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第4章 O・RO・T・I

27: 斬馬の感激

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 舞台にふたりめの男が現れた。 
 さっきの男ほど、がっしりした体格ではないが、筋肉質で浅黒い肌をしている。
 同じように全裸で登場し、すでにペニスは勃立して、自らの手でしごきあげている。
 その行為は、ゑ梨花嬢が登場するまでの、このショーに登場する男達の常態だった。 

 彼の陽根は、黒々として獰猛に見えた。
 特別に太いようには見えないが、亀頭は黒っぽいし胴幹の皮膚の色も濃い。
 見るからに硬くて、持久力がありそうな剛槍だ。
 あんなのを入れられて責め続けられたりしたら、たまらんだろうなと、斬馬は別の意味で考えた。
 別の意味とは、文字通り「拷問」という意味だ。
 
 ゲイの城島は、それとは違って、精悍な長棹をもの欲しげに見つめている。 
 一方、ゑ梨花嬢のしとやかな若妻風の顔立ちに猥欲の風情が宿ると妖しくも淫媚だ。 
 だが、やはり、彼女の願いは叶えられない。 

 男は彼女の顔面を跨ぎ、彼女は尻舐め奉仕するしかない。 
 男は毛深いというより、剛毛が密生しているタイプだ。 
 尻穴のあたりには、太い縮れ毛が生えていて、汗や垢や糞便の匂いが充満しているにちがいない。
 そんな想像をするとさすがの斬馬も吐き気を催してくる。 
 それが愛の裏付けがなければ・・肛門の穴を舐めさせられるというのは、いろんな意味で屈辱な筈だ。 

 ゑ梨花嬢は玉舐めに移っている。
 飢えたように玉袋をねぶりまわしている。
 彼女の亀頭の尿道口からは、まるでよだれを垂らしているようにカウパー腺液があふれ、スポットライトに反射して光っている。

 男が体の位置を変えて、彼女の前に立ちはだかり、己のモノをフェラチオをさせはじめた。 
 男は腕を組んでふんぞりかえるようにして立っている。
 両方の手首を革輪で拘禁されているゑ梨花嬢は、首と顔の動きだけで口淫作業をしている。
 上目使いに媚びた眼差しを男に向けてみたり、頬張ったペニスを口から出して淫語を口走ってみたり、などはまったくしない。

 舌をねっとりと絡みつかせて舐め上げたり、口唇を搾りながら顔の往復運動を加えてペニス棒を口唇粘膜で摩擦したりと、卑猥というより、鬼気迫るようなフェラチオなのだ。
 今までの男同士のステージショーと比べると、このゑ梨花嬢のショーは迫真シリアスだ。
 まるで虜われの女囚人が、男の看守に性虐待を受けているようにも見える。
 抵抗は許されずに、男の要求に応じてセックス奴隷として弄ばれる身分のようにも見える。
 斬馬は実際にそういう女達がいる事を知っていたし、何人かは、彼女たちをその苦海から助け出している。
 しかし、ゑ梨花嬢は、どこか微妙に違うように思えた。 

 男は陰茎を握りしめて、自らの手でそれを擦り上げている。 
 ゑ梨花嬢は口を開き、舌を伸ばして舌先で雁裏をチロチロと舐め摺りながら、次に来るものを待ち受けている。 
 そして、ついに、男の淫太棒の先端が爆烈した。 
 ドバッと発射された白粘のオス汁は、ゑ梨花嬢の口中にあふれ、わずかな間を置いた第2射から男はペニスの角度を変えた。
 ドピュッ、ドピュッと亀頭から噴射された汚濁精液は、ゑ梨花嬢の顔に飛散する。
 目を閉じて、びくっ、と美貌をふるわせたものの、彼女は顔面くいみらブッカケを真正面から受けとめた。

「便所ですな」と、城島がぽつりと言ったので、斬馬は「ん?」と聞き返した。 
「射精するだけですよ。出すのが、しょんべんじゃなくてねザーメンになっただけだ。」 
「うむ…………」
 斬馬は、誰でもやらせてくれる女をね『公衆便所』と読んで陰で笑いものにするのを知っている。 
 舞台のゑ梨花嬢は、性欲処理の肉便器だ。
 そこには感情の交流はなくて、冷酷で突き放した印象がある。
 男のほうが、端から彼女を人間扱いしていないというか。 

 男は舞台から退場し、顔じゅう精液まみれのゑ梨花嬢に、観客の視線が集まる。 
 小鼻の横から口唇に向かって、ぬるっ、と白い粘汁がひと筋流れ、顎を伝って胸元に流れ落ちてゆく。
 彼女は、ふたりの男のザーメンの濃厚な匂いにむせているにちがいない。 
 斬馬が彼女の下腹部に目をやると、ペニスはそそり立ったままだ。 
 、、たぶん、いちだんと強烈な昂奮に酔っているはずだ。 

 快楽……、……淫楽、何か、もっとすごいものだ……。 
 斬馬は考えたくなかった。
 ここは目を背けていたい。
 そうしないと、自分が、甘い毒のたゆたう底なし沼を覗くことになりそうだったからだ。 

 続いて舞台に上ってきたのは、ダークスーツの中年男だ。 
 それまで放心したような目つきだったゑ梨花嬢の表情が、ふと和む。
 笑顔を見せたわけではないが、張りつめていたものが解けて全身に安堵がひろがるのがわかる。 

 「あのコの飼い主でしょうね」 と、城島が言った。
 それは、斬馬に説明する口調ではなくて、独り言のように聞こえた。

 そのダークスーツの男は、見映えのしない中年だった。
 少し長めのもじゃもじゃ髪に白いものが混じり、黒縁の眼鏡をかけ、ずんぐりとした体つきだ。
 あまり客の来ないスーパーの現場主任、赤字続きの小さな会社の経理屋、いつも上司に叱られてばかりいる、うだつの上がらない男、斬馬はいくらでも、そんな男達を上げる事が出来た。

 その男は眼鏡の奥から温かい眼差しで、ゑ梨花嬢を見つめ、彼女のほうも、どこか、うれしげな目になっていた。
 若奥さまと紹介されていたが、この男の人の愛人なのかと斬馬は思った。
 ふたりの視線の交わし具合、ふたりの間に漂う空気から、ふたりが強い絆で結ばれているのを斬馬は感じ取った。 

 男は、おもむろにズボンのジッパーを下ろして、勃立したペニスを露出させた。 
 ゑ梨花嬢は、首を伸ばしてその肉棒を咥える。 
 舌で舐めたりしない。ただ、頬張るだけだ。 
 そして、彼女はゆっくりと腰の上下動を開始する。 

 男は腕組みしたりしていない。
 両手をだらりと垂らしたままで、陽根を咥えた彼女を愛おしそうに眺めている。
 舞台の上で、大勢の観客に見られているけれども、そこにはふたりだけの濃密な交流が存在しているように思えた。
 大好きな人のペニスを、口にもらってのディルドウ・オナニーか、、、。 
 斬馬は、この舞台のショーの成り行きに困惑と不可解を感じていた。 

 ゑ梨花嬢の握りしめた手すりがギシギシと軋みだす。 
 彼女のアナルによる自慰は、クライマックスを迎えようとしていた。  
 彼女の『飼い主』の中年男のほうは、陰茎を咥えさせているだけで、何らかの愛撫をしてやるわけではない。

 ゑ梨花嬢は、口腔でいとしい肉棒を味わいながら、ひたすらディルドウ・オナニーに没頭している。
 これも愛の一つの形だというのか? 
 ゑ梨花嬢の抽送が烈しさを増す。
 口は肉塊で塞がれているので、喘ぎ声を洩らすことができない。
 顔面は苦悶しているように歪んで凄絶だ。

 眉の間に深い皺が刻まれる。 
 そのとき、ゑ梨花嬢の亀頭先端から、ドピュッ、と白粘液が迸った。 
 その飛沫が中年男のズボンに飛び散って生地を汚す。

 だが、男は一向に気にはしていない。
 彼女は腰のピストン上下を止めない。
 勢いは失ったものの、ドク、ドク、……と精液を噴き出している。

 斬馬は、何故か胸が締めつけられるような感激に襲われていた。 
 その理由は、とても分析できそうにない。
 ともかく、得体の知れない感動の瞬間だった。 
 この歳になって、これだけの体験をしてきて、人間にはまだ判らない部分がある、そういうことだと斬馬は思った。 

 舞台が溶暗する。 
 真っ暗ではないので、舞台で何が行われているのか見てとれる。 
 男は彼女の手枷を外してやり、手を取って立ち上がらせた。 
 スーツのジャケットを脱いで、彼女に羽織らせてやり、肩を抱きかかえて舞台から退場してゆく。
「あのコ、見事に噴き上げましたな」 
「……うむ」 
「ケツの穴の刺激だけで、あれだけ勢い良く出せるんだなぁ、改めて驚きましたよ。」 
「…………うむ」 
 斬馬は自分の中に生まれた感動のようなものを城島に説明してやりたかったが、それは無理だろうと諦めた。
 また無理をして、説明してやる価値もない。
 言って聞かせてやるとしたら、例えばそれは雨降野守門だ。 

「お気に召しましたかな?」
「いやぁ、息抜きにと思って、あんたのお誘いにのったんじゃが、かえって仕事の事を思い出してしまいましたわい。魔というモノは、ああいうう過多な情念に取り憑きやすいものでな。で城島さん、あんた又、儂に頼みでもあるんじゃないのかな?」
 城島は頭を掻いて暫く黙った。
 こういう海千山千の男でも、斬馬に受けた昔の恩義は憶えているようだったし、何よりも斬馬の佇まいは、凡百の欲得からは、ほど遠い所にあったのだ。

「ほほ、遠慮しとるんかいの?ああ、この辺りにはサウナロサちゅう、幽霊ビルがあったな。あんたなら、あれに関係しとりそうだ。あれの除霊かの?」
「いえ、確かにアレには、私も関係しておりますが、あんなものを除霊してもらったら、斬馬先生にご迷惑がかかります。」
 除霊師が除霊をして迷惑がかかるワケがない、つまり城島が言っている「迷惑」は、現実の世界の犯罪に斬馬を関わらせたくないという意味だった。
 もちろん、そう城島が思うのは、この男が善人だからではなくて、斬馬に対しては、それなりの恩義を感じているからだったが。

「私がお願いしたいのは、一人の婆さんが持ち込んできた厄介事で」
「ほう、あんたのような強面の男に、何かものを頼みにくるような婆さんが、この世にいるのかの?」
「いえね、その婆さん、お前なら自分の所の孫を誑かしたものの正体を知っている筈だとか見当外れの事を言ってくるんですよ。自分の孫は、男のくせに女狐に取り憑かれて男狂いになってしまったと。まあ、その婆さんから見れば、私は男色の札付き悪党にしか見えんのでしょうが。そんな事を私に言われてもね。」

「その婆さん、あてがなくて必死なんじゃろ。それに、男色の札付き悪党な、それは婆さんの言う通りではないか。しかし、あんた、良く話を聞く気になったもんじゃの?」
「はぁ、、私も石から生まれたワケではありませんので、自分の母親くらいのババァにはね、、。」
「、、、しかしそれは、面白そうな話だのぅ。」
 と斬馬はニコニコ顔で言った。









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