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第6章 アレグザンダー・スーパートランプの世界
55: テロメア解
しおりを挟む「ありがとうアレグザンダー・スーパートランプ。これで経緯がよく判った。ますます頼みやすくなったよ。」
雷は素直に自分の思い口にした。
「頼む?頼むってなんの事だ。」
アレグザンダーが不安げに言った。
「いや待ってくれ、その話の前に、もう一つ教えてくれないかな?さっきの話で、あんたがERAシステムズの科学者か技術者だって事はハッキリした。何故か、あんたはその詳しい所を口にしたくないようだが、それはそれでいいんだ。でもあんたが、ERAシステムズに昔からいたんなら、寒舌、いやカーンタンって奴の事を聞いたことはないかい?それ、俺にとっちゃとっても重要な事なんだよ。」
「カーンタン?知ってるよ。会ったこともある。」
その返事に雷は思わず身を乗り出し、鳴がその雷の腕をやさしく押さえた。
「カンターンは、ERAシステムズのプロテク部門が三顧の礼をもって迎え入れた人物だ。当時、ERAシステムズは、プロテク開発に力を入れていて、プロテクを社の三本柱の一つにしようとしてたんだ。思い切って言うが、当時、生体兵器部門だった私は、ある時、上からそのカンターンに協力するように言われたんだ。後で判ったんだが、どうやら私を指名したのは、そのカンターン自身だったらしい。」
アレグザンダーのいう「思い切って言う」は、彼が生体兵器部門だった事で、カンターンの事ではないようだった。
アレグザンダーは、カンターンについてほとんど思い入れがないらしい。
「奴とは、どんな関係だったんだ?」
「関係と言われてもね。2・3回個人的なセッションをしただけで、実務的な事は何もせず、私達は別れた。というよりも社が彼を解雇した。解雇するにあたって、社は彼に多大な契約違反金を払ったと言われているよ。」
「奴は一体、何をしたんだ?」
「さあね、よく判らない。その内容も知らされていないんだ。とくかく社は、カンターンという人物に対して大変な見込み違いをしていたと言うことだ。しかし、プロテクとは部門が違う私でも、社がそうしたのはなんとなく判るよ。彼は、大変な神秘主義だったからね。」
「神秘主義者?」
「そうだ、普通ならプロテクを製作する際は、その中に入る人間の事を考えるだろう?所が彼の場合はそれが逆だった。プロテクいう器自体に意味があって、人間はその付属品のようだった。つまり彼が、私を呼んだのは、人間をいかに効率よくプロテクの付属品として使えるかって事を、私と相談したかったわけだ。」
「言ってる意味が良く判らないんだが、、。」
「私だってよく判らないさ。ただあの時に受けた印象を、今喋ってるだけさ。そうだな、感じとはしては、耕起に良く似てるな。耕起が起こってから、ある種の人間は、耕起は人間の進歩、いや地球上の知的生命体の進歩をリセットする為に発生したと考えてる。馬鹿な話だ。耕起で計り知れないダメージを与えられたのは人間であり、他の世界の知的生命体の方だろ。それなのに何故、耕起の意志などと言うことを勝手に考え、それに自分たちを捧げるような生き方をしなくちゃならないんだ?カンターンの場合は、その耕起に該当するのが、プロテクのようだったな。プロテクは、人間を理想の存在に変容させるものだ、そんな風な事を、言葉の端々で言っていた。ただ、彼のプロテク開発の技術や発想の凄さは、尋常じゃなかったのも確かだ。社はその結果に騙されて、そして途中で彼のヤバさに気がついたって事さ。彼にプロテクの製作を任したら、凄い製品はいくらでも生まれるが、それは、生命軽視の思想から生まれる結果だ。きっとそのまま生産ラインに乗せていたら、ユーザーからクレームの嵐が来ていたに違いない。人間に限らず、大企業だって、欲をかきすぎると、普段は見えてるものが見えなくなるって事の見本みたいな話だよ。」
「、、、もしかして、あんたとカンターンとの会話の中で、テロメア解って言葉が使われなかったか?」
「言ってたよ、カンターンがね。」
雷の顔が蒼白になる。
「テロメア解ってどういう意味なのかな?」
鳴が雷の代わりに、質問を続けた。
「それも判らないね。彼の造語だったんじゃないか?テロメアは、俗に『命の回数券』とも呼ばれいてるものだけどね。だから普通に考えるなら、テロメア解とは、寿命を延ばす方法だとか、不老不死の答えって事になるんだが、彼の場合はそうじゃないようだったな。つまり何故、テロメアみたいなものが、生命に存在するのか?生存する為に生まれた生命が、なぜ死に至るタイマーを、元からその身体に埋め込まれているのか?そっちの方の答えだと思うよ。そういう感じで、カンターンは、テロメア解っていう言い回しをしてたように思う。」
「それ以外の事は、、?」
「知らないよ、最初に言ったけど、確かに私はカンターンと会ってるし、それなりの話はしたが、私自身、彼をうさんくさい人間だと感じてて、深くつき合いたくもなかったしね。実際、社が直ぐに彼を首にしてる。私と彼との関係はその程度で、これ以上は、他人様に語れるような事はなにも出てこないよ。なんだか君の様子を様子を見てると、それがとても重要な事であるのはよく判るが、事実にないことは話せない。」
「、、いや、いいんだ。気にしないでくれ。カンターンって男が、実際にテロメア解って言葉を口にした事が判っただけでも、俺にとっちゃ、大収穫なもんでね。」
雷が考え込むように言った。
「ねえ雷、もう話の方をあっちに進めていいかな?ああいう話って、一気にしちゃった方が良いと思うんだよ。」
鳴が話の方向を変えようとしたのは、雷の精神状態が不安定になったのを見て取ったからだった。
「あっちの話ってなんだい?どうも君たちの話は、要領を得ない。それに私はかなり私の個人的な事情を話した積もりだけど、君たちの方は、全然じゃないのか?いや、イェーガン老の元にいたことや、精霊石を授けられた事だけで、君たちは充分信頼に値する人間だとは判ってはいるんだが、、。」
何処までも人の良いアレグザンダーは控えめに不満を口にした。
「だからそれを、これから説明しますよ。」
鳴は沈黙したままの雷の代わりにそう答えた。
「いや、ちょっと待ってくれ。そういいながら結局、君たちは私に何か、とてつもない事を押しつけようとしてるんだろ?そんな感じだ。」
アレグザンダーが怯えたように言った。
「半分、当たってるよ。スーパートランプ、、、。確かにそれはフェアじゃないな。そうだな、、、それじゃ最初に、あんたから、俺達に対する疑問を言ってくれ。それに答える形で、これからの話を進めるよ。」
雷はアレグザンダーの空になったグラスに酒を注ぎながら、そうゆっくり言った。
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