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第7章 我が故郷 思い出のグリーングラス
58: 雷のB案、アレグザンダーのB案
しおりを挟むシェルターに戻った雷達は、輸送起立発射機強奪プランについて徹底的な論議をした。
雷がプロテクを通して見た光景は、データ化されているからホログラム化が可能で、彼らの前に投影されたそれが、論議の材料になった。
その論議の根底は、計画実行までに時間を掛けないということだった。
望遠鏡世界の穴を塞ぐのは、早ければ早い方がよかったからだ。
しかも今なら、軍は全く外敵に対する危機感がない。
警備網は分厚かったが、それは今までの習慣と積み上げから来るものに、過ぎなかった。
「なあ、このまま話を煮詰めるのは結構なんだが、私にはずっと引かっている点が一つあるんだがね、その点を今ここで説明してくれないか?」
アレグザンダーが我慢しきれなくなったように言い出した。
「なんだよ。後ろ向きの話なんか聞きたくないぜ。あんたの安全については配慮するって言ってるだろ。こっちは、あんたがずっといてくれれば有り難いが、無理強いは出来ない。アンタがこの件から外れるポイントに条件があるなら、それを今すぐ言ってくれ。」
「そうじゃないんだ。いや、それも多少あるが、私が言いたいのは、それより、もっとこの計画に関わる重要な疑問だ。」
「だから早く言ってよ、アレグザンダー。」
鳴がじれたように言った。
「あの出入り口の幅の事だよ。あれはきっちり2メートルしかない。あの輸送起立発射機を通過させるのは無理だ。」
「その事なら俺達も考えた。精霊石の力を使う。これと良く似た状況で、精霊石が力を発揮した。おそらく、俺達の精霊石は、全ての場や空間に対して影響力を持っているんだと思う。」
「それを鳴君がやるのか?」
「いや、俺がやる。」
「だったら考え直した方がいい。私の考えでは、鳴君でも、あの幅を広げるのは難しいと思っているが、君がやるなら、もっと無理だ。」
「あんた、精霊石の力を信じてないのか?」
「いや、知ってるよ。その石の力は、向こうでいやと言うほど見てきた。我々の常識では信じがたい魔法じみた力を発揮する。だけど、その力は、向こうの適合者によって引き出されるものだ。、、雷君は、鳴君の事がホントに理解できているのかね?どうやって、こうなったのか想像も付かないが、鳴君は、今や一種の自我を持つ人工知性の領域に達しているぞ。その鳴君だから、精霊石が使いこなせるんだ。言っちゃ悪いが、君では精神の雑味が多過ぎて、精霊石を使いこなせない。君は人間的過ぎるんだよ。」
「解ってるよ、そんな事は。でもあの爺は、俺に精霊石をくれたんだ。それに鳴は、俺の方が大きな力を引き出せるって言ってるんだ。」
雷とても、特に自分が精霊石を使うのにふさわしい人間だと思っている訳ではない。
「アレグザンダー。雷は過去に一度精霊石を使ってるんだよ。数十人の竜人を、一気に吹き飛ばしたんだ。なんの練習もなしにね。それにあの爺ちゃんが、使えもしない人間に、精霊石を渡すと思う?」
鳴がとりなしに入った。
「、、、、、それはそうだが。」
「イザとなったらミサイルだけを取り出して運び出す。あの重量なら、鳴が精霊石で動かせるだろう。撃ち込む時もそうするさ。それなら問題ないか?」
雷はそこまで考えていた。
「ああ、無茶苦茶だがね。一応可能性のある、B案だ。」
アレグザンダーは呆れたように言った。
「じぁ、次の話だ。あんたは、俺達にこの計画の根本的な問題点を指摘した。だから俺からもあえて言わせて貰う。あんたが、あの奴隷村にいるという協力者、、そうジャンヌ・リプリーって女だ。そのリプリーが、必ず俺達に協力してくれるって保障が何処かにあるのか?俺達が、やろうとしてるのは、協力の約束を取り付ける為に、数ヶ月かけてもいいみたいな悠長な話じゃないんだぞ。第一、交渉の為に、何回もあの奴隷村に忍び込めるなら、俺達は、もっと楽に、この計画を進められる。」
「多分、彼女の性格なら、この話しに乗ってくれると思う。彼女は、ERAシステムズのアマゾネスって呼ばれていた女性だ。地上走行兵器のチームを任されていた。正義感に溢れ、度胸がある、そして何より聡明だ。」
「それはあんたの希望的観測だろ。そして、リプリーと渡りを付けるのは俺達じゃない、あんただ。断られる可能性も、あるんじゃないのか?」
「、、、ああ、あるよ。その時は、この計画はやり直しだ。アプローチを変える。いいか?私達じゃ絶対、あの輸送起立発射機を運び出せない。ミサイル一本だって取り外せない。操作方法が、まるで判らないんだからな。」
「ふざけるな!なら言ってやる!俺が考えてる、リプリーに関してのB案をな。」
雷が色めき立った。
「リプリーが俺達への協力を断ったら、その首元に刃を突き立てでも言うことをきかす。身体毎かっさらい、俺達についてこさせる。」
「なんて酷いことを!」
「最後まで聞け!あの出入り口を通って、向こうの世界に出られたらリプリーは送り返してやる。軍の奴らは、俺達がリプリーを強制的に働かせているのを見ている筈だから、彼女には、それ程酷い仕打ちはしないだろう。あんたの話では、軍にとっても色々と役に立つ女らしいからな。」
「、、、そこまで、考えてるのか?」
「当たり前だ。俺達は、あんたみたいに、自分が何もしないで済む理由を、ことある毎に考えてるような人間じゃないんだ!出来そうにもないことでも生き延びるために、目的を達成する為に、出来ることを絞り出し、それを実行してきたんだよ!」
その言葉に、アレグザンダーの顔が蒼白になった。
雷は、なにげに放った自分の言葉が、思わぬ所でアレグザンダーの急所を打ち砕いたことを知った。
その理由は判らなかったが、雷の言葉のどれかが、アレグザンダーの存在の急所をぐらつかせたのだ。
「、、すまん。許してくれ。ちょっと言い過ぎた。別に俺は、あんたを貶めようと思って言ったわけじゃない。」
「いや、いいさ。君の言った事は正確な指摘だ。、、実に正しい。リプリーについても、君のB案でいい。私は私なりに彼女への説得に全力を尽くす。、、、さあ、話を次ぎに進めよう。」
それからの話し合いは実にスムースだった。
特にアレグザンダーが雷に話を合わせたという事もなく、細かな問題点も幾つか挙げられ、それらは前向きな解決策が考え出されていた。
そして各人が、明日に予定された実行計画に合わせて準備をし、就寝についたのだった。
ただ雷は、この奇妙な話の成り行きに、どこか気持ちの落ち着かないものを感じていた。
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