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第2章 悪魔を狩る刑事達

08: 彼らなりの鑑識と傘男君

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 赤座に伴われ歩き始めて数分後、守門の前に、再び簡易フェンスが現れた。
 二人は、そこに設置された扉を開け、「現場跡」に踏み込んだ。
 外郭と更に内側という形で、二重にフェンスが設けられていたのだ。
 時間が間に合えば、警察はここにコンクリート塀を作りたかったに違いない。

 外からは判らなかったが、驚くべき事に、港内道路を含む広大な敷地の上空全てに、天幕がかけられていて、中の空間は、照明の乏しい室内のように薄暗かった。
 そして視界の及ぶ範囲全てに、この天幕を支える支柱が、あちこちに起立しているのが見えた。
 大規模すぎる、事件現場保存のありようだった。

「すまんが、そのテーブルの上にある防護コート一式を身につけてくれ。なに自分も着るから、それを真似てくれればいいんだ。」
 赤座が言うように、簡易扉を入ったすぐの場所に折りたたみ式の長机があり、そこに半透明のビニールで作られたレインコートの類の衣服が沢山積み重ねてあった。

「二重のフェンスの設置といい、あの天幕といい厳重ですね。これだけの広さなのに、よくやったものだ。」
「もちろん普通の事件では、ここまでしないよ。それに、ここから先は、自分たちが移動して良い範囲というか、通路だけに、目印テープが貼られてある。徹底した現場の保持と分析の為だな。科研はあらゆるデータを徹底採取して、ここのバーチャル空間を捜査用に再現するつもりでいるらしい。、、そういう、事件なんだよ。」
 赤座は靴の上に靴下状のカバーを付けながら言った。

「これで防護マスクを付けたら、事件現場というより汚染処理、、」
 そこまで言いかけた守門は、赤座が示した微妙な反応の表情を見て取って口をつぐんだ。

「鑑識班と一緒の一回目は、防護マスクを付けさせられた。警察は、まだこの手の事件に慣れていなんだ。誰が悪魔憑きなんて信用する?鑑識を始めとして、大方の警察関係者は、こういった異常なケースでも、科学的な分析や解釈が出来ると思っている。、、いや、そう信じたいだけかもな。」
 赤座は最後の仕上げに、頭に被った透明フードを眉の上まで引き下ろして、守門の用意が整うのを待った。

「赤座さんは、どうなんです?どうせ、この事案を悪魔憑きと認定して、その方向で処理し始めたのは、上の人達なんでしょう?鳥の会から、僕にゴリで命令が下りてくる時は大体そうだ。」
 赤座を先頭にして、二人は幅1メートル程を確保した地面の上の黄色いテープの通路を歩き出した。

「俺はこれがオカルト事案だって信じてるさ。傘男君のいうお堅い頭の雲上人達が、これは超常事案だって、わざわざ認定したんだぞ!」
 冗談好きの赤座が、そう笑いながら答えるまで、少し間があった。

「それにイヤと言うほど、こういうのをこの目で見てきたからな。又、そういう自分だからこそ、広域捜査特殊課のキャップに任命されたんだと思ってる。だが、こういうのを、信じたくないという他の警察の人間達の気持ちも良く判る。」

「・・つまりエクソシストの僕は今、警察の縄張りを荒らしてる。赤座さん流に言うと、お前が縄張り荒らしなら、俺は警察にも鳥の会にもいい顔してるコウモリ野郎だ、ってわけですね。」
「ほう。傘男君も少しは、世の中の事を判るようになったんだな。青白い顔してたあの時とはえらい違いだ。」
 今度は赤座の渋い顔が一瞬に破顔した。

    ・・・・・・・・・



「・・・死体を片付けたんですか?」
「ん?片付けた?、、そうか、確かにそう見えるよな。」
 港中心部構内のあちこちに、横倒しになったバイクや転がったライフル、薬莢、血だまり、破損し横転した車、焦げた地面、果ては驚くべき事に壊された重機関砲まで見受けられた。
 しかし、守門が言うように、肝心の死体がなかった。

「でも、そこに転がってる散弾銃を良く見ろよ。」
 言われたままに、守門は黄色いテープのギリギリの所に落ちていた散弾銃を、かがみ込んで観察した。
 引き金の部分に、肉片の塊がこびり付いていた。
 人間の人差し指とその上部が、実に綺麗に切り取られた形でそこに残っていたのだ。
 メス?散弾銃を握り込んでいだ手を、メスを使って切断した?死体を持ち去る為に?どうやって?
 だから、悪魔憑きの仕業?
 いやそんな単純な事では「歌う鳥の会」は動かない。

「死体を片づけた奴は、あまり神経質な性格じゃなかったようだな。あちこちにそんな忘れ物がある。」
 これだけの殺戮をしでかした犯人、あるいは犯人達が、現場から死体を片付けた、そう赤座は言っているのだ。

「、、、なるほど。で、殺された人達って、一体何者なんです?散弾銃やサブマシンガンとか、当然、普通の人間じゃないですよね。」
「そうだった。まだ事件の概要も、説明してなかったな。」
 赤座は自分の両目の間を揉むように摘んだ。
 表面には出さないが、相当疲れているようだった。

「普通、帳場が立つと事件の名前が付くモンだが、今度のは例外でな。まあそれでも、警察の仲間内じゃ、これをベイ・ギャング大量殺人事件って呼んでる。何のひねりもないが、極めてシンプル、で、全てを言い現している。ただ犯人が見えないだけだ。」

「ベイ・ギャング?」
「元は、この廃港跡に住み着いた単なるゴロツキ共だったんだがな。どこでどう化けたのか、今じゃ立派な犯罪者集団、自分たちでは(闇の船)という、いわくありげな名を名乗っていた。もちろん周りの人間にとっちゃ迷惑至極な、港に巣くうゴロツキ、只のベイ・ギャングに過ぎない。今以上に、勢力が拡大する前に、市警が壊滅を目論んでいたんだが、何処かの誰かさんに、見事に先を越されちまった。まっ、逆に言えば、この事件を、一般市民の目から隠蔽するのには、とても便利な状況だったがね。ギャング同士の抗争で済む。そっちの面では、自分も気が楽だ。」
「随分な事を言いますね、、。」

「まあな。奴らのやって来たことを見りゃ、その死を臭い物に蓋みたいな感じで隠蔽しても、誰も文句は言わないと思うぜ。奴ら、ヤクに殺しに、なんでもありだったんだ。そんな奴らの生きた痕跡を隠蔽という形で自分らがそっと拭いとってやってるんだ。それで、世の中の平穏の一助になるなら、こっちの隠蔽活動は、奴らの死に手向け花をそえてやった様なもんだよ。」
 赤座のこの辺りの犯罪者に対する非情さは相変わらずだと、守門は思ったが、昔のようにその事に反発するような青さは、今の守門にはなかった。

「さあ、あれだ。今から入るのは、こいつらのネグラだったんだが、今は、ひでぇ事になってる。」
 二人は巨大な蒲鉾形の煉瓦倉庫の前にいた。
 守門は思わず鼻を押さえる。
 臭気が猛烈だった。
 外にいてこれだから、内部が思いやられた。


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