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第5章 ギガンティック・ウォーズ Over the rainbow
46: 雨に歌えば 闘いの号砲
しおりを挟むついに俺はBeekyを掴まえた。
Beekyも俺に馬乗りになられた事で抵抗を諦めたようだ。
それはそうだろう。
これほど俺との接着面が多ければ、俺の高周波ブレードの振動一回で、奴は灰燼と帰すのだから。
奴はそれが判っている筈だ。
だが俺には奴をしとめる前に、やるべき事が一つあった。
Beekyの正体を突き止める事だ。
俺は「悪魔のマリア」のヘルメットに手をかけた。
こいつの外部からの強制脱着の方法は、マナングから聞いて知っている。
左右への決まった回数の回転と、首筋に隠されたリセットボタンの押下だ。
メットが外れると同時に、フシューと空気圧が再調整される音が聞こえた。
「、、、虹、ねぇ、、。」
ヘルメットの下から、俺が今まで見た事のない姉の顔が現れた。
・・・もし姉がアクメの表情をしたら、、、。
俺は自分の恥ずかしい思いを振り切るようにして、「なんだ?!一体どうして、、。」と喚いた。
そして自分も、又、ヘルメットを被ったままなのを思い出して、収納さえもどかしく、無我夢中でそれを取った。
「ライ、、、ライ、おまえなの、、、。」
虹姉の手が優しく伸びてきて、俺の首筋から後頭部をなぜた。
その途端、俺は空中に投げ飛ばされていた。
プロテクが自動反応していなければ、今頃、俺の首はもぎ取られていただろう。
虹姉と俺は、素顔をさらしたまま、獣のように姿勢を低くして向かい合った。
お互いのヘルメットは、4から5メートル先に転がっている。
互いの手の内を知った今では、先にそれを被った方が勝つと思えたが、ヘルメット装着時は無防備になる。
チャンスは拾い上げる時と、装着する時の二回。
虹は、戦いの興奮のあまりうれしそうに舌なめずりしている。
汗で頭にぺったりとくっついたショートカットの髪がたまらなくエロチックだった。
その髪が少しだけ揺れた。
風が吹いたのだ。
恐ろしく甘ったるい臭いが、風下の俺の元に運ばれてきた。
虹の体臭と口臭に違いなかった。
「!!!虹ねえ、薬でも打たれてるのかっ!?」
「ふん!!どこまでもアマちゃんだね。」
虹が先に動いた。
俺は、虹のヘルメットに飛んだ視線に誤魔化されていた。
俺が、右手に転がっている虹のヘルメットと、虹がいる位置を結ぶ直線に体を開いたとたん、虹はまっすぐ俺に突っ込んできた。
一瞬の事だったが、その差が戦いの帰着を決める筈だった。
虹のプロテクで強化された跳び蹴りが、一直線に俺の無防備な顔を狙ってくる。
避けられない。
最後の手段である腕に仕込まれた超振動フィンをMAXに作動させて、虹の攻撃を、その脚ごと粉砕するしかなかった。
だが素顔を晒した虹は、弟であるこの俺が、その反撃をためらうだろうと読んでいるのだ。
しかし俺のプロテクは、「直結」されていた。
その直結先は、俺の上部意識ではない。
それは生理的な部分に、あるいは生命体としての基底部分に繋がってる。
俺は、遅れてコンマ数秒の後、姉の右脚が霧のように膝小僧まで粉砕されるのを、目の前で見る事になった。
失速して地面に落ち転げ回る虹を見て、俺は奇妙な事実を発見した。
俺が心ならずも、すり潰してしまった虹の脚の傷口からは、血が一滴も流れ出していなかったのだ。
さらに虹は苦悶の声さえあげない。
「足りない、、足りない、、駄目だ、、まだ逃げるんじゃない、、いけるぞ、、、そんなことないよ、足りないんだ。足りないんだよ。」
虹が自分の顔を掻きむしり始める。
虹に屈み込んで、それを止めようと出した俺の手が凍り付く。
虹の顔が、まるで作り物のマスクであったかの用に引き剥がされた。
顔のあるべき部分から飛び出して来たのは、無数の得体の知れない虫だった。
蛭のような形をしたもの・ムカデのような多足虫、うねうねと動くミミズのようなもの、硬質で異様な外骨格に覆われた甲虫、それらがなんと、でたらめな身体の部位から透明なトンボのような羽根を生やし、「虹の頭部」という巣から飛び出していったのだ。
俺は吐いた。
そして、膝をつき、涙を流しながら吐瀉し続ける俺の体をかすめるように「擬態するもの達」は、夜空に逃げ去っていった。
その様子は、まるで空洞のプロテクから立ち上る煙のようだった。
「擬態するもの達」は、虹の頭部だけではなく、虹のすべてを構成していたのだろう。
「擬態するものたち」を吸い込んだ夜空は、まるでそのお返しだと言わんばかりに、大地に大粒の水滴を落とし始めた。
それはやがて、土砂降りの雨に変わった。
俺はずぶ濡れになりながら、姉のプロテクににじり寄った。
プロテクの首があったあたりに、姉の頭部の皮と髪が裂けて、雨に打たれながら地面に張り付いていた。
雷は姉の人面をつまみ上げて、それを裏返してみた。
単純に皮をはいだのではないことが判った。
人間の筋肉組織や脂肪層が残されている部分があった、だがそれらの表面は、奇妙になめされており、小さな穴が無数にあいていた。
あいつらは、この穴に潜り込んで姉の顔を動かしていたんだ。
そして注意深く見ると、プロテクの首の部分の穴には、細長い筒状の筋肉組織が残っていた。
その他に細かな肉や筋肉の残滓、、、声帯だ、、、。
奴ら、これを使って、しゃべっていたんだ。
俺は再び吐いた。
だが胃の中の内容物はすでに空っぽだった。
Beekyは、姉のプロテクのヘルメットを狙った訳じゃないんだ。
そのヘルメットの下の虹の首を持ち去ったのだ、、、。
そしてBeekyの中身は、人ではなかった、、。
それで全ての辻褄が合う、、、。
・・・・だが誰だ?、、誰があのBeekyに俺の姉を食わせたんだ。
俺は、虹ねえの顔に頬をすり寄せ「復讐」を誓った。
そして裂けた姉の顔を自分にかぶせて、夜空を仰いだ。
俺はその顔で、雨の降りしきる天に向かって吠えた。
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