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第6章 輪廻転生する神々の星、浄土/ウマーの鎧とバビロン
過去という現在.49: ジグラトの戦い
しおりを挟む思わぬ抵抗を見せたGに、ハギスと二人で迎え撃つつもりになったイーダは、彼らのアジトであるバビルの塔の教会に舞い戻った。
そのイーダを、背の高い木製の椅子に腰掛けたままのハギスが悩ましげな表情で出迎えた。
「なんだ?どうした?」
ハギスは、黙ったまま自分の視線でイーダを祭壇に導いた。
「ちっ!勿体ぶりやがって、、。俺に犯されてアンアン啼いてたやがったくせに、」
祭壇の床には、浄土の影響で室内全体を覆っている緑の蔦に、渦紋が全身を絡め取られ横たわっていた。
思ってもいなかった成果を見せられて、思わず良くやったと、ハギスを褒めてやりたくなったイーダが、かぶりを振る。
『褒めるだって?こんな場面をKに見られたら、それこそ、その場で奴に取って喰われちまう。浄土を離れてから、俺はまったく、どうかしちまってるぜ。』
「Gの様子を見てきた。まだあの服に馴れていないようだぜ。それにあの厄介な大蜘蛛も居なかった。渦紋もこうやって揃った事だし、後はまあ何とかなるだろう。」
「ああ、、。」
ハギスの気のない返事が返ってくる。
「ッ、まったく愛想のない男だぜ。」
吐き捨てるように言ってイーダは、渦紋の側に屈み込んだ。
渦紋は色を失ってまるで石像の様だ。
「おい、息をしてないぜ。殺しちまったのか?」
「いや、奴はピンピンしてるよ。死んでる様に見えるだけだ。」
「そうかい、安心したぜ。死んだものは人質には使えないからな。」
「そうだ、死んだ者は人質には使えない。」
ハギスは意味有りげに、イーダの台詞を繰り返した。
Gはパイプ内を上昇しながら、実際に様々なエネルギーの放出の仕方を試してみた。
出力部分が両手の鈎爪しかないということを除けば、実に応用範囲が広いエネルギー出力能力を、ウマーの鎧が持っている事が判った。
『もしかすると、ホンシドゥはとんでもない勘違いをしたのかも知れないな。これは鎧なんかじゃなくて、もっと違う別の機能を持つ別の何かなのかも知れない。』
Gは上昇しながら両手を高く掲げ、指先を力一杯広げた。
鈎爪がGを捕らえている重力を断ち切るのが判った。
Gの身体が一気に急上昇していく。
こうしてGはサイコキネシスとは違った原理で、数分後にバビルの塔の最上階に到達する事が出来た。
二つの生命体反応を目印に、Gがその部屋の床をぶち抜いて現れた時、ハギスとイーダがGを待ち受けていた。
ハギスはGの登場に不可解な表情を見せる。
祭壇に屈み込んでいるイーダは自信に溢れた声で言った。
「ほう、随分予定より早かったじゃないか?だが、パーティの用意は出来てるぜ。そら今夜のホストだ。」
イーダが屈みこんだ姿勢で、緑の蔦に包まれたものの一部を引き上げた。
そこには青白い渦紋の顔があった。
「渦紋さん。どうしてここに?!」
Gは悲痛な叫び声をあげた。
「麗しい御対面だな、G。渦紋がおまえの可愛い顔をもっとよく見れるように、その仮面を取ってやりな。」
Gの反応を楽しむようにイーダはゆっくりと喋る、その鷲の鈎爪は渦紋の顔にしっかり食い込んだままだ。
イーダは無論、Gが生身の顔を外気に曝したとたん、Gのシールドを遥かに上回るエネルギーを放射してくるだろう。
「はやくその仮面を取れ。このまま渦紋がくびり殺されるのを見たいのか?」
ごそりと大蜘蛛がGの下腹部で動めいて、肩に駆け昇って来る。
大蜘蛛は予測できない時に、予測できない人間を殺す。
このままでいけば、この「人質ゲーム」にけりを着けるのは、この大蜘蛛だろう。
「渦紋さんをこちらに渡してくれ。代わりにこの大蜘蛛をやる。それで僕の戦闘能力は半減する。知っているだろう?渦紋さんを貰ったら、僕は大人しくここを出て行く。」
「おまえは、条件をつけられる立場じゃない。」
「いや、僕には渦紋さんが既に死んでいる様に見える。気はまだかすかに残っているが、生命反応がない。死体と交換ならば文句はあるまい。死体じゃないと言うのなら、証拠を見せてくれ。」
イーダはGの申し出を暫く吟味していた。
『Gから大蜘蛛を引き離せば、必ず勝てるとは言えないが負ける事もない。大蜘蛛を飼い慣らす事が出来れば、、Gも倒せるし、今後の役にも立つ。ここは浄土の影響を受けている。やってやれない事はないはずだ。いや、駄目だ。こんな場面でドジるのは、最初の計画を途中で変える奴だ。』
迷った、だが答えを出した。
仲間に対する功名心がイーダの背中を押したのだ。
「ハギス、渦紋をおこしてやれ。お前が眠らせたんだろう。Gが渦紋の声が聞きたいとさ。」
「いや無理だ。渦紋は、すでに死んでいる。」
「なにぃ!おまえ、さっきは生きていると言ったじゃないか?」
イーダの四つ嘴が興奮の余り、総ての嘴をカツカツと音を立てながら開いては閉じた。
「無傷で捕らえようとしたのだが、思ったよりも抵抗が激しくて殺してしまった。生きていたように見せる為に、私が気を送り込んだ。さっき嘘を付いたのは、本当の事を言えば、おまえが怒るからだ。」
ハギスは無表情に答えた。
途端にイーダは、渦紋の傍らからハギスの元に転移した。
イーダの大蜥蜴の尻尾が、ハギスの座る椅子を粉砕し次にハギスを巻取ってしまう。
同時にGは祭壇の渦紋の元に跳んだ。
「なんの真似だ、イーダ。この後に及んで同志討ちか?」
イーダの尻尾に締め上げられながらハギスが苦しげにうめいた。
「何時までもとぼけてるんじゃないぜ。渦紋よ。この鷹目鷹脚のイーダ様を騙しおおせると思うか!」
イーダの尻尾の先端の毒針がハギスの頭頂部分に打ち込まれる。
するとハギスの巨大な身体の外皮が溶け崩れて中から渦紋の姿が現れてきた。
「どうやってハギスに化けた?」
「下らぬ事を!お前らは、自分自身が元は人でありながら悪鬼に変化した身体である事を忘れたか!その哀れな身体を折伏してやったまでの事よ!」
「ふん、下らねぇ!この糞坊主が!」
今度はGに向かって何かを叫ぼうとする渦紋の顔面に、イーダの鈎爪ががしりと食い込んだ。
「これで振り出しだな。G!早く仮面を取れ。」
足元の渦紋と、イーダに捕らわれた渦紋を見比べているGに、懐かしい渦紋の波動が流れ込んで来た。
『その儂の格好をしたハギスに止めを指すんだ。儂では仕留め切れんかった。奴はまだ死んじゃおらん。せめて儂が生きておる間に、奴らを一人でも多く成仏させてくれ。』
Gは混乱していた、今テレパシーを送ったのは本当に渦紋なのか?
あるいはこれら全ては、イーダの高等な幻術なのかも知れなかった。
『何を迷っておる。君の足元に居るのが、本当の渦紋であったとしても、渦紋ならこの状況で恨み事は言わんぞ。』
Gはその言葉を合図にして、足元の渦紋に光球を打ち込んだ。
それが、第一次惑星浄土探査隊Ωスクワット隊長トルーマンことハギスの最後だった。
「見事なチームワークだな。だが状況は何一つ変わっていないんだ。」
イーダは渦紋の肩に突き出ている白濁した結晶体を力まかせにもぎ取り出した。
結晶体は渦紋の肩を離れる時、結合されていた肩の骨と首筋に走る血管や神経組織を持ち去ってゆく。
教会に渦紋の絶叫が響く。
ゴロンと結晶体がGの目の前に投げ出された。
だが、渦紋の無惨にこそぎ取られた肩の断面には、血が吹き出していない。
渦紋の身体修復機能が働いているのだろう。
現象上では明らかに虐待されている渦紋ではあったが、表面下では目に見えない戦いがイーダと渦紋の間には繰り広げられているのだ。
それが証拠に、まだ渦紋の左肩に残っている結晶体はまばゆい輝きを見せている。
「Gよ。はやくその仮面を取るんだ。次はこっちの結晶体をもぎり取るぞ。」
イーダの鈎爪が、渦紋の残された結晶体にかかった。
『渦紋さん、今から僕は鎧を取る。イーダはその時に全てのエネルギーを僕に向けるはずだ。そうしたらすぐに、何処か遠くに転移するんです。』
『何を馬鹿なことを、奴らを倒せるのは君しかおらんのだぞ。君を失っては闘いが続けられん!』
『僕を信じて!』
Gの頭部を覆っている革の全頭マスクが、首元に巻き込まれた瞬間、そこに向けてイーダは己の全てのエネルギーを放出した。
Gが爪の生えた両手を開いて前に突き出し、そのエネルギーを受けた。
同時に渦紋が地上に向けて転移する。
バビルの塔は、イーダ一人を残して跡形も無く消滅し、宇宙にしばしの静寂をもたらすはずだった。
しかしイーダの放ったエネルギーは六メートルほど膨れ上がった時点で、膨張をやめ時間が逆転するかの様に、イーダの中心点に向かって収縮し始めた。
イーダが放ったエネルギーの影響下にあったのは、渦紋に偽装されたハギスの死体とGだけだった。
具体的な破壊目標という方向性を与えられなかった膨大なエネルギーはイーダの元に逆流していく。
そして球形となったエネルギーは、イーダごとどんどん縮んでゆき、やがて点になり最後には消滅した。
Gは自分の破壊エネルギーをイーダにぶつける代わりに、そのエネルギーを使って、イーダの攻撃を逆流させ相手の中に閉じこめてしまったのだ。
それはウマーの鎧の防御能力を外部へ進展し、相手のエネルギーをその相手自身に送り返すという荒技だった。
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