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最終章 ユディト作戦の結末

72: 立ち上がる巨大な人造紳

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「来てくれたんじゃな。感謝するよ。」
 薄い布団に横たわったままの斬馬が、その枕元に胡座をかいている巨漢に言った。

「俺の所に、あの婆さんが来た時には正直吃驚したぜ。泣く子も黙るMウェイストゥズだぜ。そんな婆さんの頼みじゃ、むげには出来ないだろ。しかし爺さん、あんたも無茶をさせるな。あんな婆さんを、俺んちへ寄越すなんて。」
 老婆の頼み通り、譲治ウェインが行った宗司への処置は既に終わっている。

「なに、あんたらが思ってる程、年寄りは弱くない。」
 元から痩せた体付きの斬馬だったが、薄い布団の膨らみは、中に棒きれが一本隠されているだけのように見えた。

「バカを言え、あんな婆さんを代理でこちらに寄越さなきゃいけない程、あんたは弱ってた。それは、あんたが年寄りのせいだろが。」
 実際はそれもあったが、用向きを伝えるだけなら他に方法があった。
 斬馬が、あえて老婆を、言づての使者に立てたのは、譲治ウェインを動かす為だった。

「で、宗司の具合はどうなんじゃ?なんとかなりそうかのう?」
 その言葉を聞いて譲治の胸は熱くなった。
 能力者は、他人と軽く接続するだけで、自分自身が削がれるような気になる。
 それを譲治は身をもって知っていた。
 斬馬は、その行為を一体、何日続けてきたのだろうか?

「あんたがちゃんと、あいつの中に道を開いててからな。俺は、こういうのは初めてだが、なんとかやれたんじゃないか?もうすぐ奴は目が覚めると思うぜ。」
 そこで譲治ウェインは、考える所があるのか、言葉を一旦切った。

「でも婆さんが望んでるような、女狐がおちた状態にはならないかも知れないがな、、。」
「それは仕方のない事じゃ。誰が誰を好きになろうが、それは神様でも、肉親でも口出し出来る事じゃないからな、、儂らの領分じゃない。」
「おい爺ぃ、いつから俺が、儂ら、扱いなんだよ。」
 譲治ウェインがまんざら嫌でもなさそうな悪態をついた。

「それにしても爺さん、あんたよくやったな。こんな事、俺がやっても無理だったろうぜ。」
「ふむ、宗司君の心の底の底まで潜ったからな。でもな、それ程の泥濘でもなかったぞ。あるところにはちゃんと光もあった。人間、まんざら捨てたもんじゃない、それは憶えておくと良いぞ、魔眼の。それに、最後の処置は、儂の力ではできん。あんだだから出来るんだ。だから、あんたに来て貰った。」
 譲治ウェインは、黙って斬馬の言葉を聞いていた。
 この老人は、譲治の力の事も、譲治が何に疲れているかも知っている。
 それで敢えて、こういういう話を持ち出しているのだ。

「今日の所は、爺さん。あんたに、おだてられとくよ。ところで爺さん。あんた最近、世の中が騒がしくなってるのを感じるか?」
 もちろん譲治ウェインが言う、「世の中」とは、他人の精神に感応できる彼らだけが知る世界の事だった。

「はてな、、、モヤモヤしたものは感じるが、儂はずーっと宗司君にかかり切りだったからな。」
「、、、そうか、俺にはビンビン感じる。」
「ほう?それは、どんなものじゃの?」

「そうだな、、あえてそれを形で言えば、巨大な人間が作った神だ。そいつが起き上がりかけてる。」
「人間が作った?」
「ああ、そいつは、ほんものの神さんみたいな上品なもんじゃねぇえ。それに、この神の目的はたった一つだ。最近、目覚めたどでかい悪魔みたいなヤツを叩きつぶすことさ。この神の身体は、この国の公的機関組織と大企業連合で出来てやがる。」

「コードFの発動か、、とうとうあれが出るのか。兄さん、よく知ってるな。」
「あんたもな。」
 さすがだなという風に譲治ウェインが笑った。

「、、なに、この神の拳の部分に俺の知り合いがいるんだよ。他にもいるみたいだな。そいつ、あんたに関係があるんじゃないか?確か名前は雨降野守門と言ったな。」

「雨降野守門、、儂のたった一人の愛弟子じゃよ、もっとも本人はそうは思っとらんだろうが、、力は、あるんじゃが、心にちょっと頼りない所があってな、、しかし今度ばかりは、儂も助けにいけそうにもないな。」
 斬馬の声の力がふぃに弱まった。

「おい!爺さん、しっかりしろよ。こんな所でくたばってんじゃねえぞ!」
 斬馬は静かに瞼を閉じた。



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