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最終章 ユディト作戦の結末

74: 個人営業のエクソシスト

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「お譲ちゃんは、個人営業のエクソシストなの?」
 赤座の表現が見事すぎたので、守門とノイジーの二人は思わず顔を見合せた。
 赤座とノイジーは初対面だ。
 赤座が先ほど自分の車で、ノイジーをピックアップしたばかりだった。

「それとホントに女子高生なら、ちょっと問題あるんじゃないの?」
 女子高生云々は別にして、守門の口からは、ノイジーが数ヶ月前まで自分が追いかけていた悪魔憑きだとは言えなかった。
 それに実際の所、今では、ノイジーに『柱』が取り憑いているとは、とても思えなくなっていた。

「サイラボってご存知ですか?私、そこから脱走した可哀想な超能力者なんです。それで困っていた時に、雨降野先輩に助けてもらったんです。だから今、その恩返しのつもりで協力してます。」とノイジーが、さらっと言ってのけた。
 確かに、その自己紹介で、大きく嘘はない。

「ああ、あの悪名高いサイラボか。」
 赤座が妙に感心したように言った。
 相手がサイラボなら、女子高生がそこから脱走しても問題ないという事なのか、意味が判らなかった。
 赤座は職業柄、色々な「女子高生」を知っているのだろう。

「凄いな傘男君、サイラボにも喧嘩売ってるのか?」

「喧嘩?よして下さいよ、赤座さんじゃあるまいし。」

「傘男先輩の言い方を借りると、羊飼の虚無と悪魔の虚無の闘いは、悪魔に軍杯が上がったって感じです。それに、私があちこちにばら撒いておいた、五秒ウィルスの噂にすごい勢いで食い付いてる。もうすぐレッドは完全に目覚めると思います。」

「そんなら入れ食いの予感だな。そろそろ、場所を指定してやったらどうだ?あまり待ってるとタイミングを逃すぞ。それに今からなら、奴を誘い込む場所が3つほど選べる。甘南備スタジアムなんか、お勧めだ。あと二日間空きがあるし、近くに人家の類がほとんど無い。」

「やるか?甘南備なら、ここからあと2時間あればつく。」と守門がノイジーに聞いた。

「うんやろう。向こうに着いて、スタンバイができ次第、私が甘南備の名前をネットに上げるよ。ひょっとしたら、その瞬間に、レッドとの勝負になるかも」

「2時間後にユディト作戦開始だな。それじゃ、俺もそれで文書を出す。実はもう、下書きは済ませてある。」

「え?」

「コードFだよ。こういうのでも、メールでだが、各関係諸機関とやらにチンタラ、何枚も何枚も公式文書を出すんだぜ。笑えるだろ。この国の体質だから、いつ反応がかえって来るか判らんがな。なんせ警察がこれをやるのは始めてだし。が、だ。反応が遅れてFが手遅れで発令されたなら、今度の件は、例え自分らがしくじっても、首になるのは自分らじゃないな。首になるのは、ビビッた上の奴らの方だ。」

「まるで全部の統治機構に、奇襲をかけてるみたいですね。赤座流、下克上?」

「そうさ。それに、これくらいの対処が出来ないなら、遅かれ早かれこの国はもうおしまいさ。今は、そういう状況なんだよ。」
 その赤座の言葉に、自分が思っている以上に、この世界に対する『柱』侵攻の脅威は大きいのだと、守門は改めて思った。


   ・・・・・・・・・


「いたぞ、能都だ!あんな格好で、どうやってここまで来たんだ!」
「さあね、走って来たんじゃない?彼女、根性がありそうだし。」

 車を球場の入り口と能都の進行方向の前に滑り込ませて、二人は車外に飛び出た。
 突入任務用の中軽量アーマーのヘッドギア装着に、邪魔なのか、能都は眼鏡を外していた。
 そのせいか、普段の能都とは随分、印象が違った。
 理知的と言うより野性的な顔つきだった。

 鉄山との闘いの間合いに入る直前、一旦は踏み止まった能都だが、何かを振り切るように再び前に進み始めた。
 鉄山もそれに合わせるように、一歩前に出る。

「馬鹿な。響さん、あなた、アーマー付けた相手と素手でやり合うつもりか?」
 隣の吉住が、銃をホルスターから抜き出しながら低い声で言った。

「馬鹿はあんただよ。アーマー着てるんだから、銃が効き目あるのは、剥き出しの頭だけでしょ。能都を殺すつもり?能都は人間だよ。しかも今の罪状は、窃盗だけなんだからね。」
 鉄山が更に前に出る。
 吉住はそのまま動かない、が銃を構えた。

 能都の方が急に間合いを更に詰めてきた。
 格闘などやった事はないから、怒りに任せた行動だろう。
 ただ闇雲に鉄山に向かって拳を振りまわして来る。

 それでもアーマーに加速されたその動きから鉄山はのがれられなかった。
 偶然だが、鉄山の頭部にフック気味のパンチが入った。
 鉄山が一度よろけると、味をしめたのか能都が同じようなパンチを放った。
 驚いた事に、そのパンチは後になるほど精度と威力が増していた。
 自動的にそういった補正がかかるようだった。

 だが、今度は鉄山がそれを下腕でカバーした。
 ムキになった能都が同じ場所に何度もパンチを打ち込む。
 鉄山のスーツの袖口が、とうとう破れ、そこから金属の添え木のようなものが見えた。
 それを見つけた能都が、攻撃を止めて後ろに下がった。

「貴女、それラボのでしょ?どうやって持ち出したの!」
 能都が荒くなった息の下で、ようやくそれだけを言った。
 それでも相手の装備を見て、今までのようにアーマーの機能に寄り掛かっての力任せな攻撃を仕掛ける愚を悟って、落ち着こうとしたのは、流石にロポテクコンサルの出自の故だった。

「あんたに、とやかく言われたくないわね。これは井筒って人に貸してもらったんだよ。あんたとは違う。」
 対する鉄山の声は冷静だ。
 だが本当は、最初に能都から受けた「機械の」パンチが効いている。

「井筒には、そんな権限はない。」
「じゃ、雇われコンサルにしか過ぎないあんたに、それを持ち出す権限はあるの?」
 鉄山は、そう言いながらスーツとシャツを、自分の身体から剥ぎ取った。
 黒いピッタリとしたアンダーシャツの上に、金属のギブスのようなものが骨の位置をたどるように走っていた。

「それは、取り回しを主眼に置いた装備よ。しかも古い。私のに勝てる?」
「さあね、やってみな。ド素人のあんたが警官の私に勝てるって、思ってるんならね。」
 そう言うと鉄山響は、彼女の身に付けてきた武闘スタイルで構えなおした。
 本気だった。

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