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第5章 輪廻転生の旅/天山山脈を渡る因果
過去という現在.28: 地獄門を焼く
しおりを挟む白竜の前に、血が滴り落ちる白髪頭の生首がゴロンと投げ出された。
「首相、、!」
白竜のうめく様な声。
「そうか、そいつはやはり首相か?あっけない。つまらん小悪党だ。」
再びステージに舞い戻った赤鬼の異形が面白そうに言った。
「ハギスよ、お前が国家国家と喚いていた国家の親玉はこの程度のものだぜ。」
娘に会わせろと最初にニルスに現れカイシェックを殺した異形が、仲間の内の一人に振り返って言った。
「K。もう私にも君の言う事の意味がよく解る。惑星浄土が変身と共に、私に新しい意識を与えてくれた。人間は滅ばなくては、いけない卑しい存在だ。」
ハギスと呼ばれた、全身から蔦を生やした異形が、答えた。
その顔はライオンに似ている。
それでも十二の異形の中では、まだ比較的人間に近い。
「ちょっと気づくのが遅かったな隊長さんよ。まあそれで俺の腕一本分、許してやるよ。もっもと俺はこの新しい腕の方が気に入ってるけどな。」
ステージに帰って来たンパジブが、右腕に生えた肉のアサルトライフルを嬉しそうに持ち上げて見せた。
そんな中、ギラは先ほどから、ニルス天文台の転送システムに自分の意識を集中していた。
取りあえず、異形達がステージ内にいる間に、転送システムを再起動させて、彼らを惑星浄土に送り返すのが、最善の方法だと考えたからである。
赤国首相の首を一瞬の内に、もぎ取ってくるような異形達なのだ。
戦って勝てる相手では、なさそうだった。
・・・・・・・・・
地上では渦紋が本来の任務から予定を変更して、エスパー編成チームにギラと同じ発想の指示を与えていた。
「我々一人一人の転送能力には限界がある。一か八か我々の力をテレパシーで連結して、奴らを宇宙空間に転送してみる。ニルスには及ばんが、それに似た事くらいは出来るはずじゃ。」
「しかし、そんな事は誰もやった事がありません。エスパーがやるテレポートとニルスのそれとは違うものです。それに意識をテレパシーで連結して力を放出したら、我々の人格が蒸発してしまう。」
「それは仮説じゃ。今は使命を大切にする時ぞ。儂は無理矢理でもお前達を繋ぐぞ。お前達は何の為に、その身にウィースムの結晶体を埋め込んだのじゃ?」
ライオン頭のハギスが言った。
「K、誰かここの転送装置を動かそうとしているぞ。」
「ほうハギス、お前も勘が良くなったな。動かそうとしているのは、そこにいるその小僧だよ。それに地上でも渦紋とかいう男が、俺達を宇宙に放り出そうと企んでいる。」
その言葉を聞いて、十二人の異形達のニヤニヤ笑いが止まらない。
この者達には、それぞれ、この動きに対する対抗措置があるのだろう。
それも俊敏にしかも苛烈に。
見抜かれている。
ギラは歯ぎしりをしながら、ニルス天文台の全システムを起動させようとした。
しかし他からの干渉があるのか、システムはギラのコマンドを空読みするだけで、起動する気配がない。
「起動しない。僕の力が通用しない、、。」
ギラは初めて打ちのめされて、すがるように白竜を見た。
「ギラ、、地上でもそうだ。渦紋達は昏倒している。奴らに邪魔をされたか、元から無理だったのか、、、。こうなったら肉弾戦だ。君は奴らのバリヤーが効かぬように、奴らに密着して光球を使え。」
白竜は、重起動スーツのバックパックから高周波ソードを抜き出すや否や、異形達の前列にいた骸骨頭に突進して行った。
同時にギラは、元アイリーンに飛びかかった。
元アイリーンの裸体から、数十本の蛇の形をした触手が浮かび上がり、空中のギラをからめ取る。
起動スーツで倍加されたはずのギラの筋力でも、それを引きちぎる事が出来なかった。
ギラは元アイリーンに手繰り寄せられていく。
「どれ、ヘルメットを取ってみるか。いい男なら儂が犯され殺してやる。女の喜びを男の儂が味わえるんじゃ、嬉しいのう。雌のカマキリが雄を喰らうようじゃのう。ゾクゾクするのう。」
元アイリーンの舌がちらりと覗いた。
舌の表面には緑色の柔突起が、びっしり並んでいる。
蛇の頭の先端を、男性のそれに変化させた触手が、ギラのヘルメットをなぜ回す。
カチリと音がして、ギラのヘルメットが外れて落ちた。
そこに現れたのは見知らぬ男の顔ではなく、老人が惑星浄土で夢みた若々しい頃のミーレイ・グァンジョンの美しい顔だった。
いや、そう見えたのはギラのマインドコントロールか、老人の意識の錯乱か、、。
「おお。なんたる奇跡!犯し尽くしてから、その顔、儂のモノにする。この顔なら若い男がよりどりみどりじゃて。」
その瞬間、元アイリーンに油断が生じたのか、ギラの起動スーツの腕が触手の戒めから抜けた。
ギラは、元アイリーンの顔を鷲掴みにすると、裂帛の気合いを込めて、直接そこに光球を送り込んだ。
中年女の頭部が吹き飛ぶ。
ギラはそれでも攻撃の手を休めず、自分の手を頭部の無くなった首の断面へ押し込むように、光球を送り込み続けた。
その攻撃を受け、ついに元アイリーンは消失した。
渦紋が救急車の中で意識を回復した時、彼に付き添っていたのは、特命全権大使トリュフォーだった。
「、、トリュフォーさんか。儂はまだ死んでおらんようだな。奴らにやられてしまったわ、手も足もでんかった。、、他の者はどうした?」
起きあがろうとする渦紋を押さえながら、物静かに特命全権大使が言った。
「全員無事にとは言い難いが、皆、それぞれの車で待避中ですよ、、。赤国首相が彼らに殺害されたのを見て、連合もとうとうニルスをあきらめ軍事衛星の使用同意に踏み切ったようですからね。」
「そうか、、しかし奴らに火器は通用しないはずだが?」
諦めたように渦紋が言った。
「各衛星から発射されるビームの総エネルギー量は、地球全体の気温を1度上げられると聞いています。全てが蒸発する筈だ。もしそれでダメなら、我々には敗北しかありませんよ。」
「それでも奴らには、桁外れのテレポーション能力がある。」
「今、帰還者達は白竜さん達と戦っているようです。例の『顔無し』と呼ばれる少年が、一人を倒したらしいのです。白竜さん達が戦っている間は、帰還者達の注意も、そちらにそれているでしょう。その間にビームが照射されると思います。」
トリュフォーは十二人の異形達をあくまで帰還者とよんだ。
元アイリーンに外され、床に転がっていたギラのヘルメットから通信音が漏れ出ている。
「黒木さん!こちら李です!ゼタビームがそこに照射されます!連合の奴ら、ニルスにいる人間を見殺しにする積もりだ。早く逃げて下さい!」
この小さな通信音で、所内での戦いが、一瞬止まった。
白竜は自らの重機動スーツでそれを傍受し、ギラと十一人の異形達はそれぞれの能力でそれを聞き取った。
ギラの身体の中心から、太陽の光りが放出され始めた。
ギラ自身が意識してやった事ではないが、その光りは巨大な光球となって膨れ上がって行った。
十一人の異形達は、その目映さに顔を背けた。
その時、宇宙のあちこちから、ニルス天文台に向けてゼタビームが精密照射された。
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