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第7章 我が故郷 思い出のグリーングラス

61: 非情の判断

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 スタジアム内のフィールドに飛び込んだカブは、一直線にゴライアス・ジャベリンに向かった。
 カブへのスタジアムからの機銃掃射は、アレグザンダーが予見したとおり圧倒的に少なくなった。
 その代わりに、機関砲を搭載したジープがスタジアムの建物の影から数台飛び出して来て、カブに攻撃を仕掛けて来た。
 雷は弓を使うことが出来なくなっていた。
 カブの操縦に専念する必要があったからだ。

「がんばって!ゴライアスの側まで寄せてくれたら、後は私がなんとかするわ!」
 リプリーが雷に向かって叫んだ。
「どうやって乗り込むんです?鳴を一緒に行かせましょうか?」

「馬鹿にしないでよ!君たち、ゴライアスの始動の仕方も知らないくせに!それにこの坊やが今、バリヤーを解いたら、その途端にマッキャンドレスは蜂の巣よ!」
「、、すげえ女だな。」
 雷は呆れたように小声で言った。

「今、なんか言った!?」
「いえ、今、ゴライアスの運転席の側にカブを寄せます。あいつら、流れ弾がゴライアスに当たるのを避けてか、銃撃が鈍ってる。今がチャンスだ。」
 雷は追跡してくるジープをうまくかわしながら、ゴライアスにカブを寄せた。

「リプリーさん!お願いがあるんだけど!」
「何、坊や?」
「僕らのカブも、ゴライアスで面倒見てくれないかな?」
「ゴライアスの収容能力の事が良く判ったわね!坊や!」

「だってあれ、ごつく見えるけど、基本的には運搬車両なんでしょ?」
「私が乗り込んだら、直ぐにゴライアスの収納庫の扉を開いてあげるから、その時にカブ毎飛び込みなさい。ただし、ヘマしたら置いていくわよ!」

「何、ごちゃごちゃ言ってる!着いたぞ!」
 雷の叫び声と同時に、リプリーがサイドカーから飛び出し、ゴライアスの運転席横に取り付けてある昇降用の金属梯子に飛びついた。
 そんなリプリーの背中を、ゴライアスを遠巻きにして停止したジープから一人の兵隊が立ち上がり片付けしたライフルでねらい撃ったが、それを鳴のバリヤーが弾き返す。

 雷はカブに乗ったまま再び弓を使い始めた。
 最初に矢に当たり、昏睡したのは、さっきリプリーを狙った兵士だった。

「引け!奴らと少し距離をあけろ!」
 一台のジープからそんな指示が飛んだが、その時には半分のジープの搭乗員が雷の矢の餌食になっていた。

「雷、カブの運転を変わるよ!雷はアレグザンダーをゴライアスへ!」
「よしきた!カブを頼むぜ!」
 雷はカブから飛び降りると、サイドカーから降りたばかりのアレグザンダーを、抱きかかえるようにしてゴライアスの金属梯子に飛びつき、一気にゴライアスの運転席へ転がり込んだ。

「そろったわね!行くわよ!あの坊やは待たなくていいんでしょ?」
「ああ、カブを収納庫に入れ終わったら、こっちに飛んでくる。」
「正確に言うと、ここに飛んでくるのは、あの坊やの精霊石とやらね。」
 リプリーがゴライアスの操作パネルのあれやこれやを流れるような指捌きで押し込んで行くと、最後にアクセルと思えるものをふんだ。

 認証式の始動キーが採用されているようだ。
 確かにこれだとアレグザンダーが言っていたように、雷などゴライアス奪取には手も足も出なかっただろう。
 重量感のあるゴライアスが前に進み始める。

「ふぇーっ!もう少しで収納扉に挟まれそうになった!リプリーさんって、ほんと情け容赦もないね!」
 鳴が青い顔をして運転席に姿を現した。
「泣きを入れるのはまだ早いわよ!これからが本番なんだから!」
 リプリーが言った通り、今までいたジープの代わりに戦車が3台フィールドに出てきた。
 超大型戦車が1台、残りの2台は同型で、機動性を高める為か、やや小振りだった。

「心配しないで、こけおどしよ。奴らはゴライアスが積んでるミサイルが、自分達の攻撃で誘爆しないか怖れてる。主砲なんか間違っても使わないわ。気を付けるべきは、火炎放射器よ。」
「確かに小さい方の2台からは、それらしいノズルみたいなのが突き出てるな。」

「蒸し焼きにされちゃかなわないわ。雷君、あなたそれを何とかして!私はその間に、このスタジアムを出る方法を考える。」
「なんとかするって?」
「雷君、弓矢を使うんだ。君の腕なら、銃口でもなんでも、戦車に開いた穴を狙って、矢を打ち込めるだろ。それで戦車の中の奴らを眠らせればいい。」
 めずらしくアレグザンダーが口を開いた。

「それが駄目なんだよ。睡眠剤の矢はもう使い尽くした。もうファイヤービーンズを仕込んだ火矢しか残ってない。」
「だったらそれを使って!」
 リプリーがハッキリ言った。

「戦車の中が丸焼けになる。」
「あなた知らないでしょうけど、今の戦車はね、そういう事に対処出来るようになってるの。暫くの間はね。だから効果を上げるために第二第三の矢も、間を開けずに打つのよ。その時間で、戦車から逃げるかどうかは、その人間の判断。それとも指をくわえて、火炎放射器でここで蒸し焼きになりたい?貴方、何をしにここに来たの?ここは戦場よ、違うの?」
 リプリーは操作盤から目を離さず、それだけを言った。

「判った、、。窓を開けてくれ。外にでる。」
 雷は開いた窓から、運転席のトップルーフの上に移動して、仁王立ちになると弓をつがえた。
 それと同時に2台の内の一台が、火炎放射器らしきノズルをゴライアスに向け始めていた。
 雷の火矢がなんの躊躇もなしに、その戦車に飛んでいく。

 続いて雷は、走り続けるゴライアスの上から、もう一台の戦車にも矢を放った。
 ややあって一代目の戦車の非常ハッチが開き、搭乗員たちが黒煙と共にまろびでてくる。
 だが2台目からは出てこない。
 雷は2台目に向けて2の矢をついだ。

『出てこい!こなけりゃ、今度はホントに焼け死ぬぞ!』
 雷が第3の矢を放とうとした直前に、2台目のハッチが開いた。


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