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約束は守られるが、悩みはつきない
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——相手の皿から食べ物を横取りしない。
俺とロルガの間で結ばれた初めての約束は、一度も破られることなく守られている。
それなのに食事に関する俺の悩みは尽きない。
執着心の強い我がままな女神、テルニヴォーリの力は本当に地中に育つ作物に宿るのだろうか?
半信半疑のままだが、イモが美味しいことには変わりない。フライドポテトが恋しくなった俺は、久しぶりにロルガの指示なしに料理をすることにした。
ベーコンの脂身を使い、スティック状に切ったイモをじっくりと揚げ焼きにする。ベーコンの塩気は十分にあるが、さらに塩をひとつまみ加えてジャンクにしあげた。
「ナルセ、久しぶりにお前の得意料理が食べられて嬉しい。お前は天才だ」
ロルガはそう言ってるが、本気で褒めているのだろうか。馬鹿の一つ覚えのように俺が作るイモ料理は切って茹でただけ、焼いただけの超シンプル料理だ。得意じゃない人間なんてきっといない。しかも、ロルガにとって馴染みの味ではないだろう。元王子にこんな貧相な料理を食べさせていいのだろうか、と心配になってくる。
「はぁ……ん、あれ?」
ぼんやりしているうちに、俺の皿の上には新たなイモが追加されていた。
「ロルガ、勝手に入れた?」
「知らんな」
「いやいや、イモは自分でやってこないんだよ。なんで?」
「もちろん、お前を太らせるためだ」
「は?」
思わず自分の体を見下ろすが、前よりアバラも浮いていないし、少しぷよんと余分な肉がついた気さえする。
「お前は自分の尻の形を知っているか?」
「は? 知らないよ、そんなの」
「膝に乗せて気が付いたんだが、お前の尻は骨が尖っていて痛い。あの時はまだ毛皮があったから良かったが、もうすぐそれもなくなる。お前は急いで太る必要がある」
ロルガの変化は順調に進んでいて、膝頭を越えて太ももまで人の姿に戻り始めていた。
人の肌に戻ったロルガの上に座る自分を想像したら、めまいがして、心臓がおかしな音を立てる。
「もう乗らないって! 太る必要なんかない」
俺はそう主張したが、ロルガは聞こえないふりをした。それから気がつけば、俺の皿には料理が勝手に追加されている。
なんだよ、もう……
その日、ロルガの指示で切ったハムはやたら分厚いし、付け合わせ用に茹でたイモの数は過去最多だった。作っている時から二人前の量じゃないと思ってはいたが、盛り付けられれば食べてしまう。
「うー、もう動けない食べすぎた。今回は本当にちょっと、やばいかも」
「だから残せと言ったのに」
「捨てるっていうんだもん」
「時間が経ったものは味が落ちる。お前にそんなものを食べさせたくはない」
「食べ物を無駄にするのは嫌なんだよ……俺、今仕事してないし、イモもハムも買えない役立たずだろ。そう思うと捨てるなんて無理」
胃袋が限界だと悲鳴をあげていた。
ソファに座っていることもできずに横になっていると、ロルガが薬湯を作ってくれた。
「これは効くぞ。手に入りにくい薬草なんだが、熊になってすぐの頃、近くに群生地を見つけた。おそらく人では辿り着けまい」
「草。すっごい草の味。やばい牛の気分。もう飲めないかも」
たった一口で限界を感じ薬湯とにらめっこしていると、ロルガは眉をはねあげ、どこか意地の悪い笑みを浮かべた。
「その薬湯一杯分の価値を教えてやろう」
「珍しいっていうのはわかったよ」
「庶民なら三人家族で一週間は過ごせる」
「げ、飲む飲む飲みます」
鼻をつまみ、残りの薬湯を一息に飲む俺を見て、ロルガは満足そうな顔をした。
なんだか弱点を知られた気分でちょっと悔しい。
「ベッドに行くか?」
「ここで大丈夫」
「片付けをしてくる。ゆっくりしていると良い」
少し前に、ロルガが「後片付けの方法を学びたい」と言い出した時には正直驚いたが「早く人間に戻るため」と理由を聞き納得した。最近は俺が調理、ロルガが片付けと役割を分担している。
ロルガは立ち上がり、キッチンへと数歩進んだところで振り返った。
「ナルセはちっとも自分の価値を理解していないな。お前は十分働いて、俺の助けになっているではないか。決して役立たずではない、必要な存在だ」
なんと返事をすれば良いかわからず、咄嗟に息をひそめ寝たふりをした。きっとソファの背もたれで遮られ、キッチン側からは見えないだろう。
「……なんだ、結局寝てしまったじゃないか」
そうつぶやいてロルガは笑い、すぐに食器を洗う音が聞こえてくる。俺はホッとして緊張を解いた。そして、ロルガに言われた言葉を頭の中で繰り返し再生する。
——必要な存在
初めて言われたその言葉になんとも言えない感情が湧いてくる。
いつも真っ直ぐな言葉で俺の胸を乱すロルガ。お前は俺にとって、どんな存在なのだろう。
答えのない問いに頭は疲れ動きを鈍くしていく。
眠いのにロルガが側にいないのが不満だった。小さな声で「ロルガ」とつぶやくと、遠くから「どうした」と問う声がして、嬉しくなる。たったそれだけで満足した俺は眠りに落ちた。
俺とロルガの間で結ばれた初めての約束は、一度も破られることなく守られている。
それなのに食事に関する俺の悩みは尽きない。
執着心の強い我がままな女神、テルニヴォーリの力は本当に地中に育つ作物に宿るのだろうか?
半信半疑のままだが、イモが美味しいことには変わりない。フライドポテトが恋しくなった俺は、久しぶりにロルガの指示なしに料理をすることにした。
ベーコンの脂身を使い、スティック状に切ったイモをじっくりと揚げ焼きにする。ベーコンの塩気は十分にあるが、さらに塩をひとつまみ加えてジャンクにしあげた。
「ナルセ、久しぶりにお前の得意料理が食べられて嬉しい。お前は天才だ」
ロルガはそう言ってるが、本気で褒めているのだろうか。馬鹿の一つ覚えのように俺が作るイモ料理は切って茹でただけ、焼いただけの超シンプル料理だ。得意じゃない人間なんてきっといない。しかも、ロルガにとって馴染みの味ではないだろう。元王子にこんな貧相な料理を食べさせていいのだろうか、と心配になってくる。
「はぁ……ん、あれ?」
ぼんやりしているうちに、俺の皿の上には新たなイモが追加されていた。
「ロルガ、勝手に入れた?」
「知らんな」
「いやいや、イモは自分でやってこないんだよ。なんで?」
「もちろん、お前を太らせるためだ」
「は?」
思わず自分の体を見下ろすが、前よりアバラも浮いていないし、少しぷよんと余分な肉がついた気さえする。
「お前は自分の尻の形を知っているか?」
「は? 知らないよ、そんなの」
「膝に乗せて気が付いたんだが、お前の尻は骨が尖っていて痛い。あの時はまだ毛皮があったから良かったが、もうすぐそれもなくなる。お前は急いで太る必要がある」
ロルガの変化は順調に進んでいて、膝頭を越えて太ももまで人の姿に戻り始めていた。
人の肌に戻ったロルガの上に座る自分を想像したら、めまいがして、心臓がおかしな音を立てる。
「もう乗らないって! 太る必要なんかない」
俺はそう主張したが、ロルガは聞こえないふりをした。それから気がつけば、俺の皿には料理が勝手に追加されている。
なんだよ、もう……
その日、ロルガの指示で切ったハムはやたら分厚いし、付け合わせ用に茹でたイモの数は過去最多だった。作っている時から二人前の量じゃないと思ってはいたが、盛り付けられれば食べてしまう。
「うー、もう動けない食べすぎた。今回は本当にちょっと、やばいかも」
「だから残せと言ったのに」
「捨てるっていうんだもん」
「時間が経ったものは味が落ちる。お前にそんなものを食べさせたくはない」
「食べ物を無駄にするのは嫌なんだよ……俺、今仕事してないし、イモもハムも買えない役立たずだろ。そう思うと捨てるなんて無理」
胃袋が限界だと悲鳴をあげていた。
ソファに座っていることもできずに横になっていると、ロルガが薬湯を作ってくれた。
「これは効くぞ。手に入りにくい薬草なんだが、熊になってすぐの頃、近くに群生地を見つけた。おそらく人では辿り着けまい」
「草。すっごい草の味。やばい牛の気分。もう飲めないかも」
たった一口で限界を感じ薬湯とにらめっこしていると、ロルガは眉をはねあげ、どこか意地の悪い笑みを浮かべた。
「その薬湯一杯分の価値を教えてやろう」
「珍しいっていうのはわかったよ」
「庶民なら三人家族で一週間は過ごせる」
「げ、飲む飲む飲みます」
鼻をつまみ、残りの薬湯を一息に飲む俺を見て、ロルガは満足そうな顔をした。
なんだか弱点を知られた気分でちょっと悔しい。
「ベッドに行くか?」
「ここで大丈夫」
「片付けをしてくる。ゆっくりしていると良い」
少し前に、ロルガが「後片付けの方法を学びたい」と言い出した時には正直驚いたが「早く人間に戻るため」と理由を聞き納得した。最近は俺が調理、ロルガが片付けと役割を分担している。
ロルガは立ち上がり、キッチンへと数歩進んだところで振り返った。
「ナルセはちっとも自分の価値を理解していないな。お前は十分働いて、俺の助けになっているではないか。決して役立たずではない、必要な存在だ」
なんと返事をすれば良いかわからず、咄嗟に息をひそめ寝たふりをした。きっとソファの背もたれで遮られ、キッチン側からは見えないだろう。
「……なんだ、結局寝てしまったじゃないか」
そうつぶやいてロルガは笑い、すぐに食器を洗う音が聞こえてくる。俺はホッとして緊張を解いた。そして、ロルガに言われた言葉を頭の中で繰り返し再生する。
——必要な存在
初めて言われたその言葉になんとも言えない感情が湧いてくる。
いつも真っ直ぐな言葉で俺の胸を乱すロルガ。お前は俺にとって、どんな存在なのだろう。
答えのない問いに頭は疲れ動きを鈍くしていく。
眠いのにロルガが側にいないのが不満だった。小さな声で「ロルガ」とつぶやくと、遠くから「どうした」と問う声がして、嬉しくなる。たったそれだけで満足した俺は眠りに落ちた。
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