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第6章 アレグザンダー・スーパートランプの世界
50: 不適切なシェルター
しおりを挟む途中、雷が警戒していたような何の罠もなく、アレグザンダーをサイドカーに乗せたカブは、彼の案内によって都市の最深部まで辿り着いていた。
移動中のカブから、ほど遠くない位置に、巨大な台形の施設が見え始めた頃、『ここだそうだよ』と、アレグザンダーが言った。
位置的には、台形施設の麓という事になるのだろうか、半分崩れかけた巨大倉庫の中へ、雷は言われるままにカブを進めた。
「ここでちょっと待ってくれ。入り口を開けてくる。」
「入り口な、、ここは何もないぜ。空っぽ倉庫のど真ん中だ。下手なことはするなよ。丁度、この弓で、人の身体を的にした試し撃ちをしたかった所だ。」
雷はアレグザンダーに脅しをかけるが、もちろん本気で言っているわけではない。
「いいから、任せようよ、雷。アレグザンダーって、ホントにカブに乗ってる間中、楽しそうだったじゃん。ある時なんか、うっとり目を瞑ってたんだぜ。気持ち悪かったけど。」
鳴のその言葉に顔を真っ赤にしながらアレグザンダーは、黙ってサイドカーから降り、更に倉庫の中央まで歩いて進むと、懐から何かのカードを取り出し、それを空中に高く掲げた。
その途端、彼の背後にある床が二つに別れ、左右に大きく開いた。
「さあこっちだ!カブごと来てくれていい!」
アレグザンダーが雷達を手招きしながら、割れたばかりの床の中に入っていく。
そこは、割れた床の横幅のまま、緩い坂道になっていた。
内部を照らす照明も、左右の壁に埋め込まれているようだった。
低速で侵入して来たカブが、自分に近づいてくると、まってましたとばかりにアレグザンダーがサイドカーに飛び乗る。
「この坂道をすこし下ると、やがて平坦になる。そこが地下へのエレベーターになってるんだ。いつもはもっと小さなエレベーターを使うんだが、それだと、このサイドカーはちょっと入らない。」
「一体、どこに行こうとしてるんだ?」
「行き先は、ERAシステムズ本社専用のシェルターだよ。」
アレグザンダーが言ったとおり、しばらく進むと坂道が平坦になり、そこでカブを駐めると、床毎、降下し始めた。
同じエレベーターでもここは輸送用のものなのかも知れない。
床面積でいうと大型輸送トラックが10台ほど止められそうだった。
「一企業の核シェルター?従業員が働いてる最中に、核が落ちてくるとか、そういう想定か?それとか核戦争になったら従業員の家族は優先的にここに入れて貰えるとか?」
「そうじゃない。ERAシステムズは、軍事産業だ、しかもかなり特殊なね。想像も付かないような色々な脅威にいつも晒されている。その為のシェルターだよ。もちろん核シェルター用にも使える。」
「色々って、バイオハザードとかか?」
サイドカーの舳先に座り込んで、周囲の景色を好奇心たっぷりの目で見てた鳴が聞いた。
「そうだね、そういうのも色々な脅威の内の一つだ。」
「当然、ここはERAシステムズ関係者以外の、この辺りの住人にも門戸を開いていたんだろうな?」
雷は自分が思っている逆を聞いた。
「いいや、ここの存在はERAシステムズ関係者しか知らない。そんな事を公表したら評判も落ちるし、誰もERAシステムズには寄りつかなくなるだろう?ERAシステムズは、自分を取り囲む都市と人々を必要としていたんだ。悪の巨大軍事企業なんて今日日流行らないからね。ERAシステムズが求めているのは世界平和だ。、、一応、ERAシステムズは公益事業に分類されている。」
「糞が!で、それを知ってるあんたも、ERAシステムズ関係者だって事だな?」
「、、、、。」
雷のその問いにアレグザンダーは応えなかった。
エレベーターから降りたカブは、やがてシェルターの居住区らしきエリアに入り込んだ。
「ねえアレグザンダー。どうして、あちこちに銃の跡とか、壊れた所があるの?ここシェルターなんでしょ?」
鳴はもう、アレグザンダーに対してタメ口をたたいている。
「それは俺も気になっていた?どういう事だ?」
「耕起直後に、ERAシステムズ内部で反乱が起こったんだよ。主な首謀者は、ERAシステムズ社の私軍司令官だ。」
「ERAシステムズが企業軍を持っていたというのは聞いたことがあるが、本来、ERAシステムズの手足に当たるはずの企業軍が、その雇い主に弓を引いたのか?」
「ああ全ては、耕起のせいだ。あれが普通の天災なら、こんな事は起こらなかった筈だ。あれがこの世界を根底からひっくり返してしまった。ERAシステムズが、力を持っていたのは、商売が出来る相手、いやこれは生易しい言い方だな、戦争を必要とする世界があったからだ。あの耕起は、それさえもひっくり返してしまった。残ったのは、直接的な弱肉強食の世界だ。それをいち早く見通したERAシステムズ軍は、一気にERAシステムズ社を制圧した。その時点で現存・稼働する全ての兵器をERAシステムズから全部かっさらったんだ。それで終わりさ。で軍は、念入りにも、このシェルターも二度と使えないように壊していった。奴らはERAシステムズ社の武器以外の遺産を全て捨てて、新しく自分たちの帝国を作ろうとしたんだよ。軍事的に評価すれば、彼らが常時駐屯してた軍事ベースが、どこらかみても完璧だったが、彼らはソレさえも放棄して二度と使えないようにしていった。」
「下克上か。漫画みたいだなと言いたい所だが、嘘じゃなさそうだ。耕起を境に、そんな馬鹿げた事や、それをやる糞野郎共は実際嫌という程見てきたからな、、、で今、この都市を支配してるのは、そいつらか?」
「そうだ。私がこの世界を捨てた時には、それでも旧私設軍と市民暴徒との激しい闘いがあったが、こっちに帰ってきたら、完全に彼らがこの世界を支配していた。生き残った都市市民は、今や旧軍の奴隷扱いで一箇所に集められている、、、さあ着いたよ。今夜は嫌な事は忘れて、ここで寛いでくれ。シェルターの監視システムや何やらは、この私が修理したし、奴らは、ここの存在なんか、もうとっくの昔に忘れてる。」
彼らはシェルター住居区の中でも、かなり大きな居住ブロックに到着した。
「さあ、ここだ。よく知らないが此処は、住人達の小集会所、、いや多分、派手なホームパーティみたなのをシェアする為に作られたブロックなんじゃないのかな。豪勢なものだろ?いかもにも隆盛を極めたERAシステムズが作ったシェルターらしいよ。別に私は、こんなのが好みじゃないが、正直言って狭いのがちょっと苦手でね。それに損傷も他と比べて少なかったから、ここを自分の塒にしたのさ。ああ、ここの扉は凄く幅が広いからね。そのままカブで室内に入ってくれ。多分、パーティ用の色々なものを電動カートで運び込むつもりで、そんな仕様にしたんだろう。、、馬鹿が極まってたんだろうな。絶滅前の恐竜と一緒だよ、図体ばかりが大きい。」
そう言ったアレグザンダーは、ERAシステムズ社を、相当憎んでいるようだった。
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