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第7章 壊されたショーウィンドウ

60: セリーナの力

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 その日がやって来た。
 完全なボンテージ武装をする時は身体の前処置が大切で、それはメイクなどと違った身体的行為だから、かなり大変である。
 もっとも私はその大変さを楽しんでいたりするのだが。
 これが力を使うと、あっという間に終わる。
 もちろん変身するのは、ボンデージを着た女や、プラスチック・ゴム人形だけでなく、戦闘用の硬質ゴムの時もある。
 それでも、それらへの変身は一瞬だ。
 もしかすると、こういったボンデージを着る時の拘りは、その反動なのかも知れない。

 上地が用意したその他のボンテージアイテムを取り出し、床に並べた。
 合皮の黒いコルセットを重ねて着る事にする。
 キャットだけでは、攻撃的じゃないからだ。
 コルセット状の胴体部の紐を、思い切り締め上げてやる。
 さらに膝上ブーツを履く。グローブも嵌めて、ほぼ予定通りの武装が完了する。

 武装の上からは、黒いパンタロンスーツに首もとはスカーフを巻いた。
 そしてラバーグローブを隠す為の白い手袋。
 最近は日焼けを嫌がって普段でも外出先では手袋をする女性が増えているから、そう奇異には見えないだろう。

 マンションを出てみて、判ったことだが、普段なら何気ない動作でも、思い切り締め上げたコルセットが苦しかったり、肌につけたラバーの表面に、上着のクロスがまつわりついたりと違和感が大きい。
 それに股間に通したベルトも、目一杯きつく締めているから、歩いている内にお尻の割れ目にピッタリ食い込んでくる。

 内緒で、悪い一人遊びをしてる様で、窮屈だけど何とも言えない官能的な気分が高まってくる。
 それに相手には、判らなくても、自分自身では非日常的な卑わいなものを身につけているという意識があるから、周囲の視線が刺すように痛く感じられるのだ。
 上地に出迎えさせるようにして置けばよかったと後悔したが、結局私は、マンション前の道路でタクシーを拾う事にした。

「あなたみたいな人が、大学なんて珍しいね。」
 そういったタクシーの運転手に、接客業のイロハを一から勉強したらと言いたくなったが我慢した。
 私の住んでいるマンションがある一角は、確かにグレードの高い水商売の女性が多く住んでいるし、今の私の格好は、明らかに普通の用事で大学に向かう女の姿ではなかった。
 年季を積んだ運転手は、そこの所を見抜いて、こちらに話しかけているのだ。

「最近はね、話題が豊富じゃないとやっていけないの。一般公開の講座があるのよ。知ってる?姜一正。」
「おおーっ、テレビで有名だね。、、ところでさ、変な音しない?」
「変な音?」
「うーん、何だが軋るような感じキュッキュュってさ。」
「いやだー、この車整備不良じゃないの~」
 私が着込んでいるラバースーツの音だ。
 違う男に、違うシチュエーションで言われたなら、間違いなく感じたろう一言だったが、この運転手では駄目だ。
 仕方なく、私は普段上手く使いこなせない甘えた嬌声で対抗せざるを得なくなっていた。

 そんな経緯からタクシーを降りて、大学の門をくぐる頃には私はかなり不機嫌になっていた。
 でも冷静に考えてみると、この成り行きはかなり幸運な事だったのかも知れない。
 今感じている怒りや不機嫌さが、もし私を支えていなければ、私の意識は、大事な任務遂行の前に、微弱にそして常に感じる快感の為に、溶け崩れていたかも知れないからだ。 


 大きなすり鉢型の受講室は、九割がた人で埋まっていた。
 私は上地の姿を目で探す。
 上地は壁際の大きな三脚付きのビデオカメラが設置してある座席に座っていた。
 彼の周りには結構空席が目立っている。
 
 「特別講演の記録役」をかってでた大学生か、、やるわね、上地。
 私が大学生達の間をすり抜けて行くたびに、彼らの粘っこい視線が絡みついてくるのが判る。
 私は自分がまるで黒いコンドームで包まれた巨大なペニスになったような気分になった。
 そして次に頭の中で、肉でパンパンにはち切れた黒いラバーの表面に、精液の白い粘りが糸を引きながら落ちていくイメージがかすめる。

 そんな私の姿を、上地がいかにもサブのハンディビデオで会場の様子を撮影していますというような顔で、撮影し続けているのが見えた。
 私は上気した顔で、上地の側の席に腰を落ち着ける。
 私の一つ隣には、気弱げな男子大学生がいて、私の着席と共に顔を伏せた。

 瞬間的に私の中の「S」が起動する。
 そしてタイミング良く上地がすり寄ってきて私に囁いた。

「隣の奴は僕の知り合い、、いいおもちゃになる筈だ。もちろん今日の仕掛けはまったく知らない。満席の筈の受講席が、何故空いているかも含めてね。前菜ですよ。じゃ僕はビデオとカメラで記録してますから、、あなたをね。」
 上地は立ち去る前に、背伸びをするようにして私の隣の大学生に意味ありげなウィンクを送る。
 すこし肉の厚い丸顔の大学生はきょとんとした顔でそのウィンクを受け止めている。

 おそらく彼の頭の中では、上地と私に対する様々な妄想が駆けめぐっている筈だった。
 いたぶる対象としてはB級のお兄さんだが、カメラが回っているなら選り好みは出来ない。
 私は席を詰めて、隣の大学生君の身体に上半身を密着させた。

 嫌なら席を立てばいいのだが、そうしない所を見ると、彼は私に何かを期待しているのだった。
 私は手に付けていた白い手袋をゆっくりと外して、据え付けてある長机の上に揃えて置いた。
 勿論、白い手袋の下から現れたのは、手の甲の血管まで浮き上がって見えようかという皮膚にぴちぴちに張り付いたラバーの手袋だった。

 私はその両手の平で自分の頬をさすってラバーの感触を楽しんでみる。
 もちろん隣の大学生君は、そんな私の一部始終を横目で見ている筈だ。
 私は止めに、ラバーで覆われた人差し指をゆっくり口に含んで、唾液をたっぷりなすり付けた。

 隣でごくんと生唾を飲み込む音が聞こえる。
 きっといい絵がとれているだろう。

「ソーセージみたいで美味しい、、。」
 ワザとらしい独り言を呟きながらその手をゆっくり大学生君の膝の上に置いた。
 大学生君の全身がびくんと震えたが、怯えているようではなかった。
 私の手が、大学生君の太股をゆっくり這いずり回りやがて股間に達しようとする時に、姜先生の講演が始まった。

 大学生君は時折うつむいたり、自らの内でせせり上がってくる快楽を散らす為に、あらぬ方向を見つめたりしていたが、私の視線は演壇に立つ姜先生の顔に固定されていた。
 姜先生は、今日の受講者の質を確かめているのだと言った感じで、受講室内を見回していたが、やがて私を発見したようだった。
 この距離からでは先生の顔の細かな表情までは読みとれないのだが、それでも私にはある種の直感によって判ることがあった。
 強さと弱さが波状になっている視線。
 この男は私に支配されたがっていると、。

「私にジッパーを降ろさせる気?」
 私が前を向いたまま低い声で言ったので、大学生君は一瞬、言葉の意味を掴み損ねたようだったが、すぐにベルトを緩めると自分のズボンのジッパーを降ろした。
 少し烏賊臭い匂いが漂ってきた。

 こいつのペニスを触るのかと思うと少しげんなりしたが、その手の汚れを姜に嘗め取らせる計画を思いついた時には、少し気分が上向きになり始めていた。
 私は大学生君のペニスをしごいてやる前に、ハンドバックの中からコックリングを取り出した。
 姜に使う積もりだったが、隣の大学生君にも填めてやらないと一瞬のうちに果ててしまいそうな気がしたのだ。
 休憩時間まで遊び相手がいないと退屈してしまう。

「ちょっと、それなんです、、。」
 生意気にも大学生君が不満そうな声を出した。
 実際には怯えてそう言ったのだろうが、私には生意気に聞こえた。

「ちんぽバンド。あんた早漏でしょ。ちょっとでも長く楽しみたいならじっとしてて。」
 私の言葉で萎え始めたペニスは、ゴムの手袋で一撫でするだけで信じられないほどの強度を取り戻した。
 私はすかさずコックリングをペニスの根本に取り付ける。

「ねえ、私の身体へんな匂いしない?」
「へ?」
 気が動転してる大学生君は又、私の言葉の意味を見失っている。
 私は上半身を彼の肩に預けてやった。
 もちろんペニスをいじる事は止めない。

「ゴム?ゴムの匂いがします、、、。」
「そうよ、、私の全身はゴムで包まれてるの。私、変態だからこうしないと感じないのよね。ねえあなた変態女ってどう思う。」
「え、いやぁ、性癖って個人の自由だから、、それはなんとも」
「俺のこと気持ちよくさせてくれれば、変態でもおっけーって事ね。」

 そういいながら私はゴムの指先を素早く大学生君の肛門付近に滑り込ませる。
 こんな子だからきっと肛門の周りは不潔に決まってるけれど、指先についた汚れは。この子自身か、姜に嘗め取らせれば済むことだ。   

「あっ、ちっよっそこは、、。」
「そこはなんなのよ。大学生の癖に肛門オナニーも知らないの。」
 大学生君の身体が緊張で堅くなるのが判る。
 もうこうなってくると、この方法で意地でも行かせたくなって来る。
 大学生君の耳に息を吹きかけ、耳たぶを少し囓ってやる。

 大学生君の身体がますます堅くなる。
 彼は私から仕掛けられている快楽攻撃と、「周囲の目」という二つの要素から自分を守る必要があったのだ。
 しかし、このような場所では周囲の人間は逆に無関心を装うものだ。
 それにいかに程度が落ちたからと言っても、最高学府である「大学」という要素も大きいのかも知れない。
 これが浮浪者達で一杯の「蓮池」辺りなら、話は違ったのだろうが。

 だがそんな無関心という冷気が充満した講義室の中でも、二つの視線だけは、私の身体を突き抜けてくるのが判った。
 それは少し離れた位置から無言でビデオカメラを回し続ける上地と、演壇の上の姜のものだった。
 私の大学生君に対する責めは、後半になるにつれて激しさをエスカレートさせていったが、それはこの二人への、いや特に姜へのメッセージの意味が大きかった。
 姜は受講席で私が何をしているのか、その一部始終を知っているはずだった。
 それはSとMとの間にリンクされる距離や五感を超えた通信が、姜と私の間に成立しているからだ。


 待望の休憩時間がやって来た。
 私は、テーブルの上に投げ出したゴムの手を、覆い被さるようにして舐めて続けていた大学生君の頭を小突いて、それを止めさせた。
 先ほどまで黒いラバーの表面に付いていた大学生君自身の精液も、大便の残滓も綺麗に舐め取られていて今は彼の唾液がラバーの表面を扇情的に光らせていた。
 顔を上げた大学生君の頬も涙で濡れ光っている。

 「犬」だ、、それも雑種犬。
 仲間の中では雑種の方が可愛いという子がいたが、私は頭のいい犬が好きだった。
 まだ濡れているゴムの手を乱暴に大学生君の頬になすりつけて、私は立ち上がった。
 もうすぐだ。
 コックリングと白い手袋をハンドバックに放り込むと通路に出る。
 すると絶妙のタイミングで上地がやって来た。

「おかげでいいビデオが取れましたよ。でもこれからが本番だ。姜先生の控え室ねぇ、、元は古株の有本教授の教授室だったんですが、その部屋、採光が良くていい感じなんですよ。最高のビジュアルが撮れますよ。」
「でも時間が短いんじゃない。私、前菜食べるのに時間使いすぎて、だれちゃった。」
「のーぷれぶれむ。姜先生は本物ですから、、先生、、、なんとさっきの講演中、アナルプラグ下の口にくわえ込んで上からラバーパンツはいてたんですよ。さっ早く。」




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