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第4章 O・RO・T・I
18: 多機能メッシュ
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「・・・これは」
「エリア51にようこそ」
能都が思いもかけず、皮肉めいた冗談を言った。
新たな研究所内区間に移動した守門の目の前に、あのロボットがいた。
それは、天上の高い無機質な倉庫仕様の空間の中で、壁を背にして立っていた。
巨大な彫塑のようにも見えた。
あえて言えば神像だ。
今二人は、その神像を眺め上げている。
このロボットには、輝くようなメタリックホワイトの塗装が施されてあったから、暴走したRSST_40112とはまったく違う印象を持っていた。
人間の頭蓋骨を思わせるようなフォルムの頭部でさえ、優美に感じられた。
港では、ギャング達を切り刻んでいた背中に生えた四本の腕も、今は優雅に折り畳まれていて、天使の翼の様に見える。
まるでアルマゲドンの際に天から舞い降りてくる大天使の様な神々しさだった。
「、、真っ白だ。」
「光学迷彩コーティングのディフォルト色を白に設定してあります。調査官がご存じのロボットは設定が赤でした。2体の形がそっくりなので、それを見分ける為の措置です。まあ、2体を取り違える程、両者が接近する事などありませんでしたが。」
と言うことは、あのロボットが大量虐殺を行っていた時は、この迷彩機能とやらが働いていなかった事になる。
AIが普通に働いていたのなら、殺人の効率を高める為に透明化するとかをしていたのではないか?
『柱』は、高次レベルで人を操る。
『柱』に取り憑かれたからといって、極端な機能低下を起こし、人の口のろれつが回らなくなるといった様な事はないのだ。
ロボットとて同じ事だろう。
そう考えると、やはりアレは単なる暴走なのか?
透明化どころか、大量殺戮をしていた時、アレは酔っているように見えた。
しかし、人間が『柱』に取り憑かれた時は、その人物の意識は激しく混乱するものだ。
人口知性も、それと同じ事が起こるのか?
例えば透明化機能をどうあつかうべきか、判らなかったとか。
出来上がったものが同じでも、人間とAIの意識が組み上げられる過程は、全く違うはずだ。
ならば、その意識が混乱した時には違う状況が生まれる筈だが、、。
その辺りも、おいおい調べていこうと守門は思った。
聡子も眩しそうに、その白く輝く機体を見上げている。
「型番はRSST_40113です。科学者達はRSST_40112のレッドボーイに対して、この子をホワイトボーイと呼んでいます。RSST_4012の完全なコピーでありシュミレーター。あらゆるものが常にレッドとシンクロしていて、装備形状も含め、全てレッドと同じ状態にあります。違いはこちらの方が、運動的作動が通常運転レベルではない事だけです。」
「同じですか、、。もう一体が撮影された映像を見て思ったのですが、RS、、いやレッドボーイが暴走した時は、何か特別な実験をしていたのですか?」
「と言われますと?」
「こういうロボットにしては全体的に装備が少ない様な気がしたのと、胸の部分のボリューム感だけが突出した感じで、他の部分の素っ気なさとバランスが合わない感じがしました。胸だけが大きくて、他はガリガリといった感じですね。とにかく中途半端で、フル装備で動いてる感じがしなかった。だから、特別な実験をされていたのかなと。」
守門が言った『こういうロボット』とは、戦闘用ロボットの意味だ。
「娯楽映画の見過ぎですよ。あなたにはロボットはこの様なものだという思い込みが、あるのではありませんか?科学兵器を満載した凄いボリュームの機械の塊。私達のロボット作りの合言葉は有機体なんですよ。有機体の概念に、立ち帰り、有機体を優に超える。それに調査官のお言葉は、ご自分の感覚だけを元にした疑問ですね。・・でも指摘としては、ある意味で、妥当な部分もあります。」
聡子がうっすらと、ほほえみながら言った。
子どもをやさしくたしなめる母親のようだ。
こういう余裕を感じさせる表情も、聡子に接する人間に「この人には敵わない」と感じさせる一つの要素だったかも知れない。
「人型ロボットの利点の一つは、人間の兵士用に作られた武器をそのまま流用出来る事ですね。マシンガンもバズーカも手榴弾もなんでも扱える。戦争はロボットだけでやっているワケではありませんからね。ロボット専用の装備をなんでもかんでも新たに作って詰め込んでいたら、今までの武器資産が無駄になる。それに人間が直接身につける武器以外に、固定台座式の武器も、ある程度の大きさなら、この子のボディに組み込む事も出来ます。、、でも大きすぎるものは想定していません。そういう大きなものが戦場に必要なら、戦車とかに積めばいい。そういった理由で、ロボットボディには、あまりボディに特化した装置や兵器を詰め込まない方がいいんです。スリムで拡張性の高い形状がいい。、、で、貴方が仰っている突出部分は、多分、多機能メッシュの事でしょうね。例の口の悪い研究者達は、多機能カルビとも言っていますが。」
聡子はホワイトの胸の部分を指さした。
色が白銀であるという事だけで、随分その印象も違う。
レッドの場合は、胸の生皮を引き剥がされた跡と言った感じだったが、こちらは複雑な装飾模様のように見えた。
「あれは胸部に収められたパーツをカバーするためのものではありません。今はあの形状に収納されていますが、ある機能の一部なんです。適合する対象機器が外にあれば、あれ自体が展開して、対象をその内側に取り込みます。胸の中の半分は、何というか、、取り込んだモノを組み入れる為に確保された拡張性のある空洞、いいえ、小さな工場です。暴走が起こった時はこの機能の最終調整をやっていたんです。口で説明しても判りにくいでしょうね。やって見せましょうか?」
聡子は、悪魔憑きの言葉を出さずに「暴走」と言った。
「エリア51にようこそ」
能都が思いもかけず、皮肉めいた冗談を言った。
新たな研究所内区間に移動した守門の目の前に、あのロボットがいた。
それは、天上の高い無機質な倉庫仕様の空間の中で、壁を背にして立っていた。
巨大な彫塑のようにも見えた。
あえて言えば神像だ。
今二人は、その神像を眺め上げている。
このロボットには、輝くようなメタリックホワイトの塗装が施されてあったから、暴走したRSST_40112とはまったく違う印象を持っていた。
人間の頭蓋骨を思わせるようなフォルムの頭部でさえ、優美に感じられた。
港では、ギャング達を切り刻んでいた背中に生えた四本の腕も、今は優雅に折り畳まれていて、天使の翼の様に見える。
まるでアルマゲドンの際に天から舞い降りてくる大天使の様な神々しさだった。
「、、真っ白だ。」
「光学迷彩コーティングのディフォルト色を白に設定してあります。調査官がご存じのロボットは設定が赤でした。2体の形がそっくりなので、それを見分ける為の措置です。まあ、2体を取り違える程、両者が接近する事などありませんでしたが。」
と言うことは、あのロボットが大量虐殺を行っていた時は、この迷彩機能とやらが働いていなかった事になる。
AIが普通に働いていたのなら、殺人の効率を高める為に透明化するとかをしていたのではないか?
『柱』は、高次レベルで人を操る。
『柱』に取り憑かれたからといって、極端な機能低下を起こし、人の口のろれつが回らなくなるといった様な事はないのだ。
ロボットとて同じ事だろう。
そう考えると、やはりアレは単なる暴走なのか?
透明化どころか、大量殺戮をしていた時、アレは酔っているように見えた。
しかし、人間が『柱』に取り憑かれた時は、その人物の意識は激しく混乱するものだ。
人口知性も、それと同じ事が起こるのか?
例えば透明化機能をどうあつかうべきか、判らなかったとか。
出来上がったものが同じでも、人間とAIの意識が組み上げられる過程は、全く違うはずだ。
ならば、その意識が混乱した時には違う状況が生まれる筈だが、、。
その辺りも、おいおい調べていこうと守門は思った。
聡子も眩しそうに、その白く輝く機体を見上げている。
「型番はRSST_40113です。科学者達はRSST_40112のレッドボーイに対して、この子をホワイトボーイと呼んでいます。RSST_4012の完全なコピーでありシュミレーター。あらゆるものが常にレッドとシンクロしていて、装備形状も含め、全てレッドと同じ状態にあります。違いはこちらの方が、運動的作動が通常運転レベルではない事だけです。」
「同じですか、、。もう一体が撮影された映像を見て思ったのですが、RS、、いやレッドボーイが暴走した時は、何か特別な実験をしていたのですか?」
「と言われますと?」
「こういうロボットにしては全体的に装備が少ない様な気がしたのと、胸の部分のボリューム感だけが突出した感じで、他の部分の素っ気なさとバランスが合わない感じがしました。胸だけが大きくて、他はガリガリといった感じですね。とにかく中途半端で、フル装備で動いてる感じがしなかった。だから、特別な実験をされていたのかなと。」
守門が言った『こういうロボット』とは、戦闘用ロボットの意味だ。
「娯楽映画の見過ぎですよ。あなたにはロボットはこの様なものだという思い込みが、あるのではありませんか?科学兵器を満載した凄いボリュームの機械の塊。私達のロボット作りの合言葉は有機体なんですよ。有機体の概念に、立ち帰り、有機体を優に超える。それに調査官のお言葉は、ご自分の感覚だけを元にした疑問ですね。・・でも指摘としては、ある意味で、妥当な部分もあります。」
聡子がうっすらと、ほほえみながら言った。
子どもをやさしくたしなめる母親のようだ。
こういう余裕を感じさせる表情も、聡子に接する人間に「この人には敵わない」と感じさせる一つの要素だったかも知れない。
「人型ロボットの利点の一つは、人間の兵士用に作られた武器をそのまま流用出来る事ですね。マシンガンもバズーカも手榴弾もなんでも扱える。戦争はロボットだけでやっているワケではありませんからね。ロボット専用の装備をなんでもかんでも新たに作って詰め込んでいたら、今までの武器資産が無駄になる。それに人間が直接身につける武器以外に、固定台座式の武器も、ある程度の大きさなら、この子のボディに組み込む事も出来ます。、、でも大きすぎるものは想定していません。そういう大きなものが戦場に必要なら、戦車とかに積めばいい。そういった理由で、ロボットボディには、あまりボディに特化した装置や兵器を詰め込まない方がいいんです。スリムで拡張性の高い形状がいい。、、で、貴方が仰っている突出部分は、多分、多機能メッシュの事でしょうね。例の口の悪い研究者達は、多機能カルビとも言っていますが。」
聡子はホワイトの胸の部分を指さした。
色が白銀であるという事だけで、随分その印象も違う。
レッドの場合は、胸の生皮を引き剥がされた跡と言った感じだったが、こちらは複雑な装飾模様のように見えた。
「あれは胸部に収められたパーツをカバーするためのものではありません。今はあの形状に収納されていますが、ある機能の一部なんです。適合する対象機器が外にあれば、あれ自体が展開して、対象をその内側に取り込みます。胸の中の半分は、何というか、、取り込んだモノを組み入れる為に確保された拡張性のある空洞、いいえ、小さな工場です。暴走が起こった時はこの機能の最終調整をやっていたんです。口で説明しても判りにくいでしょうね。やって見せましょうか?」
聡子は、悪魔憑きの言葉を出さずに「暴走」と言った。
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