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第5章 ギガンティック・ウォーズ Over the rainbow

42: 復讐プラン

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「すみません、、あなたの仰っている意味が、判り兼ねるんですが、、。」
「実はな、、これからあんたに言う事は、儂自身がやろうと考えていたことなんだ。」
 マナングは、目の前の鈍い銀色の偶像の分厚い胸筋の部分に手のひらを当てながら、言葉を続けた。

「君はいろいろと調べ回っているようだが、Beekyを探し出すのは造作もないことだ。囮を使えばいいんだ。奴は己の欲望を抑えられない。いいプロテクを見つけたら、必ずまたそれを襲おうとするだろう。そして奴に勝てばいい。それで済むことだ。違うかね?」

 俺は衝撃を受けた。
 実に単純な答えがそこにあった。
 そして同時に恥じた。
 小さな子どもでも判るような方法を思いつかなかったのは、いや論外のものとして扱ってきたのは、自分自身の保身の為だったのだ。
 俺こそが、俺の姉への愛を立証するために、死なねばならぬ男だった筈なのに。

「プロテクは儂の命だ。たとえ返り討ちにあって死のうとも、若い女性を守りきれなかったという、この汚名を着たまま生きていても、それは生きた事にならない。というよりも、これを乗り越えなければ、もう儂は、新しいプロテクをつくり出す事が出来なくなってしまう。Beekyを倒す。これが虹の死を聞いてから、儂がずっと悩み考え、導き出した結論だよ。それに儂には、このプロテクでなら、奴には負けない自信がある。だがアンタと会えた。アンタがその気なら、アンタにこそ、復讐の権利があるんだ。それに、、、。」
 マスターの狂喜じみた表情が少し曇った。
 そしてライは、この老人が、ライの姉の事を始め「君のねえさん」と呼び、後になってすぐ虹と呼び捨てになった事に気づいていた。

「それになんです?」
「あんたは格闘技の天才だと虹から聞いている。虹が言うんだ、間違いないだろう。だったら、あれを試してみる。あれをやれば、追いはぎサイコ野郎が、どんな化け物でもあんたは勝てる。」
 ・・・あれって何だ?
 それにさっき、儂には自信があると言ったはずだぞ、爺さん、、。
 復讐に命をかけるのを惜しむ気はないが、勝算のない戦いはしたくない、儂にはそのぶん生き延びた命で、別の手段を試みる事が出来る。って事なのか?

「Beekyが、際限なく強くなるのは、何故だと思う?」
 雷は再び驚かされた、この老人は雷と同じ疑問を持っていたのだ。

「奪ったプロテクの装備交換や、ソフトの解析もあるんだろうが、実力が伯仲すれば、そんなものはたかが知れている。、、リミッターだ。儂は、奴がプロテクのリミッターを取り外しているんだと思う。」
「プロテクのリミッターをはずす、、自殺行為だ、、。」
 つくづく驚かせられる老人だった。
 こんな発想は誰もしないだろう。

 リミッターがプロテクに施される理由はいくつかある。
 プロテクという半ば人型ロボットじみた存在と、その中にいる生身の人間の相互の影響を緩和するために設けられたのがリミッターだ。
 プロテクと人体は、相互フィードバックシステムによって補完されている。
 それがプロテクの核だ。
 リミッターはその中に設けられている。

 プロテクの一番重要な部分は、筋力倍加度数や外骨格強度ではない。
 その人体シンクロ用のフィードバックシステムこそが重要なのだ。
 だがその元になる基準値はあくまで人体側にある。
 現在最高水準とされているプロテクは、プロテクに与えられた衝撃、つまり「痛み」を半減させて、中にいる人体に伝える機能を持つ。

 「無痛」では、まともにプロテクは動かない。
 その機能ゆえに、プロテクの戦闘能力は飛躍的に伸びたのだ。
 だがそれは本来の「ダメージと痛みを遮断する」プロテクターの本質からは、逸脱した機能だとも言える。
 ようはそのバランスだった。

「自殺行為?普通の人間ならな。だが戦争蟻症候群にある人間は、自分の肉体の損傷、いや死さえもその本能から欠落させているんだ。もしそいつがリミッターをハズして、プロテクを稼動させる技術を持っているとしたら、、。」
「それは直結のことを言っているのですか?」

 直結、、、痛みが直接伝わってくる、その代わりにプロテクのレスポンスは飛躍的にはやくなる。
 もっと早くしようと思えば、神経相互交流回路にブースターを付ければよい。
 痛みは実際よりも強く伝えられるが、それに耐える事ができれば、人はスーパーマンになれる。
 だが「事実」として、人間は「戦闘ロボット」にはなれない。
 そして何よりも問題なのは、直結をした後、プロテクを脱いで「人間」に戻れた奴はいないという事だ。
 プロテクに直結した人間が、それを脱いだ時、元の人間に戻れると言うのは虫の良い話だった。
 麻薬被害と同じ事だ。

「そうだ、、、直結だよ。表面上はね。」
「あなたは、僕にこのプロテクを直結して装着しろと、、。」
「いや、儂の技術は、直結の可逆を可能にする、、、筈だ、、、。それに表面上と言ったろう。厳密には、直結じゃない。」
「筈?つまり戻すとこには、完全な自信がないってこと?」

「儂のカラダで試してみる積もりでいた。ハッキリさせとこう、、。あんたがやるなら、あんたは実験台だ。儂には自信はあるが、確実でない事は、絶対大丈夫だとは言えない。そういう事だ。それに使えるプロテクは、この一体しかない。」
 マスターは、そこで言葉を切って俺の表情を見た。

「、、、まあいい、考えて見てくれ、、。追い剥ぎ野郎は、いずれ又、やるだろう。儂は自分の仕事が今の所、この業界で一番だと思っているが、、もしかしたら、どこかの工房のプロテクが追い剥ぎ野郎を返り討ちにする可能性だってある、、。」
「、、考えさせてください。」

 俺が躊躇したのは、もちろん「死」を怖れたからだ。
 だが俺が怖れるその死は、現実の死ではない。
 直結解除に失敗すれば、際限のない強い痛みを忘れる為に、自分の目の前に立っている、このプロテクと融合して生きなければならない。
 そうだとしたら、、それは又、それで新しい形の「死」なのだ。
 俺には、その形の「死」に耐えられるだろうか、、。
 戦いに勝ったら、その後の俺は、もう自死など出来る気力は残っていないだろう。

 「討ち死に」は出来る。
 それには自信がある。
 だが目的を成し遂げたあと、自殺出来るほど俺は強くない。
 それは俺自身の今までの生き方から、充分過ぎるほど判っている事だった。

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