61 / 64
第7章 我が故郷 思い出のグリーングラス
61: 非情の判断
しおりを挟むスタジアム内のフィールドに飛び込んだカブは、一直線にゴライアス・ジャベリンに向かった。
カブへのスタジアムからの機銃掃射は、アレグザンダーが予見したとおり圧倒的に少なくなった。
その代わりに、機関砲を搭載したジープがスタジアムの建物の影から数台飛び出して来て、カブに攻撃を仕掛けて来た。
雷は弓を使うことが出来なくなっていた。
カブの操縦に専念する必要があったからだ。
「がんばって!ゴライアスの側まで寄せてくれたら、後は私がなんとかするわ!」
リプリーが雷に向かって叫んだ。
「どうやって乗り込むんです?鳴を一緒に行かせましょうか?」
「馬鹿にしないでよ!君たち、ゴライアスの始動の仕方も知らないくせに!それにこの坊やが今、バリヤーを解いたら、その途端にマッキャンドレスは蜂の巣よ!」
「、、すげえ女だな。」
雷は呆れたように小声で言った。
「今、なんか言った!?」
「いえ、今、ゴライアスの運転席の側にカブを寄せます。あいつら、流れ弾がゴライアスに当たるのを避けてか、銃撃が鈍ってる。今がチャンスだ。」
雷は追跡してくるジープをうまくかわしながら、ゴライアスにカブを寄せた。
「リプリーさん!お願いがあるんだけど!」
「何、坊や?」
「僕らのカブも、ゴライアスで面倒見てくれないかな?」
「ゴライアスの収容能力の事が良く判ったわね!坊や!」
「だってあれ、ごつく見えるけど、基本的には運搬車両なんでしょ?」
「私が乗り込んだら、直ぐにゴライアスの収納庫の扉を開いてあげるから、その時にカブ毎飛び込みなさい。ただし、ヘマしたら置いていくわよ!」
「何、ごちゃごちゃ言ってる!着いたぞ!」
雷の叫び声と同時に、リプリーがサイドカーから飛び出し、ゴライアスの運転席横に取り付けてある昇降用の金属梯子に飛びついた。
そんなリプリーの背中を、ゴライアスを遠巻きにして停止したジープから一人の兵隊が立ち上がり片付けしたライフルでねらい撃ったが、それを鳴のバリヤーが弾き返す。
雷はカブに乗ったまま再び弓を使い始めた。
最初に矢に当たり、昏睡したのは、さっきリプリーを狙った兵士だった。
「引け!奴らと少し距離をあけろ!」
一台のジープからそんな指示が飛んだが、その時には半分のジープの搭乗員が雷の矢の餌食になっていた。
「雷、カブの運転を変わるよ!雷はアレグザンダーをゴライアスへ!」
「よしきた!カブを頼むぜ!」
雷はカブから飛び降りると、サイドカーから降りたばかりのアレグザンダーを、抱きかかえるようにしてゴライアスの金属梯子に飛びつき、一気にゴライアスの運転席へ転がり込んだ。
「そろったわね!行くわよ!あの坊やは待たなくていいんでしょ?」
「ああ、カブを収納庫に入れ終わったら、こっちに飛んでくる。」
「正確に言うと、ここに飛んでくるのは、あの坊やの精霊石とやらね。」
リプリーがゴライアスの操作パネルのあれやこれやを流れるような指捌きで押し込んで行くと、最後にアクセルと思えるものをふんだ。
認証式の始動キーが採用されているようだ。
確かにこれだとアレグザンダーが言っていたように、雷などゴライアス奪取には手も足も出なかっただろう。
重量感のあるゴライアスが前に進み始める。
「ふぇーっ!もう少しで収納扉に挟まれそうになった!リプリーさんって、ほんと情け容赦もないね!」
鳴が青い顔をして運転席に姿を現した。
「泣きを入れるのはまだ早いわよ!これからが本番なんだから!」
リプリーが言った通り、今までいたジープの代わりに戦車が3台フィールドに出てきた。
超大型戦車が1台、残りの2台は同型で、機動性を高める為か、やや小振りだった。
「心配しないで、こけおどしよ。奴らはゴライアスが積んでるミサイルが、自分達の攻撃で誘爆しないか怖れてる。主砲なんか間違っても使わないわ。気を付けるべきは、火炎放射器よ。」
「確かに小さい方の2台からは、それらしいノズルみたいなのが突き出てるな。」
「蒸し焼きにされちゃかなわないわ。雷君、あなたそれを何とかして!私はその間に、このスタジアムを出る方法を考える。」
「なんとかするって?」
「雷君、弓矢を使うんだ。君の腕なら、銃口でもなんでも、戦車に開いた穴を狙って、矢を打ち込めるだろ。それで戦車の中の奴らを眠らせればいい。」
めずらしくアレグザンダーが口を開いた。
「それが駄目なんだよ。睡眠剤の矢はもう使い尽くした。もうファイヤービーンズを仕込んだ火矢しか残ってない。」
「だったらそれを使って!」
リプリーがハッキリ言った。
「戦車の中が丸焼けになる。」
「あなた知らないでしょうけど、今の戦車はね、そういう事に対処出来るようになってるの。暫くの間はね。だから効果を上げるために第二第三の矢も、間を開けずに打つのよ。その時間で、戦車から逃げるかどうかは、その人間の判断。それとも指をくわえて、火炎放射器でここで蒸し焼きになりたい?貴方、何をしにここに来たの?ここは戦場よ、違うの?」
リプリーは操作盤から目を離さず、それだけを言った。
「判った、、。窓を開けてくれ。外にでる。」
雷は開いた窓から、運転席のトップルーフの上に移動して、仁王立ちになると弓をつがえた。
それと同時に2台の内の一台が、火炎放射器らしきノズルをゴライアスに向け始めていた。
雷の火矢がなんの躊躇もなしに、その戦車に飛んでいく。
続いて雷は、走り続けるゴライアスの上から、もう一台の戦車にも矢を放った。
ややあって一代目の戦車の非常ハッチが開き、搭乗員たちが黒煙と共にまろびでてくる。
だが2台目からは出てこない。
雷は2台目に向けて2の矢をついだ。
『出てこい!こなけりゃ、今度はホントに焼け死ぬぞ!』
雷が第3の矢を放とうとした直前に、2台目のハッチが開いた。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる