目を盗んで実行しなければいけないのでなかなか難しい。
 自分の体がキレイになったら、腰布を洗って暖炉の火で乾かす。薄い布地なのでそんなに長い時間はかからない。その間に窓の横で日光浴を楽しむというわけだ。
 少しずつ人に戻っているとはいえ、ロルガの体は熊の機能を持っているらしく、冬眠するようによく眠る。二、三日起きて来ないこともあるが、最近は冬が終わりに近づいているらしく小まめに起きてくる。
 いつか悲劇は起きる。わかっていたが実際にその瞬間がやってくるとただ悲鳴を上げることしかできなかった。
 
「右、左、右右、左、右、左左」
 俺が掛け声と共に、ご機嫌に振っていたのはむき出しの尻だ。両腕を耳の横に付け、尻とは反対の方向にピンと伸ばす。くねくねと全身を動かす完全オリジナルの振り付けだが、適度に難しく気に入っている。成功したら、その場でくるりと回り、飛び跳ねて終わりにするのだが、その日は半周したところで叫び声を上げた。
「いいいいぃ……ッ!!」
「久しぶりに聞いたな。ナルセのそれ」
 ソファに座ったロルガは優雅に足を組み、俺に拍手して見せる。
「今日もキレのある動きだった。指の一本一本がまっすぐに伸びていたし、尻も高く上がっていた。余計な布がないと気持ちが良いだろう。俺も肉が揺れるのがよく見えて楽しい」
 振付師かダンスの先生かと言いたくなるロルガのコメントに愕然とする。
「今日も?! え、初めて見たんじゃないの? いい、いつから? いつから??」
「まだ俺が完全な熊のときから見ていたぞ? 知らなかったか?」
「ウソ、ウソ、忘れて! もう全部忘れて! それか俺の記憶を消して……」
「なぜ? お前は踊って楽しみ、俺は眺めて楽しむ。何も悪いことはない。大切な記憶じゃないか」
 俺は静かにその場に正座をし、さりげなく両手を組んで股間を隠した。
「俺の心が死ぬ。恥ずかしい」
「じゃあ、なぜそんなことをする?」
「見られてると思わなかったの! 体拭いて、布が乾くまで暇だから踊るくらいしかやることないんだって」
「体を拭く……お前そんなことをしていたのか」
「だってお風呂ないし、そのままだと臭くなる……」
「臭いと思ったことはないぞ?」
「嗅ぐなよ……」
「お前も嗅いでいいぞ」
「しないって」
「そんなに匂いが気になるのならサウナにでも入るか?」
「え、そんなのあるの??」
「あぁ。ちょっと準備に時間がかかるが、裏にある。俺の体もだいぶ毛皮の範囲が小さくなったから大丈夫だろう。やってみるか。準備してくる」
 今のロルガの毛皮範囲はハイウエスト気味の短パンくらいだ。イケメンマッチョだからターザン風ファッションと言えなくもない。パリコレのファッションショーに飛び入り参加しても違和感がないだろう。
 ロルガは立ち上がると食糧庫の中へ行ってしまった。
 やっと一人になった俺は股間を隠していた手を自由にできる。もう腰布も乾いたはずだが、取りに行けない。
「いでででぇ……」
 久しぶりに正座した両足が悲鳴をあげていた。全裸でフローリングの上に寝転がる。床は暖炉の火で温められて、意外と気持ちが良い。
「このまま寝てもいいな……いやいや、全裸で寝てるうちにロルガが帰ってきたら今度こそ恥ずかしくて死んでしまう」
 ずりずりと腹這いのまま移動し、腰布を目指した。
 
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