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第3章 竜との旅

38: 虹色竜、飛ぶ。

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 人は見慣れない生き物には警戒心を持つ。
 ましてや、巨大な爬虫類などは概念的には理解していても、それが実際に目の前にいると、相当な恐怖を覚えるだろう。
 具体的に言えば、鰐やオオトカゲの類だ。
 更にそれが、30倍程の大きさを持っていたらどうだろう。
 つまり、恐竜、あるいは伝説上の竜。

 それがいた。
 ただ、この生き物は、奇妙な知性の輝きを、鱗と鎧で包み込まれた筋肉の塊の様なその身体全体に漂わせていた。
 暗い洞窟の中で蹲るその姿は、思案に暮れる賢者のようでもある。

 先程から護の左手が、何かに共鳴する様に疼いてる。
 この疼きは、レズリー・ローが護を救出した時、虹色竜と共に、自分の内部世界で異界の叫び声を聞いたという、その事の逆の現れなのか、、、。

 護が搭乗するマーコス LM500の横に、虹色竜が翼を畳んで蹲っていた。
 一人のリペイヤーに、一つの特異点への進入路・これが常識の筈だった。
 今、護の為に用意された進入路に、虹色竜とレズリー・ローがいる。

 単にいるだけではなく、これからローは、護の内部世界に侵入しようとしているのだ。
 護は、前回と同じように、レズリーが、護の内部世界と彼女の内部世界が接触する場所で、あるいはお互いの世界のほころびを通過して、二人が合流するものだと思いこんでいた。
 それに、護には、『この虹色竜は他人の進入路を通過することが出来るのだろうか。』という疑念があった。
 何もかもが、初めて尽くしだった。

「何か不安を感じてるようね?この穴は俺のだ。二人で同時に突っ込むなんて不可能だ、、そんな感じ?」

 ローはテレパシー能力でも持っているのだろうか、運転席のフロントパネルに埋め込んである無線通話機からそんな声が流れ出る。

 それも不思議だった。
 生体移動ディバイスである虹色竜から、どんな電波が出力されているというのか。
 ローは今、虹色竜の胸の中にいる筈だった。
 そこは、どんな操縦席なんだ?
 恐竜の肋骨や内側から見える肉や脂肪、内分泌液などが見えるのか?

「若いくせに頭が固いのね。自分が、初めて他の世界から来たリペイヤーに助けられた人間の第一号だってのに、その事実を未だに信じられないの?」

「あれは、内部世界の出来事だろ。ここは現実世界から特異点に向かう進入路の中だ。ここじゃまだ、現実のルールが生きてる筈じゃないかって、そう考えてた、だけだ。」

 護は自分でも馬鹿な事を言っていると思った。
 それを言い始めるのなら、自分の乗っているマーコスLM500にしても普通の車のように動く筈がないのだ。
 作られたのは、こちらの世界でも、マーコスLM500の作動原理は特異点の科学力によるものだ。

「じゃ、この虹色竜をどう説明するの?この子は、純粋にメイドイン特異点なのよ。いいから、ついてきなさい。論より証拠、百聞は一件にしかず。あら、このことわざあってるかしら?」

「ちょっと待ってくれ、今なんて言った?」

「え?ことわざのこと?」

「違うよ、ついてこいって言ったのか?」

「そうよ。私が先導するわ。」

「先導って、これから行くのは、俺の内部世界だぞ。」

「だったら護、あなた、向こうに行ってからの救出ルートの目星がついてるの?」
「、、、。」


 虹色竜が、その太く長い首を曲げて、マーコスLM500を振り返った。
 マーコスLM500のフロントガラス一杯に、虹色竜の顔が広がる。
 真ん丸の目の形、金色の虹彩、口の裂け目に収まりきれない尖った歯。
 それでもこの生き物には、知性があるのが判った。
 その知性は、護に何かを促しているように見えた。

 次に虹色竜は、ずしりとした恐竜の動きで、護の移動ディバイス・マーコスLM500の前に回り込むと、今度はその蝙蝠のような翼を大きく広げ、疾走し始めた。
 トンネルの天井を覆い隠すような巨大な翼の皮膜は不思議な燐光を放っている。
 思いがけず速く、しかも凄い迫力だった。
 どんどん虹色竜は、マーコスLM500から離れていく。
 やがて虹色竜の脚がトンネルの地面から離れた。
 飛んだのだ。

「ゲッコ!!」
「心配いらん。ローについていけ!」

 古い馴染みの管制官のゲッコなら、レズリーの所行を自分と同じように否定的に見てくれると思いこんでいた護は、その言葉に軽いショックを受けた。
 総ては、折り込み済みなのだ。
 一人、置いてけぼりを食らっているのは、つい最近まで外界の警察組織に出向していた護だけだった。

 とにもかくにも護は自分の内部世界に突入しようとする虹色竜についていく為に、マーコスLM500のアクセルペダルを踏むしかなかった。







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