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第6章 アレグザンダー・スーパートランプの世界
49: アレグザンダー・スーパートランプ
しおりを挟む「今日は叔父さん。そこで何してるの?」
鳴の声かけに男は驚いて、手にしていた双眼鏡を取り落としそうになった。
当然だろう、男に声を掛けてきた少年は、先ほどまで双眼鏡の中にいたのだから。
「えっ!?いや、別に何も。」
男はその場から逃げ出そうと身体を逆に向けたが、そこにも、先ほどまで双眼鏡の中にいたもう一人の青年がたっていた。
「おっさん。別にって、事はないだろ?ずっと俺達の事を、その双眼鏡で見てたんだから。」
雷がニヤニヤしながら言った。
今の雷は、脱いだヘルメットはもちろんプロテクの頭部インナーシェルは収納してあるし、上下ともプロテクの上に、皮の衣服を着ているから、それほど異様なスタイルではない。
『普通の中年』に絡むのには、ちょうどいい位だと、雷は場違いな事を考えていた。
それくらい、目の前の男は「闘争」のオーラからほど遠い人物だった。
年のころなら40代前半、あるいは意外に若くて30代なのかもしれない。
老けて見えるのは、男が痩せてひょろ長かったからだ。
長年の苛烈な生活が、この男からすっかり贅肉を削ぎ落としてしまったのだろう。
「俺は雷。そっちは鳴だ。あんた、名前はなんて言う?」
「、、、、アレグザンダー・スーパートランプ。」
男は一瞬何かを考えた上で、口ごもりながらそういった。
「はぁ?、、まあいいや。でスーパートランプ、もう一度聞く。あんた何で、俺達を盗み見してた?」
「きっ君たちが、あの出入り口から、こっちにやって来たからだ。」
「って事は叔父さん、僕らがこっちに来た時から、僕らをずっと見張っての?」
鳴が驚いたように言った。
埠頭から、このガンショップまでかなりの距離がある。
そこを低速とはいえ、カブで移動していた雷達を、この男は徒歩で追尾していたと言う事になる。
ただ車が通れるような道は少ないのだが、瓦礫に埋まった道は沢山あって、逆に徒歩でなら、土地勘のあるものなら近道を使う事は可能だと思えた。
「別に、君たちを目当てに見張ってた訳じゃない。私が見てたのは、あの出入り口そのものだ。私は毎日と言って良いほど、あの出入り口に、異変が起こらないか観察してるんだ。」
「ふーん、こいつは驚いたな。こっちにあの出入り口の事を知ってる人間がいるなんてな。って事は、おっさん、もしかしてあんた、向こうに行った事があるのか?」
「ああ、行った。数年前の事だ。ひょっとして、あんらたらも、その人の事を知ってるかも知れない。長老イェーガンには向こうで随分世話になった。」
「えーっっ、吃驚ー!この叔父さん、僕らの先輩だよー!」
鳴が素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと待て鳴。その話に入る前に、一つ確かめておきたい事がある。おっさん、この世界では、あの出入り口の事を何人知ってる?」
「あれを最初に見つけたのは私だ。いや見つけたと言ったが、偶然発見したんだ。それから後、出入り口を他の誰かが見つけたかどうか、私には判らない。けれどアレが現れてから、数年経つ。私以外の誰かが知っていてもおかしくはないかも知れないな。、、、とにかく、今の私の状況では君の問いには答えられない。」
雷は男のその答である程度、安心した。
他の世界に害意を持って侵略を試みようとするのは、何も「アノ生き物たち」だけとは限らないからだ。
特に「人間」には、そういう傾向がある。
下手をすると、この世界への入口も封鎖する必要が出て来るかも知れないからだ。
この男の持って回った口ぶりを総合すれば、『自分以外であの出入り口を使った人間を見たことがない』だ。
雷も、あの透明な出入り口はそうやすやすと、人には感知できない筈だと思った。
「、、、あんた、色々なものから逃げ回っている感じがするもんな。そういう言い方、判るよ。普段は隠れてて、あまり姿を現さないんだろ?違うか?それと、そうだとすれば、この世界には、あんた以外の人間も大勢いる。どこかにな。」
「逃げ回ってる、、、君は名探偵か?だが気分は悪いが、君の言った事は当たってるよ。」
男は拗ねたように言った。
とりあえず自分の相手が、脅威を及ぼす者ではないことが判ったのだろう。
たとえば雷は別にして、鳴の姿形からは、悪意のアの字も感じられない筈だった。
「気を悪くするな。俺は別に探偵気取りで、推理して見せたわけじゃない。これは俺の今までの経験値で言ってるんだ。それにここに来るまで誰にも会わなかった。ここじゃもう、独立して自分の生活を送れてる人間が、残ってないって事だよな。そんな中で、おっさんあんたは自由に、こうやって動き回ってる。たいしたもんだよ。」
「ふん。世辞でも嬉しいよ、でもそう言ってくれるんなら、今後、私の事をおっさっんと呼ぶのは止めてくれないか?私はさっき、名前を名乗っただろう?」
「つけあがるなよ、おっさん。誰がアレグザンダー・スーパートランプなんて、信用する?」
「もう耕起後のこの世界では、元からあった名前なんかに意味はないんだ。私はアレグザンダー・スーパートランプだ。スーパートランプが嫌なら、アレグザンダーと呼んでもいい。」
男は引かなかった。
偏屈な性格らしい。
「だったらアレグザンダーでいいじゃん、雷。とにかく、お互い相手が危険な人間じゃないって事が判ったんだから、どっかに行こうよ。このままずっと、此処で立ち話してるつもり?」
鳴がいつものように仲介に入った。
「あんた達、サイドカー付きのバイクに乗ってただろう?もしあれに私を乗せてくれるんなら、私の隠れ家に、あんたたちを招待するよ。」
アレグザンダーが思い切ったように言った。
「どういう魂胆だ?あんた、俺達を見つけて、ずっと後を付けてきたんだ。それなりの脚力があるって事だろ。俺達を信用してくれるのは有り難いが、自分の住み家に、泊めるなんてヤバイだろうが?俺なら絶対そんな事はしない。なんでそんなリスクを冒してまでして、カブに乗りたがる?」
「言っても判るまい。、、純粋に、乗り物に乗りたいんだよ。、、、人と一緒に乗り物に乗らなくなって、もう随分、経つんだ。」
「、、、。」
雷は、それを言った時の男の表情を見て、もうそれ以上、何も言えなくなってしまった。
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